表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/150

偵察

 3月5日 1951時 デンマーク 海岸


 デンマークの海岸は複雑で入り組んでおり、冬には氷で多くが閉ざされてしまう。そこで、海軍はこの狭い範囲を警備するためのフリゲートやコルベットが主要装備となっている。また、海軍としては世界的に珍しく、砕氷船も配備しており、主要任務は領海内の警備ではあるが、積極的にPKO等にも艦艇を派遣している。トリプトンがふと、ヘリの窓から海面の様子を暗視ゴーグルで見てみると、ニンフ級哨戒艇とイヴァー・ヒュイトフェルト級フリゲートが海上で警戒に当っているのが見えた。最新鋭の艦艇を派遣するとは、いかにデンマーク政府がこのテロ事件を深刻な事態として見なしているのかがよくわかる。だが、自分たちが注意してみるべきものは何の変哲もない小型のボートであったり、海岸線に張られているテント等だ。それに、いくら離れたタンカーにいるテロリストと連絡を取らなければならないとは言え、中型~大型の通信機器と使っているとは思えない。そんな事をしたら、地元警察の注意を引くことになるだろう。恐らく、足の付かない携帯式の長距離無線機かクローン携帯で連絡を取り合っているのだろう。自分ならそうする。

「ハワード、ストラウト中佐からだ」

 シャルル・ポワンカレが無線のヘッドセットをトリプトンに渡した。

「トリプトンです」

『ミスター・トリプトン。こちらではあらゆる周波数帯の無線を傍受して、三角測量を行う予定だ。もし、怪しい信号を捉えたら、すぐに知らせる。それから、君らが捜索をしている近くの陸軍駐屯地にヘリの燃料が足りなくなったら、給油に立ち寄ることがある事を伝えておいた。遠慮せず使ってくれ』

「了解です。何か動きはありますか?」

『リトアニア、カナダ両政府はもう匙を投げてしまったようだ。どうやら、突入作戦が失敗した、という情報が流れたらしい。どこから漏れたのかは分からないが、どっかの文民のバカがこっそりリークしたんだろう。先程、首相官邸にカナダの首相とリトアニアの大統領から電話がかかってきて、"これはデンマークの近くで起きたんだからデンマークの国内問題だ。我々は知らん"だとさ。酷いもんだ』

「なんとまあ・・・・。タンカーの動きはどうなっています?例えば動き出したとか」

『今のところ、機関を停止したままのようだ。奴らが何を考えているのかは、全くわからない。海軍が艦艇を出しているが、何も出来ないのが現状だ』

「狙いがわからない以上、性急に判断を下すのは危険ですね。あらゆる可能性を考慮に入れるべきです。例えば、他に仲間がいて、核物質ごと大型ヘリで脱出するとか、これは考えたくも無いことですが、爆薬をたっぷり持ち込んでいて、プルトニウムをタンカーごと汚い爆弾(ダーティーボム)として爆破するつもりなのか・・・・・」

『さっき、部下も同じことを言っていたよ。そうなったら、北ヨーロッパはかなりの被害を受けることになる。それだけは絶対に避けなきゃならん』

「それでは、そろそろ降下地点に到着します。通信終了」

『通信終了』


 HH-60Gが雪を巻き上げながらホバリングを始めた。サイドランプが開くと、中から太いロープが垂れ下がり、それを伝って次々と完全武装の戦闘員たちが降りてきた。14人全員を降ろすと、ペイブホークは再び夜空へ飛び去っていった。

『こちらゴールドホーク、聞こえるか?』

 パイロットのジョージ・トムソンが無線で呼びかける。

「ああ、聞こえるぜ。何だ?」

『ボスから伝言だ。例え敵を見つけても、あまり下手に手を出すなよ、以上だ』

「了解」


 α、β両チームは装備を点検すると、まずはそれぞれ二手に分かれた。暗視ゴーグルを身につけ、弾倉を銃に取り付けて薬室へ初弾を送り込む。できるだけ無用な物音を立てないようにするため、会話は最小限に抑え、ハンドサインでお互いに合図を送った。


