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作戦当日-5

 5月23日 1034時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 ジョン・トーマス・デンプシーは、デスクに座り、今、関わっている業務の状況のレポートに目を通していた。ユーロセキュリティ・インターナショナルではペーパーレス化が進み、こういったレポートは、全て電子メールや、インスタント・メッセージ・アプリに貼り付ける添付ファイルでやり取りし、必要なときだけプリントアウトする事にしている。

"インドネシアからイタリアへの鉄鉱石の海運警備、ヴェネツィア港に輸送船到着につき、完了。武器・弾薬類はヴェネツィアのドイツ領事館に預けた後、外交行嚢にて本部へ返送予定"

 デンプシーは満足した様子で、返信を打ち込んだ。

"了解。尚、本件に関わった警備要員全員に、5月24日より10日間の休暇を与える。帰還予定日が決まり次第、報告すること。それでは、楽しい休暇を"

 相変わらず、本部にいる要員は全員が自動小銃や散弾銃で重武装している―――但し、施設内にいるときだけで、外出する時は、基本的には拳銃のみを携行するよう、通知している。ドイツで一般人が拳銃を所持・携行するにはライセンスが必要だが、このNATOの特殊部隊の隠れ蓑になっている会社の社員は"警備会社社員"なので、全員がライセンスを取得している。


 クリス・キャプランは社内の屋内戦闘訓練施設の前に立っていた。その扉の前には、FN-F2000をとグロック19で武装した警備隊の隊員が待機している。キャプランが指を鳴らすと、警備隊員の一人がドアを開け、スタングレネードを中に放り込んだ。それが爆発した直後、警備隊が室内になだれ込み、すぐに銃声が鳴り始めた。そして、唐突にそれが止むと、今度は「クリア!」「クリア!」と叫ぶ声が続く。再び爆発音と銃声が鳴り、今度はキャプランのイヤホンから声が聞こえてきた。

「オールクリア」

 キャプランはそれを聞いてすぐに、室内へと入っていった。


 キャプランは、薬莢が散らばり、破壊された室内を見回した。ラバーガンを持ったマネキン―――テロリスト―――は全て心臓か頭に銃弾が撃ち込まれ、そうでないマネキン―――人質―――は、警備隊員が肩に担ぎ上げていた。キャプランは、隊員が担ぎ上げている"人質"を受け取ると、全身を調べた。傷一つなく、完璧だった。

「よし、見た所は良さそうだな。さて、デブリーフィングと行こうか」


 5月23日 1053時 ファリロ・コースタルゾーン・カルチャーセンター


 にわかにカメラマンやリポーターの動きが慌ただしくなった。カルチャーセンターの扉が開き、警備員とその他、関係者の動きが激しくなる。どうやら、会議室での総合的な会談は予想外に早く終わったようだ。この後は、カルチャーセンターの門の前でフォトセッションを行った後、昼食までの間、それぞれの国の外相・財相は個々の対談に移ることになる。やがて、ドイツの外相、スウェーデンの財相、ポーランドの外相が姿を現した。警備員と兵士、警察官が壁を作り、VIPに群衆が近づかないよう、注意を払っている。VIPたちは、フォトセッションのため、階段になった入り口に並び始めた。


 5月23日 1054時 アテネ アパート


 テロリストはターゲットが並ぶのを確認した。人数を確認し、予定通り、閣僚が並んでいるのを確認した。

「こちら"ヒヨドリ"準備は?」

『"ニワトリ"いつでも良いぞ』

「やれ」

 男はそう言うと、ランチャーの引き金を引いた。


 5月23日 1055時 カルチャーセンター隣の立体駐車場 屋上


 二条の炎が、フォトセッションのために整列した閣僚たちの方に飛んでいっている間、シャルル・ポワンカレには、全てがスローモーションに見えた。だが、スローモーションになっているのは、周りの人間やロケット弾だけではなく、自分の動きもまた同じであった。だから、無線機の送信スイッチを押し「RPG!」と叫んだ時には、すでに焼夷ロケットはターゲットに命中し、凄まじい爆炎を撒き散らした後だった。


 ディーター・ミュラーもその様子を狙撃スコープ越しに見ていた。が、彼はポワンカレよりも反応が早く、即座にライフルでロケットが飛んできたと思われる場所に銃口を向けた。


 5月23日 1058時 ファリロ・コースタルゾーン・オリンピック複合施設


「畜生!一体、何だってんだ!?」

 ハワード・トリプトンは、テレビ中継でロケット弾攻撃の一部始終を見ていた。テレビ局のカメラマンは、そのまま中継を続けているが、周囲ではパニック状態に群衆が走り回っていて、軍人や警察官が避難誘導を行っている。

『ハワード、聞こえるか。ハリーだ。今、ヘリを離陸させる!地上だと攻撃を受ける恐れがあるから、一旦、この周辺から離脱する!』

「了解!ロケット攻撃をしてきたクソッタレを早いところ見つけてくれ!」


 2機のHH-60Gがローターを回し始めた。ダニエル・リースとアラン・ベイカーは素早く機外を点検し、機体に問題がないことを確かめ、パイロットに親指を立てて見せた。と、そこに、デイヴィッド・ネタニヤフ、ジョン・トラヴィス、ピーター・スチュアートが通りかかった。

「おい、ジョン!デイヴ!」

 ベイカーが彼らに声を掛けると、3人はヘリの方を見て、駆け寄ってきた。

「乗れ!」

 3人がヘリに乗り込むと、ペイヴホークは空へと舞い上がった。 

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