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決定事項

 5月20日 0914時 ギリシャ アテネ 警察本部


「だめだ、だめだ、ニコ。こんなの認められるわけが無いだろ。それに、こんなことをしたら、マスコミの目にどう映ると思う?こんなのは過剰警備だ。彼らにやり方を変えてもらうよう言ってくれ」

 警察署長のディミトリオス・ペルサキスは、メノウノスが差し出した書類を見て大声でまくし立て始めた。その内容は、欧州・アフリカ・中東経済国際フォーラムの会場の周囲半径5kmの道路をバリケードで封鎖し、特殊部隊員を乗せた装甲車を各所に待機させる。会場から半径10kmの範囲にある、ビルの10階以上の階層には立入禁止。更に、軍の攻撃ヘリまでも哨戒飛行させる、といったものだ。

「事が起きてからは遅いのです。それと、この通り、軍病院ではNBC兵器対処部隊の展開させるべきです。マルタで起きたことを、もうお忘れですか?」

「軍病院でNBC兵器テロの対処に当たらせるよう要請するのは、私も賛成だ。これについては、政府と軍に協力を依頼しよう。だが、バリケードに重機関銃とロケットランチャーを設置だと?」

「車両による自爆テロを防ぐためです。ほんの数日間だけの話ですよ?それに、脅迫されているのが明らかなのに、後になって何もしなかったと非難されるのは我々ですよ?」

「そうは言ってもだな、ニコ。物事には限度ってものがあるだろ」

「テロ防止には、そんなことは言っていられないと思いますけどね・・・・・・」


 柿崎は警察署のロビーのベンチに腰を掛け、この日3杯目のコーヒーを啜った。メノウノス警部に警備計画書を渡した後、"ブラックスコーピオン"のメンバーはここで待つように指示された。受付にやってきている人の多くは海外から来た観光客で、中には英語ですら話すことをしない者もいて、担当の警官は苦労していた。そこで、暇つぶしがてら、傭兵たちはそんな外国人観光客―――と言っても、それぞれの母語の人間の言葉を英語に変換する程度だが―――の通訳の手伝いを買って出た。時折、自分たちのことを何者なのかと尋ねる者もいたが、その時はインターナショナルサークルの団体旅行だと返しておいた。仲間たちの方を見ると、既に手持ち無沙汰になってしまっていたのか、スマートフォンやタブレットでネットサーフィンをしたり、待合室にあった雑誌や新聞に目を通したりしていた。だが、"ブラックスコーピオン"のメンバーの中に、ギリシャ語を読める者は誰一人いなかった。


 5月20日 0925時 ギリシャ アテネ


 安アパートの部屋のドアがノックされた。部屋の中にいた男は腰のホルスターに隠していたブローニング・ハイパワーのグリップを握り、覗き穴から外の様子を見た。外にいたのが仲間だったが、チェーンを付けたままドアを開けた。

「今日は何を買ってきた?」

「卵と牛乳、ツナ缶と食パン、バターだ」

 正しい合言葉が返ってきたため、男はドアを開けた。

「状況は?」

「今のところ問題無し。尾行が来ている様子も無い」

「それで、計画通りやるのか」

「ああ。作戦の段取りを確認しておけよ。ターゲットの数は多いが、上手いことやればかなりの数を巻き込むこともできる」

「よし。恐らく、警察や軍の特殊部隊は待機しているだろうが、全部をカバー仕切れる程では無いだろう。武器の用意は?」

「さっき受け取ってきた。後は実行するだけだ」

「うむ。では、変更は無しだな」


 5月20日 1044時 ギリシャ アテネ 警察本部


 ようやく事項が決まったのか、メノウノスが所長室から出てきた。ペルサキスも後ろから続いている。

「皆さん、お待たせしました。取り敢えずのところ、我々で市内のパトロールを行います。万が一、テロ攻撃に遭遇した場合は、火器の使用や容疑者の拘束、排除、被害者の救護などは行うことができます」

 メノウノスが"ブラックスコーピオン"のメンバーに数部ずつ、A4サイズの冊子を渡した。表紙には英語で警備計画と書かれている。

「それで、念のためですが、皆さんにはこれを常時着てもらいます」

 メノウノスが差し出したのは、白文字で"αστυνομία"(警察)と書かれた黒いベストだ。

「警備員ということでも良かったのですが、他の警官に間違われないように、これを着てもらうのが良いということになりました」

 トリプトンは受け取った冊子に軽く目を通した。

「しっかり読んでおくことにしましょう。他には?」

「武器の携行は当初の計画通りで構いません。ヘリは空軍基地で待機してもらいます。できればEKAM、つまりは我々警察の特殊部隊の支援もお願いしたい」

「まずは・・・・・不審物の捜索ですか」

「そんなところです。目下、捜査員が街中の監視カメラの画像を分析したり、パトロールを強化したりしています」

 続いて、ペルサキスが口を開いた。

「メノウノス警部が指揮しているのは対テロリスト課と言いつつも、本格的なテロに対しては、君たち元特殊部隊のプロからして見たら、ひよっこレベルの対応しかできないだろう。残念ながら、君らのよこした計画書の内容は、全部を実行するするには政府の支援や決定が不可欠だ。都市の警察レベルでできるものではない」

「うーむ。仕方ありませんね。では、できる範囲でやれるだけやってみましょう」

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