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乙女の翼 〜戦空の絆〜  作者: ソロモンの狐
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瑞穂、上陸ス

ここは惑星リアス、別名『浪漫の星』そしてニューギニア島の都市『リラバウル』の中規模宇宙港。

宇宙港とは言っても陸上にあって大型航空機型が発着する空港スタイルではなく本物の『港』である、なので海に浮かんでいるのは宙航船みたいな海洋船だったり、海洋船みたいな宙航船だったりとややこしい。

下手に乗り間違えれば宇宙へ行ってしまうのだ。

そして着岸している宙航船も宇宙船の癖に、なぜか20~21世紀頃地球の海上を航行していた貨客船そのものの形をしていた、だから周囲の光景にも溶け込んでるし違和感なんて一切仕事してない。

スマートな船体の喫水線以上の上半分と上部構造物は純白で、船体の下半分は黒く塗られている。

ちなみに現在は水面下で見えていない船体部分は赤く塗られていた、これは転覆遭難した際に見つけやすいように海で目立つ赤色に塗装されているらしいが、現代ではそんな事になる訳がないのでこれは単なる復刻塗装的なものだった。

船首の左右には『あるぜんちな丸』と、船名が黒ペンキ風塗料でこれまたクラシカルな書体によって書かれていた。

『着陸』ではなく『着岸』した遠距離中型宙航船『あるぜんちな丸』からタラップが下され続々と乗客が下船して行く。その中でも一際異彩を放っていた下船客が二人いた、一人は大きなボストンバッグを抱えた巫女装束の少女、もう一人は白い日本海軍将校風の制服を着た少年だった。

少女は飛び跳ね喜びを全身で表しながら、少年は少し落ち込んだ様子でトボトボとタラップを降りる。



わたし、綾風瑞穂は遠距離中型宙航船『あるぜんちな丸』からタラップを使い降り立つ。

実に二週間ぶりの陸地、思わず草履を履いた足に力を籠め両の足で地面と人工ではない重力を感じる。

そして胸いっぱいの深呼吸。

「着いた~、やっと着いた~」

思わず声が漏れた。

ここはリアス、地球は遥か遠く亜空間ゲートを使った宙航貨客船でも二週間はかかる、宇宙黎明期の旧地球歴21世紀だったら絶対来られない距離だと思う。

そもそも発見すら不可能だったんじゃないかな?

それを思うと亜空間理論って凄いんだよね、全然理解出来てないけど凄い事だってことだけは分かる。

一応スクールで習ったよ?

寝てなかったよ?

ちゃんと聞いてたけど分からなかっただけ。

でも凄いって事は分かった。

うん凄いって事が分かっていればOK、うんOKな筈。

亜空間理論も凄いけど、目下のテンションをとめどなく押し上げてくれているのは、このリアスの大自然。

ちょっと埃っぽい空気、なんとも形容しがたい匂い、雄大な風景、みんな凄いよっ。

改めて見回してみると目の前には『あるぜんちな丸』が着岸している埠頭と青い海。

港の周りには濃い緑の森、しかも植生が揃ってない!乱雑に好き勝手に生えてるっ!

野生?あれが野生ってものなの!?遠くに見える山も薄っすら煙を上げている・・・山火事っていうヤツかな?でも山火事ってあんな山の頂上からなのかな?

火事になりそうなほど木も生えてなさそうだし・・・

目を凝らして見てみるけど、炎は見えない。

『火のないところに煙は立たず』ってスクールの古典『ことわざ』で習ったけど、あれって嘘だったのかな?

それとも昔はホントに火がなくても煙が出てたのかな?

うーんって悩んでいたら私の隣で同じ様に埠頭からの風景を堪能していたっぽい、白いクラシカルスタイルの衣装を着た男の子がぽつりと

「火山か、道理で空気が悪いはずだ。それにこの潮風・・・まいったな」

と呟いていたのが聞こえた。

心なしか不機嫌そうな声だったけど、私にとってはそんな事より初めて目の当たりにする大地のエネルギーの方が重要だった。

あっ、あれって火山!?火を噴く山?凄い凄い凄い!

溶岩とかいう溶けた岩石が吹き上がったり流れ出たりすると言う活火山、今の地球じゃ絶対にお目にかかれない大地の躍動。

ちなみに何故お目にかかれないかというと、現在の地球では『危なそうな事』は真っ先に対応対象とされるからで発達しすぎた科学技術、特にテラフォーミング技術が発達しすぎたおかげで火山や地震は発生前に処理されて無効化されちゃうから火山の噴火なんてありえない、もちろん天気も気象操作で『安全・安心な地球環境』を守る。

そんな状況だから大規模災害につながりそうな台風や大雪なんかも、地球ではこの500年程記録されていない。干ばつも洪水も大雪も大地震もない平和で住みよい地球なんだけどね・・・

私はこっちの方が気に入った!

うん、こっちの方が生きてるって感じがするもん。

「あれ?さっきの子は?」

見回してみるけど火山の事を呟いていた男の子は既に私の視界にはいなかった、たぶんターミナルビルに行っちゃったのかな?

気が付けば乗船してきた『あるぜんちな丸』からの下船客はもう埠頭にはおらず、代わりに埠頭には自動貨車トラックや軽便鉄道の機関車と貨車が並び始めていた。

『あるぜんちな丸』のブリッジ前にあるデリックが動き始めている、たぶん後部でも同じ作業が始められ上甲板の蓋が開けられて貨物の荷下ろしを始めるようだった。

「凄いなぁ、あれが汽車なのね・・・あっちの自動車って浮いてない⁉」

初めて見る汽車と浮いてない自動車、あれ?自動車なのに人が操縦してるっぽい?

地球じゃ『自動運転するから自動車』って習ったのに、手動操作する自動車?なんか変ね。

そして、わたしの足元にはキラリと光る二つのモノ。

「これがレールかぁ、へ~っ・・・この上をあの汽車が走るんだね」

初めて見るものだらけでウキウキが止まらない、これはマズイ。

でも、必死になって我慢する。

うん、我慢だ。

なにも今日一日で味わい尽くさなくても良いのだ、私には時間がたっぷりあるんだから。

これから始まるリアスでの新しい生活、期限は一生。


私は今日から、このリアスの住人になるのだから。


あ、こんなところでテンションあげてる場合じゃなかった。

え~っと、この後は・・・と

今後の、リアス一日目の予定を思い出す。

今までだったら空中投影式の携帯ウェアラブル端末の表示を見て確認出来たんだけど、ここじゃそんなの使わない。

使用出来ないんじゃなくて使用しないだけ、別にニューテク法にも抵触しないし便利なんだけど、せっかく20世紀の地球気分が味わえるのに、それやっちゃ興覚めだもんね。

『郷に入れば郷に従え』

昔の人は良い事言ってるわ。

だから地球出るときに母様に預けてきちゃった。

メモ用紙と呼ばれるペーパーを懐から取り出し確認する。

「え~っと・・・まずは旅客ターミナル内で移住申請と登録証の発行、それがすんだらアレの受け取りして・・・あ、いっけない早くしないと間に合わない」

今後の行動予定を考えるとそろそろ動かないとヤバい。


少し落ち着いた私は革製のボストンバックを抱えて『旅客ターミナル』と呼ばれている建物へ向かった。





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