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出動

 3月5日 1741時 デンマーク コングシュレ海軍基地


 MP-7で武装した黒ずくめの集団が2機のNH-90ヘリに向かって歩いている。アクアラングを身につけ、ダイビングスーツの下にアサルトスーツと防弾チョッキを着て、水中ゴーグルを付けた異様な姿だ。彼らは『フロッグマン』と呼ばれるデンマーク海軍特殊部隊だ。英国海軍特殊船艇部隊(SBS)イタリア海軍特殊部隊(COMSUBIN)と頻繁に訓練を行っているものの、実は、この部隊が実戦でシージャック制圧を行うのは初である。彼らは2個小隊12名の編成で、片方は水中スクーターから特殊なロープ銃を使って侵入し、もう片方の部隊はヘリからラペリングで制圧する、とのことだ。NH-90は最新鋭のヘリで、まだデンマーク海軍には配備が始まったばかりだ。辺りは薄暗くなってきており、突入作戦を行うタイミングとしては最適とは言えない。だが、デンマーク政府高官がどういう訳か、現場の反対意見にも関わらず急がせたために、余りに早い出動となった。


「やめるべきです。今、突入するのは部下を死なせに行くようなものです」

 トリプトンがハウゼンに話しかける。

「しかし、政府が決定してしまったのです。こうなった以上、我々には命令に従う以外の選択肢はありません」

 しかし、ハウゼンの言う通りではあった。"ブラックスコーピオン"は作戦が実行可能かどうかは独自で判断することができる。例え外国政府の依頼でも、作戦が実行不可能ならば、彼らは必ず『ノー』を突きつけた。しかし、各国の軍の特殊部隊では事情が違ってくる。現場指揮官が判断できる国もあれば、"政治的な理由"で政治家連中が介入してくることもある。だが、政治家の介入は1972年のミュンヘンオリンピック事件のように、ろくな結果になった試しがない。このケースでは、警察の官僚が狙撃による制圧を指示し(当時、西ドイツにはこういったテロ事件に対処できる部隊が無かった)、射撃の成績の良い警官に狙撃ライフルを持たせて、急ごしらえの制圧部隊を編成した。しかし、ダンボールの人形やマネキンしか撃ったことのない警官のスナイパーは土壇場で狙撃に失敗し、更にいきなり生身の人間を撃つことに躊躇したこともあって、テロリストが人質を銃撃して自爆する結果となった。この事件はあらゆる国の対テロ部隊の教科書で登場し、しばしば『この時、自分たちならばどう対処するのか』という問題を教官がしばしば訓練生に出題する。訓練生からは様々な答えが出るが、未だにどの国の部隊も決め手となる答えに至ったことはない。


 3月5日 1756時 デンマーク コングシュレ海軍基地


 2機のNH-90が夕闇の空へと離陸していった。普通ならば護衛として攻撃ヘリを随伴させるはずなのだが、デンマーク軍はそれを持っていなかった。


「さあて、どういう結果になるのやら」

 柿崎はかなり不安そうな様子で離陸するヘリを見守った。

「お前、どう思う?」

 隣にいたバーキンが言う。

「さあな。ただ、ヤバイ予感がしてならない。計画は急ごしらえだし、奴らの戦力も殆どわからない。成功率は10%あればいい方だ」

「だな。どうして突入を急がせたんだ?」

「国のメンツもあるんだろう。部隊の実力を実戦で試すということもあるだろうし」

「しかし、初の実戦だったな。GSG-9やデルタの初実戦はうまく行ったが、今回はそれと同じようになるとは限らない」

「おまけに、この類のことに政治家連中がしゃしゃり出て来た時は、決まってろくな事にならない」

「だな。おまけに、もし奴らがスティンガーを持っていたら最悪だ。ヘリなんて簡単に撃墜されちまう」

「ああ。だが、俺達にできることは何もない。今は、ただ見ているしか出来ない」


 3月5日 1801時 デンマーク 沿岸部


 NH-90が藍色の空のを進んでいく。もうすぐ降下地点だ。ヘリにはSDV積まれており、これを使って海中から油田に突入する予定だ。SDVはアメリカ海軍が開発した、特殊部隊SEALsを密かに潜入させるための小型の潜水艇で、1機で4人程度の水中工作員を目的地へ密かに潜入させることができる。そして、水中からの突入と同時にヘリからは機銃で空からテロリストを排除する予定だ。しかし、その様子を見ていた人物がいた。


 四人のテロリストは監視のために作った濠からそっと辺りの様子を伺った。一人は高倍率の双眼鏡を持ち、他の三人はバレットM82A1アンチマテリアル・ライフルを持っている。1機のヘリがホバリングして、水中スクーターに乗ったコマンド部隊が暗い波間に消えていくのを確認した。

「こちら"アナグマ"。敵がポイント・シエラ・エコー154方向から水中スクーターで侵入。繰り返す、敵の潜水部隊がポイント・シエラ・エコー154方向から侵入。敵は全部で10人。繰り返す、敵は10人。敵はホテルが2機。うち1機から10人のダイバーが侵入、もう1機は上空援護に付くようだ」


 3月5日 1803時 北海 タンカー


「やっぱりか。計画通りにやるぞ」

 テロリストのボスは司令を出した。銃床が無く、やけに大きな弾倉のアサルトライフルを持ち、ドライスーツを着た14人のテロリストがタンカーのキャットウォークを慌ただしく走り、下に置いてあった水中スクーターに向かった。彼らは用意周到に突入部隊を迎え撃つ準備をしていた。そして、ドライスーツや酸素ボンベを身につけると、慌ただしく水中スクーターを駆り、迎撃に向かった。

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