犯行声明
6月24日 1232時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社
『・・・・・・・現地時間11時34分、ウガンダ首都アンパラの西カバサンダ市近郊のインターナショナルスクールで武装勢力による襲撃事件が発生しました。犯人グループは自動小銃などで武装し、生徒や教員らを銃撃しましたが、警備を行っていた警備会社警備員や地元警察の警察官、軍の部隊と銃撃戦の末、全員が射殺されました。この銃撃戦で生徒21名が負傷し、うち3名が重症を負った他、警察官1名が死亡、軍の兵士と警備会社社員数名が負傷しました。この高校では、現地で働いているヨーロッパやアメリカ、アジアなどからやって来た労働者の子どもたちが通っています。地元当局からの詳しい発表はまだありませんが、犯人グループは、近年、アフリカで活動を活発化させている、海外資本の投入に反対する勢力の一つであると地元当局側は見ています。先程、犯行声明と見られるビデオテープが、ケニア、ナイロビの地元テレビ局に届けられました。その内容の一部を放送します・・・・・・・』
画面が切り替わり、真っ白な壁を背に黒い目出し帽をかぶり、迷彩服を着てAK-47系統の自動小銃を持った人物が映った。
『・・・・・欧米やその他外国の資本家共は、アフリカ発展のためと言いながら、我々の土地から天然資源を搾取し、都市部を改造して急速に我々の伝統的な生活様式を破壊した。だが、我々はそれを座視するつもりは無い。我々は貴様たちがアフリカから出ていくまで、我々は抵抗を続ける。我々が攻撃の手を緩めるつもりは無い。この戦争を止めるのか、続けるのかはお前たちの選択次第だ。お前たちがアフリカから、全ての企業、個人、公的団体を引き上げさせるまで、我々は戦闘を続ける。この連鎖を止めたかったら・・・・・・・・』
男はAK-47の遊底を動かした。
『今すぐ、アフリカから出て行け!』
そこでVTRは終わった。
「今のがジョン・ムゲンべって野郎か?」
ケマル・キュルマリクがカート・ロックに訊いた。
「多分・・・・・な。奴の顔は情報部のデータベースにも入っているが、声紋データが無いから何とも言えない。だが、体格はデータと概ね一致するようだ」
「ふむ。奴ら、相当俺たちのことを嫌っているようだな。あ、話が変わるが、近々、防護チーム用の新しい車両が来る話は聞いたか?」
「ああ。ブッシュマスターIMVとバッファローMP/CVだろ?あれはきっと役に立つぞ。なにせ、そこら中にあるIEDに耐えられるからな」
「ボスはもっと早く導入するつもりだったそうだが、この手の車は注文が殺到しているからな」
耐地雷・伏撃防護車両は現在、PMCと軍の両方で売れ筋の車両だ。これは、基本的には即席爆弾や成形炸薬弾から兵員を守るための車両である。軍とPMCはイラク戦争以降、IEDに手を焼いていたため、MRAPを急速に導入していた。だが、あまりにも注文が殺到していたため、メーカーの増産がちっとも追いついていないのが現状だ。
「最近はまたIEDでの被害の報告が増えている。先週は南アフリカのPMC"ウルフパックス"の護衛車両団がアフガニスタンで活動中、路肩に仕掛けられた爆弾を食らい、連中と護衛対象だった世界食糧計画の要員が死傷している。ところがどっこい、MRAPは需要とは裏腹に高価だ。中小規模のPMCがおいそれと買えるものじゃない。おまけに、需要があることをいいことに、ぽっと出のメーカーがいい加減なスペックのものを格安で販売して、被害が出ているという報告を何件も見ている」
「で、大問題になっている、と」
「ああ。先月は、某アジアのメーカーのMRAPを使っていた同業者が、IEDによる攻撃を受けて死者を出している。そのメーカーの車両を1両買って、別のPMCが耐爆テストをしたんだが、MRAPとしてはおおよそ使い物にならないくらい脆かったらしい。メーカーが公表しているカタログスペックすら、ちっとも満たしていなかったそうだ。そのPMCは相当頭に来たんだろう。試験結果も、ウェブ上でデータと共に公表している。そして、その同業者は、メーカーを相手取って多額の賠償金を求める裁判を起こした」
「まあ、そのメーカーのMRAPは、今後、売れることは無いな」
「ああ。試験結果を見たが、酷いものだった。なにせ、40mmHEグレネードで車体にヒビが入り、クレイモア地雷で車体側面に穴が開いたそうだ」
「酷いな・・・・・・」
「こういった便利な新型装備が出てきた場合、売り出しているのが、しっかりしたものを売っている信用できるメーカーなのか、それともぽっと出のいい加減な性能のものを売っている連中なのかを、しっかり見極めないといけない。まあ、簡単な見分け方の一つは、有名メーカーかそうでないか。それくらいしか俺は見分け方を知らない」
6月24日 1302時 シリア某所
ファリド・アル=ファジルは水筒から水を一口飲み、蓋を閉めた。シリアは数年前からの内戦がまだ続いている状態で、遠くから銃声と砲撃の音が聞こえてくる。轟音と共に、戦闘機が低空を飛び去っていった―――ロシア空軍のSu-34だ。ロシア軍は反政府軍を攻撃しているが、そのやり方は、戦闘機や爆撃機で無誘導爆弾を、反政府軍が居座る地域に適当にばら撒いているだけというものだった。これだけ攻撃が激しくなっても、反政府軍の勢いは衰えるどころか、増す一方だった。恐らく、西側から密かに支援を取り付けているのだろう。とは言え、その確たる証拠をシリア政府もロシア政府も掴んでいる訳では無かった。
アル=ファジルは真っ直ぐ歩き続けた。もうすぐ、仲間のキャンプにたどり着く。内戦状態の国を潜伏先に選ぶのは常套手段だ。それも、なるべく西側があまり介入していない国が良い。だが、潜伏先は慎重に選ばなければならない。適当に潜伏先を変えていた結果、敵に足取りを辿られてしまう可能性も高いからだ。




