市街戦-1
5月23日 1113時 アテネ
ニコ・メノウノスは、"ブラックスコーピオン"のメンバーと共に、アテネの街を歩いていった。やがて、無線が鳴った。
『こちらC班、一般市民の避難誘導完了。尚、F班と通信途絶。引き続き、連絡を取る』
『こちらB班、現場付近のアパートで爆発発生。テロ事件との関連の疑い有り』
メノウノスの背中に冷たいものが走った。彼は無線機のスイッチを押した。
「G班だ。爆発があったアパートの所在地は?」
『ロケットの発射地点と考えられる。F班が向かった先の模様』
「クソッ!」
ブルース・パーカーはその会話で何が起きたのか悟った。F班は全滅だ。
「用意周到だな。警察がアジトに踏み込んでくることも見込んで、罠まで仕掛けやがったか」
ジョン・トラヴィスが吐き捨てるように言った。
「どう考えても、プロの仕業だ。こいつはまずいぞ!」
オリヴァー・ケラーマンが叫ぶように言う。
「敵の正体を考えるのは後だ。奴を追うぞ」
ピーター・スチュアートは先頭に出ると、銃を構え、歩き始めた。
柿崎はヘリのキャビンから街の様子を眺めた。パトカーが何台も行き来し、警察官が非常線を張り始めていた。まだ軍の部隊が駆けつけた様子は無い。無線から聞こえる声からは、警察の混乱した様子がよく分かる。それにしても、最初のミサイルを発射したテロリストはどこへ逃げたのか。未だにそれに関する情報は入ってこない。銃撃戦が行われている様子が無いことから、敵はミサイル以外の武器を持っていなかったか、持っていたとしても、逃亡に専念するため、使うのを控えているかのどちらかであろう。
5月23日 1120時 アテネ
司令本部は大混乱に陥っていた。特殊部隊の1個小隊が全滅し、更にテロリストは逃走中で武装したままときている。
「くそっ!今すぐ道路を封鎖して、鉄道と地下鉄をストップさせろ!」
「今、市長が非常事態宣言を・・・・・」
「とにかく、市民には屋内に避難して、窓から離れるように指示をさせろ!」
「市民の皆さん、武装した凶悪犯が逃走中です!繰り返します!凶悪犯が逃走中です!屋内に避難してください。繰り返します。屋内に避難して、窓から離れてください」
警察のヘリのスピーカーから、警察官が呼びかけているのが聞こえる。メノウノスは銃を構え、通りの様子を見た。通りには人がいなくなり、かなり静かになっている。先程の賑わい様からは、驚くほどかけ離れた状況だ。
トラヴィスは耳をそばだて、周囲の物音をよく聞こうとした。敵がどこに潜んでいるかわからない以上、慎重に行動せざるを得ない。こっちは猟犬だが、獲物は鹿ではなく羆だ。
5月23日 1034時 ドイツ 国防省
ゲオルギー・シュタインホフ国防大臣は、執務室のテレビにギリシャでの事件のニュースを流しっぱなしにしている傍ら、EU加盟各国の国防大臣との電話会談を続けていた。
「まずは、敵が何者なのかを突き止める必要があります。今、ギリシャ軍と警察がテロリストを追跡中のようですが・・・・・」
EU加盟国は、これで財務大臣をいっぺんに失ってしまった。暫くは、財務副大臣が代理として職務を全うすることになるだろう。
「それと・・・・これは、オフレコですが、我々は例の部隊を、ギリシャに派遣中でして・・・・・。はい、そうです・・・・・」
5月23日 同時刻 ギリシャ アテネ
ギリシャ警察のサバーバンが通りに展開し、中から降りてきた警察特殊部隊の隊員が、鉄条網と車止めでバリケードを作り始めた。内側にいた市民は、警察官の誘導で外に出され、車に乗っている者は置いていくよう指示された。警察のヘリの軽いローター音に、急に重低音が混ざった。上を見上げると、陸軍のごついAH-64Aアパッチが飛んでいくのが見えた。
「おいおい、ついにアパッチまで出てきたぞ。どうする気だ?」
ネタニヤフの言葉に、柿崎が後ろを見た。陸上自衛隊にいた頃にも頻繁に見かけた、無骨な攻撃ヘリが編隊を組んで飛んでいる。
「アパッチのセンサーは、人間を探し出すにはうってつけだ。警察のヘリのカメラより性能がいい。ここで30mmチェーンガンやヘルファイアミサイルをぶっ放すとは思えないが」
「まあ、あんなのに追いかけられたら、降参するか、死ぬかのどっちかだな」
パーカーはM590のポンプハンドルを少し下げ、薬室を確認した。中には、12ゲージの00バックの散弾が入っているのが確認できた。パーカーの腰につけられたパウチには、予備の散弾が入っている。ショットガンには、市街地・遠距離戦闘用にフルチョークを入れてある。それにより、散弾の散らばりは抑えられるが、その分、関係の無い人間に当たる危険性を抑える事ができ、遠くを狙うことが可能となる。
「全員、武器を確認しろ。交戦用意・・・・・」
βチームの各々が、銃の薬室を開け、弾倉を外し、ボルトを引き、引き金を引いた。カチカチ音を鳴らし、作動に問題がないかどうか確認する。
「戦闘準備完了。いつでもいいぞ、ブルース」
ケマル・キュルマリクは、ACRのボルトをガチャンと戻し、弾丸を薬室へ送り込んだ。




