運ばない運び屋①
運ばない運び屋
「ローションよ!」
「はぁ!?」
「一緒にローションで世界をぬるぬるにしてやらない!?」
数時間前―――
「こんにちは、お届けものでーす」
「‥うーん、あんがと。あれ?荷物は?」
「ありませんよー、荷物を届けに来たわけじゃありませんし」
「えっ‥じゃあなに?‥‥まさか!?」
「どうも、運ばない運び屋です」
私は、運ばない運び屋。
荷物を運ばないからそう呼ばれている。
じゃあ、何を運ぶのか。それはその時々による。
私が普通の運び屋にならなかった理由は、この国で既在する職業に就くほど、つまらないことはないからだ。
「ったく、また殴られたよ。誰だよ、あたしを税金泥棒とかスパイだとか言った奴。まぁ、その通りなんだけど」
客な分たちが悪い。殴り返せないから。
スパイだとか言われることは、よくあることでどうしようもない。何も運ばないと言われ真っ先に連想するのは言葉や情報を届けることで、確かにそういう仕事が一番多い、私ひとりで国一つ動かすくらいの情報とスキャンダルを持っている。現に今引き受けている仕事の中に4つの会社の情報を、その4社の中で回し回すという何とも馬鹿らしい仕事もやっている。
しかし、そんな社会をかき乱すような仕事をしているわけではない。お便りをかけないおばあちゃんの伝言を孫に届けたりだとか、手紙に書くのも恥ずかしい想いを伝えたりだとか、そんな心温まる依頼も少なくはない。私はどちらかというと、そちらのほうが好きだ。
今殴られた相手も、依頼人の孫で、遠方のおばあちゃんの死を伝えるという少し、寂しい依頼だったが、伝える前に殴られてしまった。もちろん、その後きちんと伝えたのだけれど、言えば言うほど殴られた。
「最近殴られるのが仕事になりつつあるな。公務員は大変ですなぁ‥」
私は町一番の嫌われ者だったりする。職業柄というのと公務員だからという理由からだ。
この町の給与の仕方は特殊で、月末に1か月分の所得をすべて回収し、その後、働きに相当する給与が割り振られるという仕組みになっている。ちなみに、公務員はそれをする必要がない。自分で得た所得はそのまま入ってくる。
そして、私が公務員を名乗っているのにはからくりがある。国家特別国民模倣公務員職、通称模倣職と呼ばれる制度があり、簡単に言えば、こんな仕事ないですよね、でも必要ですよね、なら国のために新しい事業初めてもいいですよねと言って通れば、最初に企業した一人が公務員として認められるのだ。
そして、公務員とそうでないのとでは、所得が平均9割も違う。
そんな私にとって、人生初の依頼が来た。
「お父さんを殺してほしい」
20歳くらいの若い依頼人だった。羽振りのよさそうな金髪のお嬢様
「お嬢さん、あたしは運び屋だぜ?そんなのは殺し屋にでも頼みな」
「殺し屋じゃダメなの。あなたじゃないと殺せない」
「殺せるか殺せないかは真に問題じゃぁない。私は形のないもの運ぶだけでだな」
「だから、父に死を運んでほしいの」
「…なるほど。」
「あなたは、形のないものしか運ばない。死は、形がないでしょう?」
「…あい、わかった。言っとくけど、あたしは金にはうるさいぞ。しかも、殺しとなると」
「これだけ払うわ」
彼女は、サッとメモに値段を記し私に見せた。国を買えるような額だった。
「あんた、何者だい?」
「錬金術師の娘よ」
「錬金術師か‥確かにそれは殺し屋には荷が重いな」
錬金術師、この世界で唯一無から有を生み出せる存在。人知を超えた知識と力を持つカルト集団。
「依頼に答えられる確率1%あたしが死ぬ確率80%死なずに任務失敗する確率19%と言ったところだろう」
「それで十分よ。殺し屋じゃ0でしょう」
殺し屋は殺せない殺しはしない。なぜなら、自分の信用が減るからだ。人によってはやるというやつ、断らないやつもいるかもしれない、けど一般市民に知られている殺し屋を錬金術師が抑えていないはずがない。警戒されて近づく前に殺される。
私に可能性がある理由は、私が殺しの仕事もやることをほとんど知られていないからだ。
「で、どこにいる」
「北の不死の国」
「はは!一級錬金術師か!あたしは死ぬしかないな!はははは!」
不死の国、世界で最も権力と地位と財力をもつ世界を掌握したこの世界一危険で身近な国。国の内情は一切明かされておらず、情報屋ですら情報を入れあぐねている。
「値段に見合っただけの仕事ということか!ははは!あい、わかった!やろう!成功したら仕事なんてやめてやるよ!はははははは!」
「…本当に引き受けるのね」
「当たり前だ、あたしは依頼を断らない!」
「私はあなたに死ねと言っているのよ」
「いいや、あんたはそうはいっちゃいない。助けてくれって言ってるんだ。そう言う奴をあたしは見捨てない」
「…ごめんなさい。お金はちゃんと払うわ。」
「気に止むな、それが私の仕事だ。報酬もいいしね」
ニヤリと私は笑う。
彼女は不安げに頭を下げた。
「さて、死にに行くか」
あたしは、斜めがけの小さなカバンに必要な用具を入れ、家の外に出た。発展していく、石畳の街を眺め、寂しさを抱いた。
街の外に出るには大きな城門をくぐらなくてはいけない。国の外に出るためにも色々と手続きが必要なのだ。
その関所に寄ろうとしたとき、後ろから手を掴まれた。
「あなた、ほんとに行くのね」
「あんたは…」
依頼人の女性だった。
「そんな軽装で行くなんて、バカじゃないの?」
「どうせ武器が効かんのなら、持ってて警戒される方が面倒、だろ?」
「…なるほど、あなた頭いいのね。そんな、あなた…いや、あんたに提案があるの!」
か弱い雰囲気だった彼女が、眉を吊り上げ野蛮な笑みを浮かべた。
「な、なんだい突然、お嬢さん」
「この腐った国を変えないか!」
「どうやって?」
「ローションよ!」
「はぁ!?」
「一緒にローションでこの国をぬるぬるにしてやらない!?」
お疲れ様です。みことです。
長い短編になりそうでしたので、二章に分けました!
私はへりくつが嫌いですよ?
あいちゅーん♡