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荷物

 5月20日 1145時 ドイツ 国防省


 屋上のヘリポートに1機のEC-225が着陸した。このヘリは、チャーター会社が持っているもので、ジョン・トーマス・デンプシーが国防省までの移動に使ったものだ。ヘリのローターが止まりきらないうちにデンプシーはキャビンのドアを開け、機外に出た。既に、一人の女性が迎えに来ている。

「こちらへどうぞ、デンプシーさん。長官がお待ちです」

 その女性は、若い海軍の中尉だった。デンプシーは彼女に続き、ヘリポートの近くにあるドアの中へ入っていった。階段を下り、廊下を暫く歩くと、金属探知機とX線荷物検査装置が設置されている場所にたどり着いた。

「武器はこちらで預かります」

 保安検査をしている軍曹が言った。デンプシーはシグザウエルP320とウージ・サブマシンガンから弾倉を取り出し、予備弾倉、催涙スプレー、テーザーガン、コンバットナイフと一緒に彼に渡した。

「いつもそんなものを持ち歩いているのですか、デンプシーさん」

 中尉が怪訝な顔をして(表向きの顔であるが)PMCのCEOを見た。

「俺の部下全員がそうだよ。本社に来れば、もっとすごいものがいくらでもある」

 中尉について歩いていくと、いつものオペレーション・ルームに通された。扉を開けると、ドイツ軍の将校らが数名、座っているのが見えた。


「さて、揃ったな。では、状況を説明してくれ」

 ハインリヒ・シュナイダーNATO副司令官が口を開いた。デンプシーの他には、ドイツ陸軍特殊作戦部隊(KSK)司令官のマンフレート・カーン准将とフランス軍特殊作戦司令部(COS)司令官、アンリ・マルセイユ中将がいる。先に口を開いたのはカーン准将だ。

「目下の懸案はギリシャです。詳しくは分析中ですが、このところのパターンを考えると、先日、ミスター・デンプシーが手に入れた情報を無視する訳にはいきません。この情報が正しければ、3日後に、何者かが何らかの行動を起こす可能性が極めて高いと見なして良いでしょう」

 スクリーンには、傍受した短い会話文を書き起こしたものが映し出されている。

「これはどこから発信されたものか、わかっているのか?」

 シュナイダーが返す。これには、マルセイユが答えた。

「DGSEも同様の通信文を傍受し、分析しています。MI5、MI6他、関係国の情報機関にも情報を共有させ、攻撃に備えるよう警告を出しています」

「何か、標的になるようなものがギリシャにあるのか?誰か見当がついているのか?」

「それについては、私から・・・・・現地からの最新情報もあわせて」

 デンプシーが手を上げた。

「よし、説明してくれ」

 デンプシーは立ち上がり、パソコンを操作した。

「現在、我々は特殊対応チームをギリシャに派遣しています。武装させ、いつでも攻撃することができます。ギリシャ警察に捜査協力として警備計画書を提出しています」

「ギリシャに攻撃されるような要素はあるのか?誰か教えてくれないか?」

 カーンが言う。これにもデンプシーが答えた。

「あります。アテネで5月23日に欧州・アフリカ・中東経済国際フォーラムが開催されます。会期中は、各国の財界の大物や財務関係の閣僚、官僚が多く参加します。テロ攻撃を受けて、そういった人々が死亡または負傷して職務を務められなくなった場合、非常に大きな経済的ダメージを受けることになります。こうなった場合、翌日のロンドン取引市場がどうなるかは、あまり想像したくはありませんが」

「なんてこった。それで、対応策は?」

「会場周辺をくまなく探索させ、爆発物、生物化学兵器が仕掛けられていないかどうかを確認し、対襲撃チームを会場近くに配備。狙撃チームに監視もさせます」

「君のチームに狙撃手なんていたか?」

「ええ。狙撃手と観測手の訓練を受けた隊員が1名ずついます。いずれも、腕利きで、更にはそれ以外の隊員も、アメリカ軍で言う"選抜射手(マークスマン)"として十分通用するほどの射撃の腕前を持っています」


 5月20日 1301時 ギリシャ ドイツ大使館


 シャルル・ポワンカレとディーター・ミュラーが大使館の中へ入っていった。他のメンバーは既に警察署での打ち合わせを終え、ホテルへ戻っていくところだが、この二人は、受け取らねばならない物があった。身分証を見せてから係の人間に要件を伝え、ロビーで待っているとドイツ空軍所属の武官の中佐がやって来た。

「ヘル・ポワンカレとヘル・ミュラーですね。こちらへどうぞ」

 2人が武官へついていくと、鍵の掛かった小部屋に通された。部屋の真ん中にはテーブルが置かれ、その上に2つの大きなグラスファイバー製の頑丈なケースが置かれている。

 ミュラーはそのうちの一つを開けた。中にはナイツM110Aが1丁、もう一つのケースには、レミントンM24A2とリューポルド&スティーブンス・ウルトラMk4スコープが2つ、入れられていた。

 ポワンカレとミュラーは銃をケースから取り出して、丹念に状態を調べた。どれも新品同様で、ピカピカだ。この後、ギリシャ警察特殊部隊の狙撃手訓練場へ行き、零点調整をしなければならない。

「素晴らしい。完璧だな」

 ミュラーはM24A2の機関部を解放し、中に空打ち用ダミーカートを入れ、ボルトを閉めてから引き金を引いた。引き心地は文句なく、すぐさま実戦で使えるような状態だ。

「射撃場の予約は何時からだ?」

 ポワンカレがミュラーに訊いた。

「1530時から、3時間。それだけあれば、十分調整できるだろ」 

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