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古都

 5月19日 1014時 ギリシャ タナグラ空軍基地


 2機のHH-60Gへの燃料補給が完了し、黄色いタンクローリーが離れていった。空軍のグランドクルーが旗を振ると、ハリー・パークスがエンジンをスタートさせた。

『タナグラタワーより"ブルーホーク"、"ゴールドホーク"へ。離陸を許可する』

「"ブルーホーク"了解。離陸する」

 パークスはエンジンが離陸するのに十分なパワーを出すのを待ち、機体をゆっくりと上昇させた。機首を南に向けて、アテネへ向かう。ペイブホークは編隊を組み、飛んでいった。


 ブルース・パーカーはヘリのキャビンから窓の外の光景を眺めた。真っ白な大理石でできた独特な建物が並び、通りでは乗用車が走っているのが見える。隣でアラン・ベイカーがM134ミニガンの調子を確かめている。

「やれやれ、ここを攻撃する意味なんて、本当にあるのかね・・・・・」

 ジョン・トラヴィスには、テロリストがギリシャを攻撃する意味がよくわからなかった。ギリシャは確かにNATO加盟国ではあるが、軍をアフリカや中東に派遣している訳ではない。

「ギリシャの主要産業は観光だ。そんな所でテロが続発するとなると、経済的には大ダメージになるからな」

 マグヌス・リピダルが答える。

「それにしても、よく情報網に引っかかったな。確か、指名手配中の奴だっけ?何者なんだ、そいつは」と、トラヴィス。これには、ピーター・スチュアートが答えた。スチュアートは、タブレットの情報をトラヴィスに見せた。

「フランク・バクスター。ナイジェリア出身の過激派だ。こいつは、宗教とかそういう関係ではなく、主に経済的な面で西側を恨んでいるらしい」

「経済的?」

「ああ。こいつの主張によれば、欧米やその他先進国は、アフリカの資源開発協力をするとか言いながら、あらゆる富を収奪しているらしい」

「馬鹿馬鹿しい」

 トラヴィスが吐き捨てるように言う。

「全くだ。見てみろ。外国の資本が入った結果、レンガ造りの家やテントが並ぶアフリカの町なんて、既に過去のものじゃないか」

 ファルコーネがトラヴィスに同意した。最近、アフリカの状況を経済ニュースで見たが、ガーナやカメルーン、コートジボワールといった国々は、今までのアフリカのイメージからすると驚くほど都市化しており、都市型の高架高速道路が街中に張り巡らされ、きれいな高層ビルが立ち並んでいた。

「だが、そういうのは、工業化や資源輸出に成功した国だけだ。それに失敗した国は、未だに貧しい」

 パーカーが指摘した。


 5月19日 1034時 ギリシャ


 柿崎はヘリのキャビンから観光をしながらも、何か不審なものは無いか、注意深く、特に車両や小型ボートを観察していた。ギリシャは地中海に面しているため、アフリカや中東のテロリストが小型ボートを使ってこっそり入国するのは容易だ。しかし、ギリシャの沿岸警備隊や海軍は、専ら不法に入国しようとしてくる難民船や密輸船の摘発の方に力を入れており、そういったところまでに手が回っていないのが現状だ。なので、先日、ヨーロッパを名指ししてテロ攻撃を行うと宣言した連中が入ってくるのは時間の問題だった。


 5月19日 同時刻 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 カート・ロックはキーボードを叩き、NATOが寄越した通信傍受のデータを片っ端から調べていった。先日、イギリス空軍のRC-135Vがイタリアの空軍基地に派遣されたとの情報が入った。恐らくは、アフリカや中東方面での情報収集任務をすることになるだろう。通信情報傍受(SIGINT)電子情報傍受(ELINT)だけでは手に入れられる情報が限られてしまうため、結局のところ、諜報員や特殊部隊員を現地に派遣した、人間による情報収集(HUMINT)に頼らざるを得ない状況になるのだ。

「カート、こいつをどう思います?」

 情報部の部下である、アンリ・マルセイユが数枚のプリントアウトを差し出した。そこには、恐らくは電話での会話を傍受したものを書き起こしたと思われる文字が並んでいた。

「ううむ。どれどれ。こいつは・・・・・」

 そこには、試合開始は1730時だ。日にちは5月23日だ。場所はヨーロッパのどこかだ、などと書かれていた。

「念のため、検索してみましたが、この日のそんな時間に行われるサッカーの試合はありません。その日のサッカーの試合は、ドイツ・リーグの1930時からの試合とスペインリーグの1800時からの試合、そして、フランス・リーグの1800時からの試合と、イングランド・リーグの1900時からの試合です」

「一概に断定はできない・・・・・が、注意する必用はあるな。9.11の数日前や前日も、似たような文言の通信が傍受されたらしいと聞いたことがある」

「一応、スキャンして、データをハワードたちに送ったほうが良いでしょう。テロリストの攻撃予告とみなして、警告すべきです」

「そうだな。この原文をそのままメールで送ろう。司令官にも、この内容は報告すべきだな」


 ジョン・トーマス・デンプシーは、様々な軍や警察の動きの情報を纏めていた。今のところ、NATOからの具体的な司令は無し。そして、ギリシャに潜伏しているとされる連中の情報も更新されている様子は無い。やがて、ドアをノックする音が聞こえた。デンプシーは入れ、と言うと、ドアが開き、カート・ロックが入ってきた。

「ボス、こいつをどう思います?」

 ロックは先程手に入れた情報を纏めたプリントアウトを司令官に差し出した。一応、スポーツの試合の時間も調べたが、関連は無いとも言っておいた。

「ううむ。これは、注意すべきだな。だが、ヨーロッパのどこかとしか言っていないのか。これは、情報としては断片的過ぎるが、無視してもいいという訳ではないな」

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