公歴1945年〜リアスではじめる戦空士〜
遠い未来、遠い惑星。
公歴1945年、惑星リアスを舞台に『戦空士』としての第一歩を踏み出す、綾風瑞穂の物語。
天然系ラッキーガールの主人公瑞穂とその仲間達が織りなすコメディー系戦記物語、開幕です。
平成29年6月3日 加筆訂正済
令和2年4月8日 大幅加筆訂正開始
「着いた〜、やっと着いた〜」
リラバウル港の第三埠頭に一万トン級貨客船『あるぜんちな丸』は定刻通り入港・着岸した。
あるぜんちな丸から埠頭に降ろされたタラップを使って少女は新天地に降り立った。
選別に、と父に貰った本革製のちょっと大き目のボストンバッグを地面におろし、全身で伸びをして胸いっぱいに空気を吸い込む。
ちょっと埃っぽい空気、人工じゃない空気、天然自然の空気を胸いっぱいに吸い込む。
肺胞の一つ一つにまで染み込んでいく新鮮な空気、初めて吸うその空気には味わいすら感じられそうだった。
降り注ぐ南国の日差し、空に浮かぶ白い雲。
二週間ぶりに降り立った大地、そこには現在の地球にあるもの無くて、地球が失ったモノが全て残っていた。
旧地球歴23世紀の半ば、人類はある技術を手にした。
その技術は既に実用化されていた軌道エレベータによって地球を脱出して、大気圏を離れたものの宇宙空間に漂う小規模コロニーと月面都市くらいしかなかった人類の行動範囲を一気に押し広げた。
目の前に広がる全ての宇宙が地球人類の行動範囲となった、そして人類はやっと正気に戻って有史以前から続く狂気の沙汰に気付き一つの結論に達した。
『人類同士で争ってる場合じゃねぇ』
無限に広がる新たなフロンティアを前に、頭打ちになった科学技術、終わらない紛争、民族・宗教問題、枯渇する天然資源、100年以上閉塞感に囚われていた地球人類は狂喜乱舞した。
そして人類は新たなフロンティアへ・・・
第二の大航海時代の幕開けだった。
それまでの常識を、学説を、ことごとくひっくり返していく新発見、そして発見は閃きを呼び起こし停滞していた科学技術は一気に花開き、様々な技術が発達してゆく人類は新たな技術を手に入れ、そして過去のつまらないモノを捨て去っていった。
~宗教対立~
いもしない神にすがり、信じる神が違うからと殺しあう事を辞めた。
「神?誰か会ったか?俺は会っていない、これから会う予定も無い」
という名言を残し宗教問題を過去のものとしたのは初代地球連邦議長だった。
~国家・国境問題~
「土地が欲しければ宇宙へ行け、隣人が気に入らないなら宇宙へ行け」
というのは、第3回大規模開拓船団のキャッチコピーだった。
実際、領土領有権問題で揉めに揉め幾度も戦争をしていた中東やアジアの特定の国々が、国ごと宇宙へと旅立った。
~人種、民族の差別意識~
「みんな地球人類です。肌の色、顔立ちなんて個性の範疇でしょ」
地球最後の連邦議長であり、初代銀河系統合議会の女性議長の言葉だった。
~資源問題~
地球で枯渇しかかっていた資源は、実は宇宙ではまだまだ豊富にあった。
そして戦争して乏しい地球の資源を奪い合うよりも、他の星で採掘する方が楽だしコストも安かった。
「資源、売る程あります。売り尽くせません。足りないのはあなたです」
某資源開発公社社員募集ポスターのキャッチコピーだ。
地球人類は様々なモノを捨て去って、様々なモノを手に入れた。
色んな問題に立ち向かい、乗り越えていった。
いつしか、人種・民族・宗教・政治的対立は過去の物となった。今ではそんなことで真剣に対立する馬鹿は可哀想な目で見られ同情され、ついでに珍しいモノを見た記念に撮影されるだけの悲しい存在となっていた。
地球人類はその後も宇宙と言うフロンティアの冒険に精を出し、充実した歴史を紡いでゆく。
ただ、一部の人々はガッカリした。
宇宙人はまだ見つかっていない。
そんなこんながあって、旧地球歴で言うところの41世紀中頃、公歴1945年のお話。
ここは地球を遠く離れた惑星『リアス』
53番目に発見され入植が開始された太陽系型星系の第三惑星34番目に確認された地球型惑星。
