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壊滅

 3月5日 1751時 デンマーク 北海 海中 


 先頭のSDVに乗った突入部隊の隊長、ハンス・グリュック少佐は慎重に前進した。少しずつ、海面上から入ってくる光が減っていき、視界が悪くなってくる。武器はMP-7の他、レッグホルスターにグロック19を、胸のホルスターにはヘッケラー&コッホP-11を入れている。この奇妙な5つの銃身を持つ拳銃は、水中での使用を前提に設計された特殊な拳銃だ。ダーツのように細長い弾薬を持ち、電気着火で撃発する。しかし、面倒な事に、この拳銃は5発撃ち切ると、弾倉そのものとなっている銃身ユニットを交換するようになっており、扱いが少々面倒なのだ。隊員のうち、5名がロープ銃を持ち、突入を支援する。だが、まずはヘリボン部隊が攻撃を行い、その混乱に紛れて水中工作部隊(フロッグメン)が突入する手はずになっている。


 海の中は白い、小さな欠片のようなものがそこら中を舞っている。マリンスノーだな、とグリュックは思った。これは、雪のように見えるが、実はプランクトン等の微生物の死骸の塊で、氷の粒で出来ている訳ではない。上を見てみると、赤く染まった空が段々と暗くなっていくのがわかる。頼りになるものは、SDVに搭載されたレーダーとソナーの画面、方位表示装置だけだ。


 一方、テロリストの方は迎撃準備を整えていた。武器はロシア製のAPS水中銃とGP-45水中擲弾銃だ。GP-45は上下二連式で、特殊設計された45mmの魚雷のような形の擲弾を使う。


 3月5日 1802時 デンマーク コングシュレ空軍基地


 コングシュレ基地の一室には作戦司令部が設置されていた。フロッグメン部隊のヘルメットに搭載されたカメラの映像がリアルタイムでスクリーンに映し出される。しかし、暗視対応では無かったため、真っ暗な水中の様子が広がっているだけだ。

「どうなっている?これでは何もわからないぞ」

 シュレーゼンは不満をぶちまけた。

「最新式のものであれば、赤外線暗視機能があるのですが、今あるものは・・・・」

「どうして最新式のものが無い」

「予算の都合上で・・・」

 シュレーゼンは唸った。だが、今年度の国防費はかなり削られてしまったのだ。デンマークのような小規模な軍が最新鋭装備をそう大量に揃える余裕があるはずもなく、今ではPMCの方が小国の軍よりも遥かに潤沢な予算を組み、最新鋭の兵器、装備を大量に導入するという事態が起きている。信じられない話だが、一部のPMCは完全に傭兵化しており、国に半永久的に雇われ軍隊に代わって防衛を担当したり、時には隣国へと侵攻したケースもある。

「どうするんだ」

「待つしかないでしょうね」


 3月5日 1811時 デンマーク 北海 海中


 テロリストは暗視ゴーグルで向かってくるコマンド部隊を見つけた。武器はMP-7かミニウージーのようだ。全部で10人、水中スクーターを使っている。情報通りだ。リーダー各の男が手を挙げて合図した。5人のテロリストがGP-45を構える。そして、射程圏ギリギリに入った瞬間、グレネードランチャーの引金が引かれた。対人用の魚雷のような形の榴弾が10個、水中を飛んでいった。


 グリュックは最初、何が起きたのかわからなかった。しかし、凄まじい衝撃波を感じた時、『やられた』ということだけは分かった。

 

 水中は空気中よりも衝撃波や音波が伝わりやすい。よって、小さな榴弾の爆発だけでも人体に与える影響はとても大きい。隊員の一人は45mm榴弾の爆発を至近距離でまともに食らったため、頭蓋骨と頚椎を粉砕されて即死した。パニックに陥ったもう一人の隊員がMP-7を乱射し始め、隣の隊員を撃ってしまった。視界はあっという間に真っ赤に染まり、鈍い銃声と悲鳴、爆発音だけが聞こえる。そして、一人、また一人と息絶えた特殊部隊員が海底へと沈んでいった。


 グリュックは混乱の最中、なんとか自分を落ち着かせ、部下を助け、撤退しようとした。しかし、後ろを見ると頭にダーツの矢のようなものが何本も刺さった部下が水中スクーターから転げ落ちて沈んでいくのが見えた。そこで彼はAPS水中銃に撃たれたのだ、とわかった。やがて、鋭い痛みが前進を駆け巡った後、彼の意識は途絶えた。


 3月5日 1815時 デンマーク コングシュレ海軍基地


「なんてこった!全滅じゃないか!見ろ!」

 シュレーゼンはモニターに映った光景を見て怒鳴り散らした。

「どうするんだ?このままじゃ核物質をテロリストに取られて終わりじゃないか!」

 そんな様子を見て柿崎はかぶりを振った。まあ、彼にとっては予想通りの結果だったのだ。ここまで突入を急がせるのを彼は見たことが無かった。

「おいおい、どうなっているんだ?なんで奴らは海中から突入するのがわかったんだ?」

トム・バーキンがかなり困惑した様子で言った。

「セオリー通りならば、ヘリからラペリングするか、海中から潜入するかの二通りしか無い。そのどっちにも奴らは備えていただけさ」

 柿崎が答える。

「だが、なぜ突入するのがわかった?考えてみろ。奴らはまるでこっちの動きがわかっていたみたいな様子だった」

「どういう意味だ?」

「考えてもみろよ。ヘリはタンカーからあんなに離れた所で部隊を下ろしたんだぞ。なのに、迎撃された。つまりは、さっきの行動は奴らに筒抜けだったと考えるのが一番かと」

「何を言いたい?我々の中に内通者でもいたと?」

「それも考えられるが、ヘリはどの経路を通って飛んだんだ?」

「何故そんなことを気にする?」

「重要なんだなー、これが。取り敢えず、ストラウト中佐に聞いてみるよ」

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