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市街戦-4

 5月23日 1154時 ドイツ シュパングダーレム基地


 シュパングダーレム基地は、在欧米軍基地の中でも、イギリスのレイクンヒース基地に次ぐ第2の規模を誇る基地で、ここにはアメリカ空軍の第52戦闘航空団が配属され、隷下にはA-10CとF-35Aがそれぞれ2個飛行隊ずつ配備されている他、数ヶ月ごとのローテーションでアメリカのカリフォルニア州ビール空軍基地からRQ-4Bグローバルホークの飛行隊の分遣隊が派遣されている。巨大な無人機は、専用の格納庫からゆっくりとタキシングを始めた。同じ飛行機が、他に3機、この基地に配属されている。グローバルホークは、機体自体はアメリカ空軍の持ち物であるが、ここに派遣されている間だけは、ルクセンブルクのE-3Cのように、NATO所属の複数の国の空軍から派遣されたクルーによって運用されている。

『"ビーカー71"、離陸を許可する。ランウェイ05へ進入せよ』

 管制塔の管制官が、地上のコントロール・ルームにいるパイロットに交信するという、なんとも奇妙なやり取りが始まった。

「"ビーカー71"了解。離陸する」

 ターボファンエンジンが出力を上げ、グローバルホークが離陸を開始した。巨大な機体にも関わらず、極めて静かなエンジン音だ。

 無人機はあっという間に空一面に広がる鉛色の雲の天井を突き抜けて、見えなくなった。


 5月23日 1258時 ギリシャ アテネ


 特殊部隊員たちは、テロリストの追跡を続けた。上空では、"ブラックスコーピオン"と警察、軍のヘリが飛び回り、テロリスト上から探している。特に、アパッチ攻撃ヘリはTADSSの赤外線・光学カメラのズーム機能が優秀なため、索敵に利用するにはちょうどよい。

「こちら"ハンター01"、敵発見できず。引き続き捜索する」


 M4A1を持ったギリシャ陸軍特殊部隊員たちは通りに展開し、テロリストの追跡を開始した。空港、港は全て警察と軍、沿岸警備隊が抑え、逃げ道を塞いでいる。しかし、市街地には、隠れる場所はいくらでもある。そこからテロリストを掃討するのは至難の業となる。


 5月23日 1309時 ギリシャ アテネ


「畜生。奴ら、どこに隠れやがった。ちっとも見つかりやしねぇ!」

 HH-60Gのキャビンから下を見下ろしてジョン・トラヴィスが言った。地下鉄駅は全て封鎖され、ほとんどの道路は通行止めになっている。 だが、ビルは封鎖することができず、手付かずになっていた。

「ダメだ。これでも見つからん」

 HH-60Gには赤外線カメラが搭載されている。コパイロットのローレンス・ソマーズは目を凝らし、地上の様子を観察した。

『こちら"ブルーホーク"。そっちはどうだ?こっちは全然だめだ』

 無線からハリー・パークスの声が聞こえてきた。やはり上空からテロリストを見つけ出すのは難しいらしい。

「こちら"ゴールドホーク"、こっちもダメだ」

 ジョージ・トムソンは燃料計に目をやった。まだ十分に残っている。

「ハリー、燃料の残りはどうだ?」

「まだ十分だ。いざとなったら、エレフシナ基地で補給できる」

「了解だ。奴らを追うぞ」


 テロリストの一人は、持っていたウージ・サブマシンガンをゴミ箱に投げ入れ、少し歩き回ってから、

ヴォウリアグメニス駅へと向かった。やがて、地下鉄を止められたことに腹を立てている一般市民の群衆に紛れ込み、暫くしてから電話をかけた。


 逃走していたテロリストは、仲間からの電話に出て、少しだけ話を聞いた。やがて、フィックス駅へ向かって歩いていった。この駅も、電車が止められていることで、市民たちは駅の職員に文句を垂れ流していた。が、一部の人間は諦めて歩きに頼ることにし始めていた。

 テロリストは、真っ直ぐ駅のコインロッカーに向かっていった。そして、まだ使われていないロッカーを見つけると、1ユーロ硬貨を投入口に投げ入れ、扉を開け、銃と弾薬が入ったカバンをロッカーに入れ、鍵をかけて立ち去っていった。


 5月23日 1317時 ギリシャ アテネ


 逃走を続けるテロリストが見つからないことに、ギリシャ軍・警察側には段々と焦りの色が目立ち始めた。だが、一般市民の行動をほぼ完全に制限して、テロリストをあぶり出すことなど、不可能に近いことであった。そうしている間にも、テロリストは市内から脱出する術を見つけるであろう。上層部は、NATOの『秘密部隊』に大きな期待を寄せていたようだが、それはかなり過剰な期待だったようだ。


 HH-60Gがケザリアニ地区のサッカー場に着陸した。すぐ目の前には、アテネ大学の建物が見える。ヘリは柿崎たちを下ろし、一旦、燃料補給をするためにアテネ国際空港目指して再び離陸していった。

「クソッ、これからどうする?」

 ジョン・トラヴィスは持っている武器を点検して言った。敵が市民に紛れ込んでいる以上、不意に遭遇戦になることも十分あり得る。

「ハワードたちと一旦、合流しよう」

 デイヴィッド・ネタニヤフは提案した。実際、それ以外にできることは無い。

「くそっ、ここがアフガンだったら、目につく建物のドアを蹴破って、虱潰しにしていくのに」

 ピーター・スチュアートがボソリと言ったが、ここはアテネだ。そんなことができる訳がない。"ブラックスコーピオン"とギリシャ警察、ギリシャ陸軍はここに来て、ほぼ手詰まりの状況になっていた。

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