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乙女の翼 〜戦空の絆〜  作者: ソロモンの狐
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おにぎり(梅)

ハルゼーさんを電停まで送っていったついでに、ちょっと波止場通りの方まで足を伸ばしてみた。

夕暮れのソロモン海は凪いでいてオレンジ色に輝いていた。

軽く黄昏ていると不意に爆音が響き始める。

見れば波止場の桟橋に係留された、真っ白な飛行艇が四つあるうち、内側の二つのエンジンを始動させたところだった。

「あれは・・・紅蘭さん達のモビーディック?」

今朝見た巨大な四発飛行艇、私の機体を整備してくれた紅蘭さん青蘭さんの二式大艇だ。

夜戦装備機なのかな?

それとも長大な航続距離と滞空時間を生かして一晩中飛んでくるのかな?

純白の機体は夕暮れ色に染まって茜色になっていた。

「綺麗だなぁ・・・ん?」

桟橋から離れた『モビーディック』の色が・・・機体の変わった⁉︎

純白だった機体が桟橋から離れ、止まっていた外側二つのエンジンも始動させた時だった、機首や主翼尾翼の先端から徐々に真っ黒になっていく。

あっという間に真っ黒になったモビーディックは、そのまま滑走を始めてゆっくりと、でも力強く空へと上がっていった。

日没とは反対方向、既に夜の帳が下り始めた空へと飛んでいくモビーディック。

「あんな隠し技を持っていたなんてね」

あれは多分ナノネットワークの応用なんだと思う、純白なのは兼業の時用で《戦空》で出動するときは通常塗装にするか、夜戦仕様も時はあんな風に真っ黒に塗装変更しているんじゃないかな?

反則っぽいけど、飛行中に色を変えなければ『塗り直した』って事でOKみたいね。

気がつけば波止場通りのガス灯にも火が入って辺りを照らし始めていた。

「凄いもの見ちゃったな〜」

少しの間波止場に佇んで、紅蘭さん達のモビーディックを見送った後、家路を急いだ。


夕飯を食べて、お風呂に入って、ちょっと早いかな?と思いながら天日干しして、ふかふかになったお布団に横になって色々考えていた。


そう言えば、昨日リアスに着いてから色んな事があったなぁ。

初めてリアスの空を飛んで、初めての空戦?をして・・・

そのまま夜通し騒いでたんだ、完全に徹夜してたんだなぁ・・・

どうりで、ねむい・・・はず、だよ・・・

私はそのまま深い眠りに落ちていった。



翌朝、私は日の出と共に目覚めた。

すりガラスの向こうからチュンチュンと小鳥のさえずり。むくっと身体を起こしてぐーっと伸びをする。

「んぁ・・・おはよう」

昨晩はぐっすり眠った、夢も見ないくらい深く眠った、おかげで寝起きはバッチリだ。

木製の窓を開けて朝一の澄んだ空気を胸一杯に吸い込む、目の前の電線に三羽小さな茶色の鳥がとまってチュンチュン言いながらコッチを見ていた。

「おはよう、あなた達も朝早いのね」

小さくて地味な色の鳥だけど、愛嬌があって可愛いなぁ。

あ、首を傾げたりしていよいよ可愛い。

しばらく愛でいていると、三羽の小鳥は私に飽きたのか、どこかへ飛んで行っちゃった。

「さてと、どうしよう」

今日は第一週の金曜日、フリー戦の週末だからそろそろ『クエスト』というのをやってみるか、それとも今週は見送ってお店の方に精を出すか?

《戦空》は観光産業でもある訳で、だからこそ週末は『クエスト』の数も増えるし観客数も多い、その分配当金も増えるので身入りも良い。

師匠曰く

『お店は程々にね、貴女の本業は戦空士なんだから。お店はね、落とされて飛べない時の暇潰し程度になさい』

だった。

ハルゼーさんとも話し合った結果、お昼のランチ営業は無しにして、当面は夕方五時開店の定食屋としてやっていくことにしたの、メニューは日替わりの定食二種類と小鉢のお惣菜を何種類か、そしてハルゼーさんのアドバイスもあって瓶ビールと日本酒、焼酎を置くことにした。

「真っ昼間から昼酒かっ喰らうのはどうかと思うが、晩飯に酒が無いってのもどうかと思うぜ」

というハルゼーさんのご意見を踏まえての決定だった。

仕入先の酒屋さんもハルゼーさんが紹介してくれたからとっても助かったわ、ハルゼーさんが来てくれた時はサービスしなきゃね。

来週の『小規模戦』は月曜・水曜・金曜と土日の特別戦ね。

特別戦は月曜から金曜まで観客からの人気投票を行なって、上位10人までがトーナメント戦を勝ち上がるもの、多分に観光要素が強くてこの《戦空》で撃墜されても飛行停止にならないし、もちろん解除金も不要なの。

