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アテネ-2

 5月19日 1434時 ギリシャ アテネ


 アパートは3部屋、借りられており、中はそれぞれ、だだっ広いリビングルームとバスルーム、キッチン、トランクルームという構成になっていた。傭兵たちは荷物を全部トランクルームに入れ、まずはゆったりと寛ぐことにした。

「まずはボスに状況報告をしよう。ネットは繋がっているかな?」

 トリプトンはテーブルにタフブックを置いて起動した。"ユーロセキュリティ・インターナショナル社"専用のメッセージアプリを起動すると、受信ボックスにメッセージがあった。カート・ロックからだ。

"ハワードへ 一応、注意しておいたほうが良いと考えられる情報を手に入れた。5月23日の1730時に試合開始というメールを傍受した。調べてみたが、その日のサッカーの試合で、1730時にキックオフする試合は無い。こっちでもよく注意して調べてみる。添付ファイルに原文も載せておいた。確認しておいてくれ"

 トリプトンがファイルにカーソルを重ね、念のため、右クリックをしてからメニューを開き、ウィルス検査をした。緑色のチェックマークが出たので、安全だと判断し、ファイルを開き、メッセージを確認した。内容はこうだった。


A『試合の時間はいつだ?』

B『5月23日、11時00予定だ。選手の様子はどうだ?』

A『トレーニング公開日にホームのスタジアムで見てきた。みんな調子は上々のようだ』

B『それは良かった。他の準備はできているのか?』

A『全て手配を終えている。後はキックオフを待つだけだ』

B『了解だ。予定通り、試合はやるんだな?』

A『ああ。雨天決行だ。しっかりと確認してきた』

B『わかった。チケットはキャンセルしなくていいんだな?』

A『勿論だ。チケットは当日渡す。それでいいか?』

B『ああ。問題ない。では、当日にな』


 トリプトンはメールの文章をそのままワードにコピーして、文章として保存し、さらにUSBメモリにコピーした。

「イチロー、こいつをどう思う?」

 トリプトンが柿崎にパソコンの画面を見せた。

「ううむ。これがテロ攻撃の計画についてのやり取りだとしたら、テロリストは詰めが甘いな。どうせなら、サッカーの試合がある日時でメッセージを送れば撹乱できた筈だ」

「5月23日・・・・・他に何か予定されていることはあったか?」

 ネタニヤフが口を挟んだ。

「4日後だな。ギリシャだと・・・・・これか?」

ネタニヤフが新聞を見せた。この日は欧州・アフリカ・中東経済国際フォーラムの初日だ。

「各国の財界の重鎮や、経済関係の省庁、世界最大規模レベルの多国籍企業の最高幹部クラスが集まる会議だ。もし、ここがテロリストに襲われて、その中の何人かが死んだら、翌朝の東京やニューヨーク、ロンドンの証券取引場にとっては悪夢の一日の始まりになるな」と、ケラーマン。

「それと、1100時となると・・・・・・」

 マグヌス・リピダルがPCのキーボードを叩き、フォーラムの初日のプログラムを検索した。

「初日のセッションが終わり、関係者が会場の前で記念写真を撮ることになっている。多分、奴はここを狙う気だ」

「場所はどこなんだ?」

 マルコ・ファルコーネが訊く。

「スタヴロス・ニアルコス基金カルチャー・センターだ。公立図書館に併設されている」

 リピダルが答え、更に続ける。

「一般人は通りを歩いていく程度だろうが、当日はマスコミ関係者も多く集まってくる。テロを仕掛けて世界の注意を引くにはうってつけの環境だ」

「ここでテロを起こすとなると、何パターンか考えられるな。まずは、爆弾テロ。そして、化学兵器テロだ。これは、当日、不審物に細心の注意を払うしか無い。次は銃の乱射や車による突撃。これは、状況にもよるが、遭遇したら銃をぶっ放してでも食い止めるしか無い」

「さて・・・・警備プランをこっちでも考えてみよう。後でメノウノス警部にも持っていってみよう」


 5月19日 1539時 ギリシャ アテネ


 テーブルの上に広げられた地図に、赤や青のペンで幾つも線や記号が書き込まれていた。既に10パターン以上のテロ攻撃と、その対処について、近くに置いてあるノートに書き込まれている。

「ううむ。こことここに特殊部隊員と検問を配置すべきだな。できれば、ターゲットになり得る場所の半径100mくらいの範囲には車を入れたくないな」

 ブルース・パーカーは思案しつつ、警備計画書を作り上げていた。パソコンで幾つもウィンドウを開き、それはA4の紙に書き起こすと100ページを越えるものだった。

「さてさて、メノウノス警部はこれで納得するかもしれないが、他のお偉いさんはどうなるかな。何せ、会場の周囲300mはほぼ封鎖することになるからな」

 トリプトンはビスケットを咀嚼しながら書類をつまみ上げた。警備計画のレポートは、どこのパラノイアに羅患した軍事スリラー作家が書いたものか、とも言えそうな内容であった。

「これなら自動車の突撃と、銃の乱射、自爆テロは大方防げる。まあ、封鎖線外からミサイルが飛んできたり、マスコミのフリをしたヘリからの航空攻撃だけはどうしようも無いけどな」

 パーカーが答えた。柿崎がレポートに慎重に目を通しつつ、何か穴がないかよく確認している。

「こいつを破るなら、戦車とヘリ、対戦車ミサイルが必要だな。まあ、ギリシャ警察が納得するかどうかが問題だけどな」

 柿崎はコーラを一口、ペットボトルから飲んで、レポートをテーブルの上に置いて言った。

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