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作戦当日-1

 5月23日 0515時 アテネ


 アパートに一室でけたたましく目覚まし時計が騒ぎ始めた。まだ薄暗い中、傭兵たちはややのんびりと起き上がり、出発と朝食の準備を始めた。

 ハワード・トリプトンが大きな電気ポットに水を入れ、柿崎一郎が食器棚からボウルを取り出して、その中へシリアルと蜂蜜、牛乳をぶちまける。ケマル・キュルマリクは冷蔵庫から卵のパックを取り出し、それぞれにどうやって食べるか訊いて回った後、目玉焼きとスクランブル・エッグ、オムレツを作る準備を始めた。テレビを点けると、丁度、早朝のニュースが、今日がヨーロッパ経済フォーラムの最終日で、その中で、急激な金融危機に対抗するため、EU加盟各国がそれぞれ一定額の財政出動を行う事が合意される見込みだと伝えている。

「さて、この2日間、何も起きずに済んでいたが、今日はそうもいかなくなるだろうな」

 ロバート・グレインジャーはタブレットの画面に目を通し、ニュースサイトと本部からの情報を確認していた。

「狙うとしたら、最後の記念撮影の時かな?車を突っ込ませるとか、狙撃するとか、自動火器を乱射するとか、やり方は色々あるからな」

 アラン・ベイカーが言う。

「それと、ヘリを使うには、RPGやスティンガー、グレイルなんかにも注意しないとな・・・・・目玉焼きを注文したのは誰だ?」

 キュルマリクがフライパンを持ってうろつき始めた。

「俺とジョン、それからピーター、ブルースだ」

 トム・バーキンが皿を差し出す。

「ほらよ」

「どうも」

「出発は予定通り0800時。それまでにある程度準備をしておかないとな。武器と装備、警備計画の確認、その他諸々・・・・・・・」


 5月23日 0619時 アテネ


 日が段々と登ってきて、ようやく空が白み始めてきた。通りを歩く人影は少ないものの、早起きして、市街地や公園で散歩やジョギングをする市民の姿が目立つ。気の早い観光客は、アクロポリスやアゴラの周辺を見物し、朝食を食べようとカフェを目指したが『準備中』の看板を見て毒づいた。

 そんな中、アクロポリスから歩いて南の方へ歩いて行く男がいた。大きなリュックサックを背負い、ジーンズとTシャツ、サングラスという出で立ちで、手には英語で書かれたアテネの観光ガイドブックを持っており、いかにも観光客といった様子だった。男は道なりに歩いていき、港の方へ向かっていった。


 通りの交番では、夜勤の警察官が新聞を広げ、コーヒーを啜っていた。あと2、3時間もしたら交代の警官がやって来るはずだ。通りを見てみると、まだ歩いている人間は殆ど見かけず、車の数も少ない。翌日は週末のため、今日の日勤は早めに終わるはずだ。


 5月23日 0754時 アテネ


 ニコ・メノウノスは、いつもより30分ほど早く警察署に到着した。と、言うのも、今日はフォーラムの最終日で、各国の財務相や外交関係者が一同に集まるということで、より厳しい警備を敷くことになっていた。EKAMの部隊と爆発物処理班は、既に会場に向けて出発し、不審物の捜索などに当たることになっている。要人の会場入りが始まるのが、0830時の予定。午前の本会議は0900時開始、1100時に多くの予定は終了し、最後にフォトセッションと記者会見が行われる予定だ。


 対テロリスト課の刑事たちは、いつも以上にピリピリした雰囲気になっていた。全員が一斉に拳銃を確認し、フォーラム会場の地図を眺め、警備計画書に何度も繰り返し目を通した。既に、何台か警邏課のパトカーが会場に張り込んでいるが、本格的なテロ攻撃には無意味であろう。9mmのオートマチック・ピストルしか持っておらず、基本的な訓練しか受けていない一般警官が、AK-47で武装したテロリスト相手に何ができるかなんて、たかが知れている。そのため、EKAMは、ラッシュアワーが始まる前に、会場へと向かわせることにしたのだ。


 傭兵たちがぞろぞろとアパートから出てきた。通りを掃除していた、アパートの管理人の老人が、それぞれ大きな荷物を背負った屈強な男たちを、やや物珍しげに見たが、すぐに箒で落ち葉を掃き始めた。彼らは、ぞろぞろと港の方へと歩いていった。


「さて、観光しながら歩いていくか、それともバスを使って体力を温存するか・・・・・」

 マグヌス・リピダルが最初に口を開いた。警備作戦の指揮所が置かれるファリロ・コースタルゾーンのオリンピック・スタジアムまでは、それなりの距離がある。

「バスを使おう。一番近い、バス停は・・・・・・」

 柿崎がスマホを取り出して、道を調べた。

「いや、地下鉄の方がいいな。モナスティラキの駅から出ている地下鉄で、まずはファリロ駅まで行って、そこから歩いてニューファリロ駅に行って、鉄道に乗り換える。鉄道でツィツィフィス駅へ行けば、目的地は目と鼻の先だ」

「よし、イチローの案で行こう。バスを使った結果、渋滞に巻き込まれても面倒だしな」

 ブルース・パーカーは柿崎の案に同意した。

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