 3月5日 2012時 デンマーク αチーム


 トム・バーキンがポイントマンをつとめ、森の中を進んでいく。機銃掃射で全滅しないように、それぞれ6メートル間隔の陣形を組んでいる。交戦距離の短い、森林での戦闘になる可能性が高いため、射程の短いサブマシンガンでもそれほど問題は無さそうだ。時折、足元に注意を向け、紙くずやゴミ、足跡が残っていないか確認する。これは追跡のテクニックの基本で、些細な痕跡から、敵の向かった方向、人数など様々な情報を得ることができる。更に、テロリストが罠として対人地雷や仕掛け爆弾(ブービートラップ)を置いていないとも限らない。やがて、雨粒がポタポタと落ちてきた。そう言えば、夜から雨が降る予報だったな、とバーキンは思い出した。まあ、雨は強ければ強いほどこっちの気配を消してくれる。攻撃側にとっては有利な状況だ。バーキンがふと、チームメンバーのデイヴィッド・ネタニヤフを見ると、彼は黒い大きなアイスピックのようなものを持っていた。これはCIAが開発したプラスチック製の暗殺用ナイフで、相手の耳から脳を突き刺して殺す目的で設計されたものだ。金属探知機にも引っかからない上に、合成樹脂だから劣化して、切れ味が鈍ることも殆ど無い。むしろ、この方が有利かもしれん、とバーキンは思った。MP-5SDは確かに、銃身そのものがサプレッサーになっているため、減音効果は高いが、それでも銃の例に漏れず、完全に無音で弾丸を発射することは出来ない。機関部が前後することによって擦れる金属の音、空薬莢が風をきる音、そして薬莢が地面に落ちる音。それらのうち、ただひとつの音だけでも、耳の良いテロリストならば聞きつけ、警戒心を抱くだろう。だから、バーキンは接敵した時はなるべくナイフか格闘術で倒そう、と決めた。


 テロリストは監視のために掘った塹壕を落ち葉や樹の枝で偽装していた。ここにいるメンバーは、タンカー乗っ取りを始める3週間も前からここに潜んでいた。ここでは、警察官がパトロールに来ないか、同じルートを飛ぶヘリはいないか、といったことを調査していたのだ。

 

 3月5日 2031時 デンマーク βチーム


 ブルース・パーカーは武器の1つにボウガンか弓矢を含めなかった事を後悔した。なるべく音を立てずに敵を倒すには最適な武器の1つなのだ。アメリカやヨーロッパでは狩猟用にボウガンや弓矢が一般的に販売されており、銃規制の厳しい日本などでも比較的簡単に手に入る。"ユーロセキュリティ・インターナショナル"が一般的な警備・警護任務を行う時、法的に銃が持ち込めない状況下では、飛び道具としてはボウガンか弓矢で武装をするのが一般的なのだ。これならば殆どの国の武器規制に引っかからずに武装して任務を行うことができる。弓矢は防弾チョッキで防がれてしまうがボウガンならばプラスチックのヘルメットを撃ちぬく威力があるので、敵を倒すには十分だ。だが、問題が1つある。速射が出来ないので、銃を持った相手とまともにやりあうと、確実に負けるのだ。だから、使えるのは、先制攻撃ができる状況でかつ一回きりと、使い道が限られてしまうのだ。


 ジョン・トラヴィスは何かを見つけ、MP-5SDを肩付けしてしゃがんだ。その動きに気づいた他のメンバーが武器を構えて同じ動きをする。

「何だ。何かみつけたのか?」

 オリヴァー・ケラーマンが隣でしゃがんで囁く程度の声で訊く。トラヴィスは真っ直ぐ20メートルほど先を指さした。

「あの草むら・・・ちょっと不自然じゃないか?」

「何だ?」

「まるで誰かが隠れ家にするために組み立てたみたいにも見える」

「待て。まだ手を出すな。まずは報告してからだ」


 3月5日 2036時 デンマーク コングシュレ海軍基地


「何だ?何か見つけたのか?」

 ストラウトは無線に向かって言った。

『敵の隠れ家らしきものを見つけました。これから、視界にはいる程度に離れた場所から監視に入ります』

 ケラーマンがの声が無線から聞こえてきた。

「わかった。そっちは君らに任せよう。何かまた動きがあったら知らせてくれ。交信終了」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