久々の我が家
5月31日 ドイツ シュトゥットガルト空港 1105時
ジャーマンウィングスとTUIフライ・ドイッチュラントの旅客機が離発着する中、バミューダに登録された真っ白なガルフストリームG550が2機、着陸した。更に、ドイツ空軍のA400Mも着陸する。これらの航空機は、貨物ターミナルへ向けてタキシングしていき、駐機した。ビズジェットからは"ブラックスコーピオン"のメンバーたち、空軍輸送機からはHH-60Gがそれぞれ、出てきた。
「やっと終わったぜ。かれこれ10日くらいか?まあ、1週間は休暇だったけどな」
ハワード・トリプトンはタラップを降りると、大きく伸びをした。ヨーロッパを震撼させたテロ事件から10日。今のところは、やや落ち着き始めたところだった。外相・財相を失った各国は後任を任命し、また、多くの国では国葬が執り行われた。今でも、テロ事件に関する報道が途絶えることはなく、寧ろ、これまでのテロ事件と関連付けて、報道が加熱しているような状況だ。
「しかし、まだまだわかっていないことは多い。だが、奴らの身元がある程度割れたのは幸いだったな」
山本肇が話しかける。今回のテロに関わったのは、ほぼ全員がアフリカの出身で、その多くはソマリア、西サハラなどの出身だった。
「しかし、どいつもこいつも無政府国家から来たとなると、こういう国は、テロリストグループのたまり場になっているんだろうな」
トリプトンが返す。西サハラとソマリアは、未だに無政府状態で、この2つの国・地域の情報は、依然としてなかなか入ってこない。西側諸国の情報機関の工作員が入っていくのも難しく、テロリストの楽園になっていることは想像に難くない。
「まずは・・・・・本部に戻ろう。ボスに報告しないとな」
アラン・ベイカーらは既にヘリの点検を始め、空港職員がヘリに給油をするのを手伝っていた。
5月31日 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社 1108時
ユーロセキュリティでは、通常の業務が行われていた。海運会社や石油会社の社員が警備員の派遣の申請のために訪れ、警備部隊がアスレチックコースを走り、CQB訓練所で銃を撃ち、近くを通りかかる人間や車、または訪問者に目を光らせている。ここでは、警察、軍、情報機関など、出身者は多岐にわたるため、その時と状況に応じて、顧客に最適な警備パッケージを提供することができる。ユーロセキュリティ社では、通常の警備業務では、状況次第だが、2~4人程度の小グループでは決して仕事に行かせない。必ず、最低でも12人の分隊単位で派遣し、武装に関しては状況にもよるが、小隊長とライフルマンが合わせて8名、衛生要員2名、機関銃手または選抜射手、狙撃手と観測手があわせて2名。ライフルマンのうち、1人はSMAWロケットランチャーかRPG-7を持っているのが標準的だ。場合によって、M998ハンヴィーやフォックス装輪装甲車、ブッシュマスターMRAPといった車両、ベル412EPIやアグスタ・ウェストランドAW139を使うこともある。今は、営業担当者が、セキュリティの相談に来た海運会社の役員らに説明を行っていた。
「はい。警備隊は殆どが特殊部隊出身のエリートです。勿論、重武装しており、射撃の腕も超一流です。そちらの船にヘリスポットはお有りですか?必要とあれば、ヘリコプターとパイロットも派遣しましょう。それで、その船の出港地と目的地はどこでしょうか・・・・・?」
「ナポリを出港し、地中海、スエズを通って、スリランカのコロンボへ向かいます。そこで、ガラス製品を下ろした後、紅茶やフルーツを積んで、ナポリに戻ります。アデン湾を通ることになるので・・・・・」
「海賊ですね。各国の海軍が制圧に乗り出していますが、未だに居なくなる気配は無いですからね。海上での警備となりますから、SEALs、SBS、COMSUBIN出身の警備隊員を中心としたチーム2個分隊を編成しましょう。料金は・・・・・・27万ユーロといったところですね。ヘリを2機とパイロット8名を加えた場合は、36万ユーロですね」
海運会社の役員の一人は、息を吐き出した。予想はしていたが、かなりの値段だ。だが、この海運会社は、一度、格安のPMCを雇ってかなり痛い目にあっている。ユーロセキュリティ・インターナショナルが提示した金額の10分の1ほどの値段で雇ったPMCの警備部隊が、社員もろともに人質に取られてしまったのだ。後でわかったことだが、そのPMCの警備員の多くは、趣味で銃を撃ったりしていた一般人で、軍や警察を経験した人間は少なく、ましてや特殊部隊出身者など皆無であった。そのため、今度はリスク管理のコンサルティングを行っている有名会社にまともな警備会社はないかどうか相談した結果、ユーロセキュリティ・インターナショナルに行き当たった。
「わかりました・・・・・一度、戻って検討してみます」
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
海運会社の役員らは、武器を持った警備員にエスコートされて、チャーターしたヘリ―――エアバスH225―――へと向かっていった。確かにかなりの金額ではあるものの、また海賊に襲われたら、提示された金額と同様か、それ以上の被害を受けることになる。果たして、ユーロセキュリティ社に依頼することが、今度届く商品がもたらす利益と釣り合うかどうか、また海賊に襲われた時の損失がどれくらいになるのか、ということを彼らは考えていた。




