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市街戦-3

 5月23日 1204時 ギリシャ アテネ


 ギリシャ政府とアテネ市当局は、遂に非常事態宣言を出した。一般市民は屋内か地下鉄駅などに避難し、決して外出しないようにとの指示が出された。また、テロの影響で負傷した場合は、近くにいる警察官や消防士、軍の兵士に申し出るように、その他、警官や兵士の指示に従うこと、という内容だ。サミットの会場となったカルチャーセンターの周辺は完全に軍と警察の手によって封鎖され、装甲車やパトカーで即席のバリケードが市内の数カ所に設置された。

 アテネ市内中の警察官が、一部の人員を除いて総動員され、交通整理、負傷者の救護、周辺道路の閉鎖などに駆り出され、特殊部隊の隊員たちは犯人の追跡に奔走した。


 柿崎たちはアテネの中心街を目指すことにした。HH-60GはRPGによる攻撃を避けるために高度を高めに取り、やや高速で飛行している。銃声や爆発音は鳴りをひそめ、街は静まり返っている。が、テロリストは、どこかに潜み、逃走を図っているはずだ。柿崎は無線機のスイッチを入れ、地上にいる仲間に連絡を取ろうとした。


 ブルース・パーカーはショットガンを構え、通りの様子を伺った。既に人の姿は通りから無くなり、不気味なほど静まり返っている。やがて、無線機につながったイヤホンからジョン・トラヴィスの声が聞こえてきた。

『こちら"ゴールドホーク"。地上の状況を知らせてくれ』

「こちらβチーム。敵は逃走する気なのか、すっかり静かになってしまってる。FLIRでなんとか捕まえられないか?」

『これはペイヴホークだから、FLIRは積んでいないんだ。市街地で使うから、クソっ、最低限のもので事足りると思って油断したか。ただ、警官が主要な通りと細い通りにもバリケードを作り始めた。それと、軍も出動し始めた。もうすぐ陸軍の部隊がやってくるはずだ』


 5月23日 1213時 ギリシャ アテネ


 1機のUH-1Hと3機のNH-90が編隊を組み、市街地上空へ飛来した。左右両側には2機のAH-64Dが護衛についている。ヘリは第1陸軍航空旅団の所属で、乗っているのはギリシャ陸軍の特殊部隊、第1奇襲空挺旅団の精鋭たちだ。手にはM4A1を持ち、油断なく地上の様子を伺っている。上空には、警察のヘリの他、2機のH-60が飛んでおり、そのH-60にはNATOの徽章が描かれている。例のドイツからやってきた、NATOの下請けをしている連中のヘリらしい。

「まずは、地上に降り立ち、周囲の安全確保をするんだ。補給にはアスプロピルゴス基地を使う。間違っても味方を撃つんじゃないぞ。NATOの連中は、警察の特殊部隊と同じ格好をしている。上空を飛んでいるH-60は味方だ。アパッチが赤外線センサーで敵を見つけ、俺たちが確保する。以上だ」


 UH-1HとNH-90がアクロポリスの西側にある公園でホバリングを始めた。特殊部隊員たちがラペリングで地上に降り立ち、素早く展開した。ヘリはそのまま市街地上空を飛び回り、上からテロリストの追跡を続けることとなった。


 5月23日 1215時 ギリシャ アテネ


 市内の主要な通りはパトカーやサバーバン、装甲車が要所要所で立ちふさがり、バリケード周辺の建物の屋上には警察の狙撃手も配置された。地下鉄の駅は、封鎖され、主要な駅には警官が張り込んでいる。他に逃走経路に使われそうなのは海路であるが、主要な港は既に船舶の出入りを停止させられ、警官隊が小型~中型のボートを強奪して逃走しようとする不届き者がいないかどうか、警戒を強化していた。


 5月23日 1116時 ドイツ シュトゥットガルト


 ユーロセキュリティ・インターナショナルでは、職員たちがNATOが打ち上げた衛星からリアルタイムで送られてくるアテネの映像を眺めていた。傍目には、平和そのものにも見えるが、アテネ市街地は既に戦場と化していた。

「市内の拡大画像を出します」

 カート・ロックはコンソールのキーボードを叩き、トラックボールを動かした。画面に映された通りには、装甲車、パトカー、サバーバンなどが配置され、武装した警察官や兵士の姿も見える。

「これを使ってテロリストを見つけることはできないか?」

 ジョン・トーマス・デンプシーがロックに話しかける。

「やってみます。見分ける方法があれば・・・・・ですが」

「テロリストの居場所がわかれば、衛星通信でハワードたちに知らせることができる。そうすれば、通りや建物の陰から不意討ちを喰らうことも無いし、何より、奴らを素早く捕らえられる」

「わかりました。まずは、味方の位置を割り出しましょう」

「ちょっと国防省に電話をかけてみよう。他にも監視用の資産(アセット)は他に用意しておいたことに越したことはない」


 5月23日 1123時 ドイツ 国防省


「それで、デンプシーはNATOの無人機をアテネ上空に飛ばそうというのか」

 ゲオルギー・シュタインホフ国防長官は、特殊作戦司令部司令官と特殊作戦担当NATO調整官を呼び出し言った。

「ええ。グローバルホークならば、長時間の滞空が可能ですし、市街地での監視任務にも有用であることは、近年のアメリカ軍の中東やアフリカでの特殊作戦でも証明されています」

「飛ばすにしても、そもそもギリシャの許可は取れるのか?」

「今、担当の者がギリシャに確認を取っています。NATOの方は、いつでも出撃させることができると言っていますが・・・・・・」

 やがて、特殊作戦渉外担当の職員がやってきた。

「長官、ギリシャ政府の許可が出ました。あちらさんは、何が何でもテロリストを捕らえたいようで、むしろ無人機を監視任務に投入してもらえるのは大歓迎だ、といった様子でした」

「そうか。わかった。シュパンダーレムに連絡を取ってくれ」

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