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アテネ-1

 5月19日 1227時 ギリシャ アテネ 警察本部


 トリプトンらを乗せた装甲車が警察本部の駐車場に停まった。警察本部の建物は、歴史的建造物の多い街並みの景観をできるだけ損ねぬよう、白い大理石で作られていた。ギリシャの都市部では、歴史的建造物と近代的な建物が入り交じる不思議な光景が多く見られる。道路もアスファルトで舗装されている箇所があると思いきや、途中で石畳の道が見えたりする。今のところ、数名の観光客と思しき集団に3人の警察官が英語で応対している以外には、別段変わったところは無いようだ。

「対テロリスト課は3階です。ついてきてください」

 メノウノスにトリプトンらは付いて行った。時折、制服姿の警察官から『この色々な人種が混ざった民間人連中は何者だ?』というような目を向けられた。


 対テロリスト課は、先月まではそれ程大きな部署では無かったが、ここ最近のヨーロッパで続発するテロ事件を受けて、人員も装備も拡充されていた。一般警官はベレッタM92の他にMP5A4も支給されるようになっており、肩からサブマシンガンをスリングで下げた制服警官を数人見かけた。トリプトンたちは、対テロリスト課の会議室に通された。会議室の中心には大きな長方形のテーブルが置かれ、その長辺の左右に椅子が10脚ずつ置かれている。奥の壁にはスクリーンが埋め込まれ、PCがテーブルに置かれている。

「では、みなさん、こちらにどうぞ」

 メノウノスの言葉で、傭兵たちは一斉に席に座った。メノウノスはPCを操作して、スクリーンに情報を表示させた。3人の人間の顔写真が映し出される。

「まず、我が国に侵入したとされる連中です。左から、ジェームズ・ロッキード。この男は、ナイジェリア出身の過激派です。4年前のUAEでの中華航空機爆破事件に関与しているとされています。次に二人目。こいつは、イギリス人で、中東やアフリカでの滞在中に過激な思想に被れたと考えられています。名前はロバート・マカリスター。半年前にAK-47を使い、イギリス政府の職員とイギリス軍属の人間をヘリフォードの路上であわせて8人、殺害しました。本人はSASの隊員を狙ったつもりらしいのですが。次」

 メノウノスがレーザーポインターで3人目の男の写真を指し示した。アジア人だ。

「最後に、こいつはカン・ヒョンチョル。北朝鮮偵察局の元工作員で、今はフリーランスの身とされていますが、実際には、未だに北朝鮮政府の司令を受けて、表沙汰にできない活動に手を染めているらしいです」

 トリプトンは、全員の名前と情報をメモに書き残した。メノウノスが続ける。

「この3人のうち、ロッキードは入国したことが、はっきりとわかっています。アテネのピレウス港の入国管理局に記録が残っていました。しかし、使われていたパスポートは偽名で、髭と髪を伸ばしていました。監視カメラの映像を分析した結果、ロッキードだということがわかりました。現在、監視のために私服警官が追跡をしています。しかし、マカリスターとカンの方は、入国したことすら、確認できていません。入国するにしても、恐らくは変装し、偽名で登録したパスポートを使うはずです」

 メノウノスは続けた。

「皆さんには、これらの連中の追跡の手伝いをお願いします。見つけた場合は、監視と尾行をしてもらいます。勿論、緊急時には、拘束し、また武器の使用も許可します」

 恐らく、これについてはギリシャ側へNATOから圧力をかけたはずだ。

「私服警官で追跡をしては、という意見は警察内部でもありました。しかし、プロのテロリスト相手では、我々では手も足も出ないという結論に至り、政府からNATOを通じて、皆さんの協力を得ることになった、ということです」

「つまり、我々は観光客のフリをしながらテロの容疑者を監視し、必要とあれば拘束または排除しろ、と。そういうことですか」

 トリプトンの言葉にメノウノスは頷いた。

「今日のところは、ここで終わりにします。皆さんには、明日から活動に入って頂きます。アパートまでお送りしますので、後はご自由にどうぞ」


 5月19日 1315時 ギリシャ アテネ


 メノウノスや対テロ課の刑事らが運転するワゴンに分乗し、"ブラックスコーピオン"のメンバーは宿泊する予定のアパートと移動した。

「さて、どうする?」

 ジョン・トラヴィスがブルース・パーカーに訊いた。この時間からは、殆どする事が無くなった。

「まずは、アパートに荷物を下ろそう。武器は常時携行。観光兼パトロールは4人単位で交代で行くこと。それと、ボスに報告もしないとな。それと、武器や弾薬が追加で必用になった場合は今回もドイツ大使館を通じて外交行嚢で送ってもらうことになっている」

「ふむ。取り敢えず、ホテルに着いたら部屋に行こう」


 5月19日 1358時 ギリシャ アテネ


 ステーションワゴンはアッティキ通りに面した、5階建てのやや小さなアパートの前に停車した。すぐ隣はスーパーマーケットがあり、日用品の調達には苦労せずに済みそうだ。

「それでは、明日は9時に迎えに来ます。今日はゆっくりお休みください。それと、こちらが鍵です」

 メノウノスは、鍵を3つ、傭兵たちに手渡した。

「では、明日」

 ワゴンはそのまま走り去り、アパートの前に傭兵たちが残された。この辺りは、観光客向けのアパートが多いのか、アジア系の家族連れが、目の前の7階建ての建物の中へと入っていくのが見えた。

「さて、まずは荷物を下ろそう。こんな大きなものを抱えていると、重くてかなわん」

 キュルマリクがそう言ったので、各自、アパートの中へと入っていった。

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