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何も変わりが無さそうな朝

 6月9日 0834時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 ハワード・トリプトンは、いつものように、本部へ12.7mm弾の複数着弾に耐えられる防弾加工が施されたハンヴィーに乗ってやってきた。セキュリティチェックを受け、弾薬とHK-416D自動小銃、破片手榴弾、閃光手榴弾を受け取る。胸のホルスターに収めたシグザウエルP226Rと腰のポーチに入れたグロック26を確かめ、装備一式を身に着けた。ここ最近はようやく暖かくなってきたため、薄手の長袖トレーナーかセーターの上から防弾チョッキとタクティカル・ベストを身に着けている職員が目立つ。そんな中であっても、見張り櫓の上にいるスナイパーたちは、ギリースーツを着ていた。


「よお、ハワード。今朝のニュース見たか?」

 トム・バーキンが左手で新聞を差し出しながら言った。もう片方の手には紅茶の入ったマグカップを持っている。

「何だ?何かあったのか?」

「イギリスとフランスがシリアを空爆した。MI6とDGSEは、ここが今までテロを仕掛けてきた奴らの拠点だと考えていたらしい」

「ほう。で、結果は?」

「確かにターゲットは正しく、間違いなくそこはテロリストキャンプだったことに疑いの余地は無い。だが、俺はそこはハズレだったと考えている」

「何?」

「後で、アメリカがグローバルホークを飛ばして戦果確認をしたんだが、確かにそこではテロリストのたまり場だった。だが、そこは、あくまでもカタールやUAEで暴れまわっていた組織のものだ。ヨーロッパを攻撃していた奴らとは、多分、無関係だろう」

「ほう」

「で、だ。イギリスとフランスが、中東に展開させている諜報員に、テロの兆候を探るように発破をかけたんだ。これ以上、攻撃が続くと、ヨーロッパがどうなるかわかっているだろう?」

「ああ。だが、例え、今、活発に活動している連中がいたとしても、もうほぼ監視下に置いているようなものだろう?」

「そうだ。だが、俺は、多分、中東には例の連中はいないと考えている。なぜなら、既に、中東はもうテロリストにとって、旨みのある隠れ家とは言えなくなっているからだ」

 確かに、その通りだった。今の所、イスラエルが見境なくレバノンやシリアへ越境攻撃を行って、テロリストの隠れ家を潰している他、サウジアラビアやヨルダンも、そういった国々のテロリストキャンプへ、頻繁に空爆を行っていたりする。その結果、中小規模の細胞が次々と潰され、中東では予想外の勢いでテロ組織の規模が縮小している。

「で、だ。中東を追われたとしたら、お前だったらどこに拠点を移す?」

「東のパキスタンか北のアフガニスタン、タジキスタン辺り。もしくは・・・・・・アフリカだな」

「そう、アフリカだ。俺は、この連中は、アフリカに潜伏し始めていると考えている」

「ほう。理由は?」

「まず、第一に中東よりも、よりヨーロッパに近い。行動を仕掛けるなら、近い方が良いからな。第二に、アフリカには、今、海外資本の投資が物凄い勢いで伸びているが、それを快く思っていない連中も多い。そういう奴らを味方につけて、組織を拡大するにはもってこいだ。そして、隠れ家になるような所も多い。無政府状態のソマリアと政府そのものが存在しない西サハラは言うまでもなく、シエラレオネやコンゴ共和国、ナイジェリアなど、ほぼ内戦状態の国も格好の隠れ家だ」

「ふむ。AK-47無しでは、あまり行きたいと思わない国ばかりだな」

「だが、問題は、こういった国での諜報活動は、あまり進んでいないことだ。HUMINTなんてまず、不可能で、俺たちが簡単に入って行けるような場所じゃない。多分、独自に諜報員を送るのも、ボスは反対するだろう。かと言って、ELINTやSIGINTも、できるような場所では無いし、情報収集には厳しいところだ」


 6月9日 0917時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 デンプシーはテレビ会議を行っているところだった。コソボに派遣した警備部隊の隊長から報告を受けている。モニターには、AN-94を肩から吊り下げた男の姿が映っている。

「よし。では、プリシュティナの学校の整備は上手くいっているんだな?」

『はい。今の所、セルビア人勢力による妨害などは行なわれていません。この仕事が終わったら、引き上げて、ドイツに帰ります。しかし、国連はもうPKFの規模を縮小するのでしょうか?こんなので大丈夫だとは、とても・・・・・・』

「その代わり、NATOが部隊を派遣することになった。スペインとドイツ、イタリア、ノルウェーがそれぞれPKF部隊を1個大隊ずつ送る。確かに、セルビア人勢力によるいざこざは収まってきているが、油断は禁物だからな」

『わかりました。では、来月、引き上げた時に会いましょう』

「気をつけてな。通信終了」

 

 デンプシーはモニターを切り替えた。次は、インドネシアから農作物をイスラエルに届ける貨物船に派遣している部隊との会議だ。

「やあ、クリス。調子はどうだ?」

 警備隊の隊長の顔が映し出された。どうやら、そこは彼の個室のようだ。

『荷物の積み込みが完了し、出港手続きをしているところです。しかし、ついさっきですが、エンジンルームでトラブルがあったようで、予定よりも出発が遅れそうです。雇い主のお偉いさんがケツを叩いていますが、現地で雇ったエンジニアが暢気過ぎて、キレそうになってます』

「やれやれ。物事にはトラブルは付き物というが、あまり酷いのは勘弁してもらいたいね」

『全くその通りです。それと、予定が伸びた場合、通常の警備費の他に追加料金が必要かどうか、現場の責任者が訊いてきました』

「いや、通常の1日分の警備費を追加して貰うだけでいい。ただ、延長した分の代金は、件のエンジニアに請求してもいいぞ、とでも言ってやれ」

『わかりました。それで、連中が急いでくれれば良いですがね。では、ドイツで会いましょう』

「ああ、またな。通信終了」

 デンプシーは現在、活動中の警備部隊のリストに目を通した。派遣先地域は中南米からアジア、アフリカ、ヨーロッパとかなりの数に登る。殆どが特殊部隊出身のエリートたちで、殺しのプロたちだ。彼らはみな、故郷から遠く離れ、世界の平和のために、献身的に働いている。そんな彼らを、司令官はとても誇り思っていた。

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