驚く程地球にそっくりなこの惑星は、発見当初
『実は時間逆行して辿り着いた過去の地球ではないのか?』
と言う説まで飛び出し、真剣に議論された程過去の地球にそっくりだった。
恒星からの距離、公転周期、自転速度、地軸の傾き、衛星の数と距離、地磁気の分布、大気の構成要素と構成割合などなど・・・
全てにおいて地球にそっくりだった、なにより驚かれたのが地形だった。
陸地と海洋の割合どころではない、人工建造物と人の手による干拓・埋め立て・造成で変化した地形以外は、ほぼ地球そのままだったのだ。
ちょうどその頃、地球では太古の娯楽データが発見復元されてちょっとしたブームが起きていたので、余計に騒ぎが大きくなった。
偶然、ある娯楽映像データを鑑賞していた科学者は青白い顔でこう言った
「北米大陸の、ある場所を調べてくれ、そう・・・アッパー・ニューヨーク・ベイのあたりだ」
その科学者の恐れていたことは杞憂に終わった、その辺りには大きな牡蠣の育つ漁場しかなったからだ。
「あの科学者はそんなに牡蠣が食いたかったのか?」
例の娯楽映像を見たことのない現地に赴いた調査員の感想はその程度のものだった、そこに銅製の大きな像の頭部は埋まっていなかったのだ。
その後も様々な観点から綿密に調査されたが、『過去の地球説』は全て否定され、この惑星の名前は『Re・earth』から『リアス』と名付けられた。
リアスは生態系もかなり近かった、地球ではとっくの昔に絶滅した生物が生き残っていたりした。
オーストラリアのフクロオオカミや、マダカスタルではドードーも発見されて地球の古生物学者を狂喜乱舞させた。
さすがに恐竜等の超古代生物やイエティなどの都市伝説的空想生物は確認出来なかったが、それで落胆したのは極々一部の少数派だけだった。
地球と驚くほど似た奇跡の星、地球と大きく異なる点は一つしかなかった。
そう、
ただ一つ、
人類が存在しない点を除いては・・・
人類のいない、地球そっくりな惑星リアス。
溢れる大自然、人類が自ら破壊し失ったはずの地球がそこにはあった。
最初は入植を禁止して、このまま大事に見守ろうという意見もあった。
また失ってしまっては、もう取り返しがつかないと・・・
しかし、人類は諦めきれなかった、そして人類は共存共栄する事を学んでいた。
そこでリアスの根本法として[過度開発禁止法]が生まれる。
簡単に言うと
[過度開発禁止法]
原生生物などへの影響を極力減らし、過度な開発はしないこと。
無くて良い物は作らない、必要なものでもニューテクノロジーを駆使して影響は最小限度に止める。
万が一、環境に無視できない影響が出た場合は直ちに原状復帰し、今後二度と同じことは行わない。
例)飛行場、桟橋、埠頭、鉄道路線、道路建設、架橋などの大規模インフラ整備、ライフラインの整備は、周辺への影響を充分考慮して行う。漁業、農業、畜産業も小規模なものは許されるが、大規模なものは不可。農薬や肥料の使用、汚水処理は厳格なルールに則って行われる。
鉱山・石油などの地下資源の採掘、森林資源の伐採、治水や防災・減災目的以外の地形の改変は厳禁。
原生野生動物の狩猟は生命の危機などやむ負えない事情を除き厳禁。
と結構厳しい。
[ニューテクノロジー規制法]
現在の地球では当たり前のニューテクノロジーも規制対象。
とはいえ、生活インフラ、特に生命・財産・安全に関するニューテクノロジーは規制の対象外。
生活上絶対に必要なライフラインの維持にはニューテクノロジーでも使用できる、逆に言うと生活に必要ないニューテクノロジーは使用禁止。
しかしリアスの住人は規制対象外のニューテクノロジーでも使わないことが多い。
曰く「せっかくの雰囲気がぶち壊しになる」からだそう。
そして、この二つの法を破ったものは判決確定後即座に星系外追放となる。
もちろん無期限で、接近する事すら許されないという厳しい法律である。
このお話は、この二つの法律によって守られた惑星リアスで始まる物語。
ちょこちょこ誤字脱字を修正しております。
二年近く放置していたのに今更ながら再始動。