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南東へ-2

 5月19日 0703時 ドイツ空軍 A310機内


 飛行機が安定した飛行に入ると、早速、給仕の軍曹が朝食のメニュー表を配り始めた。出発する前は、司令部のコーヒーしか飲んでいなかったため、"民間"特殊部隊員たちはかなり空腹であった。

「ううむ。クロワッサンにパンケーキ、マフィン。ザワークラフトにソーセージ。コーヒー、紅茶・・・・」

 ハワード・トリプトンはメニュー表を見て唸った。少なくとも、現役時代に食べていたMREよりは遥かにマシそうだ。

「豪勢だな。てっきり、携行食が出てくるのかと思ったよ」

 ケマル・キュルマリクが顎をさすりながら、窓から外の様子を見た。朝日はすっかり昇り、ややオレンジ色のかかった光が差し込んでくる。

「一応、俺たちは民間人扱いだからな。だが、これに一般市民を乗せることは殆ど無いぞ。実際には、お偉いさんが乗る飛行機だからな」

 ディーター・ミュラーがキュルマリクに言う。飛行機の内装は、民間航空会社の飛行機で言う、ビジネスクラスと言ったところだ。座席のピッチは広く、ゆったりと脚を伸ばすことができる。

「それと、エコノミークラス症候群にならないように気をつけないと」

 山本肇は席から立ち上がり、脚を動かした。任務が始まる前に動けなくなったら洒落にならない。


 朝日が白い機体をオレンジ色に照らす。アルプス山脈がまだ残った白い冠を被っている上を、飛行機がゆっくり飛んでいく。もうオーストリアを超えて、イタリアの国境にさしかかったところだ。イタリアを越えたら、次はアドリア海を真っ直ぐ南下したらギリシャはもうすぐだ。同じ航路のやや後方にA400Mが飛行している。しかし、こうしている間にも、テロ攻撃の計画は着々と進んでいた。


 5月19日 0709時 エジプト アレクサンドリア


 アテネへ向かう長距離客船は、ほぼ満室だった。出港予定は0900時ではあるが、既に数名の客は乗り込んで、船内で寛いでいた。そんな中、一人の男が職員に乗船券とパスポートを見せた。税関職員はパスポートの査証のページを確認した。まっさらで、どのページにもスタンプは押されていない。

「何か申告するものは?」

「いや、何もない。荷物は着替えと日用品だけだ」

「わかりました。良い船旅を」


 男は自分の二等船室に入ると、鍵をかけ、カーテンを閉めた。そして大きなブリーフケースを開けて、中身を確かめた。

 中には着替えや数枚の書類と、地図が入っている。男は一度、それをテーブルの上に全部広げた。そして、ケースの二重底の蓋を開けると、中からは中国製の79式サブマシンガンとトカレフTT33自動拳銃が出てきた。どちらも貫通力の高い7.62mm×25弾を使う。武器としてはかなり旧式の部類に入るが、殺傷力は十分だ。更に男は、小型のノートパソコンを取り出して、起動させ、メールのチェックし、新たなメールを受信しているのを確認した。


 差出人 ファリド・アル=ファジル

437 8735 483 9374 820 5574 284 6842 9583


477 3874 720 0498 820 5042 459 8946 3724


549 2350 564 0945 349 4583 698 2094 8745


 男はノートのページをめくり、暗号表を照会した。作戦通り、ギリシャへ向かえ。チェコとハンガリーにいる仲間は、これからギリシャに向かうことになる。それにしても、キプロスとモナコでは、立て続けに警察や軍に邪魔をされて、作戦は不完全なものとなっていた。

 そこれにしても、ボス―――ファリド・アル=ファジル―――は、何故アフリカの過激派に手を貸すことにしたのだろう。詳しくは分からないが、スーダンに潜伏していた時に、イギリスの特殊部隊による攻撃計画をボスに伝え、逃げるよう手を貸したのがそのアフリカの奴らしい。


 5月19日 0714時 クロアチア メトコヴィッチ郊外


 1台の大型トラックが幹線道路を南下していた。もうすぐボスニア・ヘルツェゴヴィナとの国境だ。20年以上前は、血で血を洗う内戦が続いていたこの国も、すっかり平和になっていた。この道路も乗用車がまばらだが走っており、皆、自分の目的地へ安全にたどり着くことだけを考えていて、トラックのことだの気にもとめなかった。だが、このトラックのコンテナの中には、大量の爆薬が入っていた。


 5月19日 0721時 モーリタニア アタール郊外の砂漠


 ファリド・アル=ファジルはこの日最初の礼拝(サラート)をしているところだった。砂の上に絨毯を敷き、メッカの方角に顔を向けて跪いて数回、頭を下げていた。向こうに見える街並みから、微かに礼拝を呼びかけるアザーンが聞こえている。近くの部下たちもAK-47やFN-FALを砂の上に置いて、ボスと同じように礼拝をしている。やがて、礼拝が終わり、ファジルは銃を拾い上げた。

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