師匠は特別戦の常連だったらしいけど、私みたいなひよっこは・・・

こういうこと言ってると、特別枠だとか、他の戦空士の組織票とかで出動しなきゃいけなくなるってフラグが立つからやめよう。

とにかく、今週末は《クエスト》に精を出して早く慣れよう。


うん、決定。


そうと決まればさっさと準備しよう。

起き上がると台所へ行って、冷蔵庫から商店街の乾物屋さんで買った塩鮭を一切れとメザシを魚焼きグリルに投入してタイマーをセット。

昨晩予約しておいた炊飯器から、炊きたてごはんをお茶碗によそって、残りのごはんをボールにとる。そして小さなボールにお水を入れて、お塩と海苔とお漬物屋さんで買って来た沢庵をスライスして梅干しをスタンバイ。

両手に水を付けてお塩を少し手につける、ボールに取ったごはんを一握り取って、真ん中に梅干しを入れてまとめる。

にぎにぎにぎにぎ。

お皿にのせていっちょあがり、続けてもう一個。

にぎにぎにぎにぎ。

全部で十個作って、二個ずつ商店街の雑貨屋さんで買って来た『竹皮』に包む、メザシと沢庵も忘れずに。

ちょうど焼きあがった塩鮭とごはん、あと沢庵と梅干しをちゃぶ台に運んで、冷蔵庫から麦茶を運ぶ。

「いっただっきまーす」

炊きたてごはんと焼きたて塩鮭。

「う〜ん、最高」

美味しい朝ごはんは一日の活力ね。

味わいながらもパクパクごはんの平らげる、食べ終わったら食器を洗って、大き目の帆布製バッグにフライトスーツと竹皮で包んだおにぎりを入れて準備完了。


[波止場元町電停]6時45分

白いベンチに腰掛け朝日を全身に浴びる。

次の中央本町行きは三分後それに乗って、終点の中央本町で乗換えて第一飛行場行きに乗車。

そのままゴトゴトと揺られて飛行場に着いたのは7時20分だった。

朝早くだから、飛行場にはまだ人影はまばら。

てくてく歩いて管制塔横のブリーフィングルームへ行ってみる、師匠の話だとそこの掲示板に《クエスト》が張り出されるらしいんだけど・・・


早く来すぎたっぽい。


掲示板にはまだ一枚も張り出されてなかった。

「おはよう、早起きは良いけど早すぎんぞ」

振り返ると首にタオルを引っ掛けて、顔をゴシゴシしている人がいた。

「おはようございます・・・ムトギンさん?」

一昨日、昨日の早朝とお世話になったムトギンさんだ。

「改めて自己紹介させてもらう、俺は武藤銀蔵(むとうぎんぞう)。ここの連中にゃムトギンって呼ばれてる、リラバウル第一飛行場の『第一帝国航空隊』の隊長をやってる、コールサインはそのまんま『ムトギン』だ」

あ、やっぱりムトギンさんって偉い人だったんだ。

「改めてよろしくお願いします、武藤さん」

「ムトギンで良いって、それより店の方はどうだ?」

「早く《戦空》に慣れる為にも、今週末はクエストを請けようと思うんです。お店は来週の月曜日、夕方五時から定食メインで始めようと思います」

「わかった、頑張れよ。戦空も店もな」

「はい、ありがとうございます・・・そうそう、ムトギンさん。よろしければコレ、どうぞ」

私はバッグから竹皮で包んだおにぎりを手渡した。

「ん?こいつは?」

「お昼ごはんに、と思って作って来たんです。

「お〜、こいつは良いな。ありがたくいただくぜ」

そう言いながら受け取った時だった。

「待てよ、ムトギンの旦那。そりゃないぜ」

わらわらとブリーフィングルームに戦空士の一団が入って来た。

「その弁当を掛けて、勝負だ!」

またなんだか妙な方向へ行き始めた。

「あと三つありますから、皆さんで分けて下さい」

おにぎりセットは五個持って来た、一つは私の分だから残るは四つ、一つはムトギンさんに差し上げたから、残りの三つを分けて貰おう。

「そうはいかねぇ、こいつは緊急クエストだぜ」

こうして、あれよあれよと言う間に掲示板に一枚の用紙が張り出された。



[緊急クエスト・さくらの握り飯弁当争奪戦]

参加条件・無し(先着10名)

戦闘内容・勝ち残り戦(残存五機までの生き残り戦)

開始時刻・10時30分

戦闘空域・第一飛行場周辺50キロ


備考・欲しいなら己が腕で勝ち取れ。


もしかして、ここの連中はバカなんじゃないだろうか?

それも愛すべきバカ揃いだと思う。






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