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南東へ-3

 5月19日 0839時 ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 ジョン・トーマス・デンプシーはシャワーを浴び終え、迷彩服を着て、ホルスターに入っているFN57を確認した。この銃は、最近になって支給され始めたもので、グロックのように撃鉄は見えないが、これはスライドの中に隠れているだけであって、ストライカー式撃発ではない。セイフティだけは従来のベレッタのように手動レバー式だ。これから、食堂へ向かい、朝飯を食べるつもりだ。あと1時間もすれば、情報部の連中がやって来る頃だ。夜間当直の警備員は、銃や装備を片付け、家へ帰る用意をしている。デンプシーは武器庫へ向かい、今日、職員に支給される銃を受け取りに行った。


 武器庫の前では、10人程の職員が銃の支給を待って列を作っていた。先程、見かけた職員がブッシュマスターACRを持っていたので、この銃であろう、とデンプシーは考えた。ユーロセキュリティ・インターナショナル社には、西側で製造されている個人携行武器のほぼ全てと、一部のAK系統の銃が大量に保管されている。恐らく、ドイツの民間施設の中で一番多くの銃が保管されているのがここであるのは間違いない。先頭にいた職員がACRと弾倉の入ったベルトパウチを渡され、書類にサインする。その職員の次に並んでいた職員は、M72ロケットランチャーも1丁、受け取った。


「おはようございます、司令官。では、こちらをタップしてください」

 武器管理係の職員がタブレットの画面を見せた。そこには、誰がどの武器を何丁持ち、弾倉を何個持っているのかが記されている。殆どの職員が今日はACRを支給されたようだが、中にはレミントンM870を持ち出した職員もいるようだ。

「よし、こうだな」

「次はIDをお願いします」

 デンプシーが社内IDを差し出した。職員が端末でQRコードを読み込んで、司令官に支給した銃のデータを読み込む。できれば、全ての銃にICチップを埋め込んで管理できればよいのだが、ここにある銃は無数とも言えるほどの数なので、そこまでする予算までは捻出できなかった。


 5月19日 0908時 ギリシャ タナグラ空軍基地


 ドイツ空軍の輸送機が次々と着陸した。誘導路では、この日最初の訓練フライトのために離陸準備をしているミラージュ2000-5戦闘機が待機していた。3機の輸送機を『Follow Me』と書かれた大きな看板が付いたトラックが先導していく。輸送機の移動が終わるまで、たっぷり10分、戦闘機は待たされた。パイロットはかなり苛ついていたようで、管制官から離陸許可が出ると、即座にアフターバーナーをいつもより蒸して飛んでいった。


 輸送機が駐機場に並ぶと、A340にはタラップが取り付けられ、A400Mからは2機のヘリコプターとその他機材が、ドイツ空軍とギリシャ空軍の兵士たちの手によって運び出された。


 機体が完全に停止し、ベルト着用のサインが消えた。特殊部隊員たちは、シートベルトを外すと、手荷物のザックを背負い、立ち上がった。事前情報によれば、ギリシャ警察の人間が迎えに来ているはずだ。


 ギリシャ警察のニコ・メノウノス警部は、基地のエプロンでドイツ空軍の飛行機を見上げた。情報によれば、今回、手助けのためにやってきた連中は、マルタやモナコでのテロ攻撃の鎮圧を手伝った連中らしい。ギリシャは未だに経済危機の傷跡が残っており、テロ対策に回す予算は非常に少なく、軍や警察のテロ対応能力は日を追うごとに低くなっていた。しかし、ここまで次々とヨーロッパがテロに襲われている現状を考えると、ギリシャでもテロ攻撃が行われるのは時間の問題だ。そして、軍の情報部へNATOからの警告が伝わった。ヨーロッパの軍や警察は、テロ攻撃の情報には非常に敏感になっており、例えどんな些細な情報でも軽く扱わないようにしていた。


 ハワード・トリプトンは席から立ち上がると、両手両足を回し、首を動かした。座席は、民間エアラインでいうビジネスクラスと言ったところで、スイッチ一つで倒れてベッドにもなる。流石はVIP用の機体だ。

「さて、仕事にとりかかろう。もうギリシャ警察の連中が迎えに来ているはずだ」

 ベルト着用のサインが消えると、傭兵たちは一斉に行動を開始した。ドアが開き、ドイツ空軍のクルーが親指を立てると、傭兵たちはぞろぞろと歩いて、ドアへと向かった。


 メノウノスは、タラップから下りてきた集団を見やった。殆どの人間がヨーロッパ系の人間だが、アジア系、アフリカ系、中東系の人間も混じっている。全員が真っ黒なサングラスをかけているので表情を一切読むことはできないが、そのムダのない動きから、連中がプロだという事がわかる。

「ミスター・トリプトン?」

 メノウノスが先頭のアフリカ系の男に話しかけた。

「ええ」

「ギリシャ警察、対テロ課のニコ・メノウノスです」

「ユーロセキュリティ・インターナショナルのハワード・トリプトンです。向こうにいるのが、仲間です」

 副隊長の柿崎以下、他のメンバーは、輸送機から機材を運び出しているところだった。A400Mの後部ランプが開き、ギリシャ空軍の地上クルーがHH-60Gをトーイングカーで引き出している。

「ここで立ち話でもなんですから、詳しい情報は署についた時にしましょう。あなた方は、ヘリで移動ですよね?」

「ええ」

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