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Operetion Spring Britz-1

 5月3日 1429時 北大西洋 西サハラ海岸線から18海里の公海


 2機のMH-60L(DAP)がフランス海軍強襲揚陸艦"ミストラル"にアプローチを始めた。後ろからは、更に3機のフランス海軍のEC-225が続いている。後続のヘリに乗っているのはフランス陸軍第2外人空挺部隊とコマンドー・ユベルの連中だ。SASとSBS、KSKの連中は、イギリス海軍空母"クイーン・エリザベス"を使うらしい。作戦がまずくなった場合に備えて、イギリス海軍のF-35B戦闘機も待機中だ。これは、NATOがこの作戦をかなり重要視しているのが見て取れる。


「ミストラルへようこそ、ムッシュ・トリプトン」

 ミストラル艦長、アンリ・トワルディ大佐が甲板で出迎えていた。甲板にあるのは、少数の作業用の車両の他は自分たちとフランス海軍のヘリだけだ。他のヘリは、どうやら格納庫にしまっているらしい。

「乗艦許可を願います、艦長」

 トリプトンが言う。

「乗艦を許可する。それにしても、君らは一応は民間人だろ?」

「元グリーンベレーの民間人ですよ。あそこにいる金髪のデカいのが元GSG-9で、そのアジア人は元陸上自衛隊特殊作戦群です」

「なるほど。エリート揃いというわけか。ヘリのパイロットは?」

「パイロットもクルーも、元アメリカ陸軍第160特殊作戦航空大隊ナイトストーカーズです。飛行時間は3000時間を越える腕利きですよ」

 トワルディとトリプトンが話している傍らで、トーイングカーが黒いH-60をエレベーターの方へ引いていった。甲板の空いたスペースに、今度はEC-225が降りてくる。

「しかし、よくわからんのだが、何故NATOは君らのような民間人を使い始めたんだ?」

「恐らく、我々のような立場が曖昧な人間の方が非合法作戦(ブラックオプス)を実行するのに、都合が良いのですよ。民間人なのか軍人なのか、はっきりしない奴らが」

「ふむ。それにしても、これほど大規模な作戦は久々だ。NATOのお偉いさんたちは、余程この作戦に力を入れているんだろうな」

「恐らくは。ここまで複数の国の特殊部隊が合同作戦を行うのは、殆ど無かったくらいですから」

「さて、立ち話はこれくらいにして、艦内を案内しよう。暫くは、ここが君らの家になるからな」


 5月3日 1541時 強襲揚陸艦ミストラル艦内


 山本肇と柿崎一郎は、装備を詰め込んだコンテナを、自分たち用に指定された倉庫へと運び込んでいた。時折、フランスの水兵に奇異なものでも見るような視線を向けられたが、艦長が緘口令を徹底しているのか、すれ違うフランス軍人は軽く挨拶をする程度で、あまり詮索するようなすることは無かった。やがて、目的の扉が見えてきた。

「おーい、ここか?」

 山本が開いたドアに背を向けている男に声をかけた。荷物の点検をしていたデイヴィッド・ネタニヤフが振り返り、手を振った。

「おう。あと、どれくらい残ってるか?」

「次にオリーとマルコが持ってくる箱で最後だ」

 作戦海域に到達するまで数日かかるため、暫くはここで過ごすことになる。その間は、艦内のジムで体力錬成をするか、作戦の見直しを何度もするくらいしかすることが無くなってしまった。


 5月3日 1708時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 隨分と静かになったものだ、と、ジョン・トーマス・デンプシーは思った。作戦が終了するまでは帰宅せず、ここで寝泊まりをすると決めた。肩から吊っているタボールを机に起き、椅子に座ってから伸びをして、目を擦った。ようやく敵の尻尾を掴んだところだ。なんでもいいから、とにかく、敵の正体を知りたい。先日のモナコでの事件も、結局、テロリストは犯行声明を出したり、何らかの要求を突きつけたりはしていなかった。それと、北海沖で盗まれた核物質の件もある。2ヶ月近くもMI6やDGSEが追っているが、未だに所在が掴めないでいる。デンプシーはタブレットを操作して、情報を確認した。


 今のところ、アフリカでの作戦に備えて、ヨーロッパの軍の特殊部隊が展開している以外には、目立った動きは無い。ジプチなどに駐留しているアメリカのアフリカ駐留軍(USAFRICOM)には目立った動きは無く、アメリカ政府は、これはあくまでもヨーロッパの問題だとして、NATOのメンバーであるにも関わらず、介入するつもりは無いようだ。まあ、今のところ、アメリカに切迫した脅威が迫っている訳では無いからな、とデンプシーは思った。

 しかし、ヨーロッパに於いては、かなり深刻な問題であった。現に、いつ、どこでテロ攻撃が行われるかわからなくなった現状により、軍は海外に派遣している人員の殆どを本国に戻していた。

 最近では、企業やNPO法人などが武装警備員を社屋や施設に置いておくケースも増えており、ユーロセキュリティ・インターナショナル社では、そういった場合に、完全武装の警備員小隊を派遣する業務も行っている。一度、日本の海運会社が警備を以来してきた時、自動小銃や機関銃、更にはスティンガーやジャベリンを持ち込んだ警備員を貨物船に送り込んだが、目的地まで無事に送り届けた後、警備状況などの報告を受けた会社の重役たちが浮かべた顔を思い出し、デンプシーはにやりと笑った。そう言えば、イチローとハジメは、日本では、銃というものは、自衛官や警察官、海上保安官にとっては日常の一部だが、一般市民が本物の銃に触れることは勿論、それを見る事ですら、かなり稀なケースであると言っていた。日本のガンコントロールは非常に厳しく、所持している一般人は非常に少ない。だから、銃を使った犯罪も少ないので、一度それが起きた場合は、日本人は非常にセンセーショナルな反応をするのだそうだ。

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