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戦場の観光地-6

 4月1日 2141時 モナコ公国


 GiGNの隊員たちは数名ずつの班に分かれ、街中を進んでいった。テロリストの気配は無いが、単発や連発での銃声は鳴り続けている。時折、低空飛行するS-70かH-60らしきヘリの音も聞こえる。恐らくは、PMCの連中が持ち込んだものだろう。幸いにも、モナコ警察が規制線をしっかり張っているため、邪魔な野次馬やマスコミ連中が紛れ込んでいる様子は無い。暫く歩くと、バラバラになった人間の死体と、真っ二つになったAK-47や95式小銃が転がっているのが見えた。連中は重機関銃でも持ち込んだのか?

 ふと、バタバタという音が聞こえてきた。どうやら、マスコミのヘリでは無さそうだ。なるほど。傭兵連中はヘリまで持ち込んだらしい。暫くすると、ヘリから、ほんの一瞬、曳光弾の筋が伸びるのが見えた。


 トリプトンは弾切れになったサブマシンガンを背中に回し、ホルスターからP228を引き抜いた。この拳銃は、フレームのレールにフラッシュライトを取り付け、トリチウム発光サイトに取り替えるなどのカスタムが施されている。室内での戦闘では拳銃は有利だが、市街地での屋外となると、やや射程と威力に不足感がある。弾丸は世界的にスタンダードな9mmだが、フルメタルではなくレンジャーTSXを使っている。しかし、9mmでは威力不足の感があった。帰ったら、司令官にそのことを進言しよう、とトリプトンは頭の片隅に書き留めておいた。

 αチームが逃げていく敵に銃撃を加えながら前進すると、通りの角からヘルメットと黒装束を身にまとい、銃を持った集団が現れるのが見えた。その連中の先頭にいた一人がこちらを見つけると、右手を上げて合図を送った。そして、G-36Kを構え、逃げる敵に銃撃を開始する。テロリストもAKやガリルで応戦したものの、一人が銃弾を受けて倒れた。敵はフルオートでこちらを牽制しつつ、通りの奥へと逃走していった。


「大丈夫か?」

 GIGNの隊員が、トリプトンたちに話しかける。

「ああ。奴ら、あっちの方に逃げていった。追いかけよう」

「他の隊員は?」

「無事だ。このまま追いかけて仕留めよう」


 4月1日 2156時 モナコ公国


 HH-60GはRPGや携行式SAMによる攻撃を警戒し、やや高めの高度を保ちながら市街地上空を飛び続けた。キャビンからはクルーチーフのアラン・ベイカーが暗視双眼鏡を使って、地上の様子を監視していた。やがて、通りの角にAKを持った集団を見つけた。

「敵を見つけた。やっつける」

 ベイカーはミニガンのトリガーを押し込んだ。電気ドリルが回転するような音が鳴り、7.62mm弾が敵をあっと言う間に切り裂き、銃撃が終わった後には、挽肉と千切れた布、バラバラになった銃が残されていた。

『敵の排除を確認。引き続き、援護よろしく』

 トリプトンが無線で話しかける。


「こいつは後片付けが大変だな。清掃は誰がやるんだ?」

 柿崎は目の前の"ゴミ"を見て言った。

「さあな。警察か街の清掃係が勝手にやるだろ」

 バーキンがそう返す。

「その前に、俺らがきっちりゴミ掃除をしないとな」


 テロリストの包囲網は徐々ではあるが、築かれつつあった。"ブラックスコーピオン"とGIGNがテロリストを追い詰めていき、その外側をモナコ警察が封鎖していく。銃撃の音は次第に散発的になり、テロリストの制圧は近づいてきた。


「こんな時が一番危ないな。キプロスでも見ただろ」

 ブルース・パーカーが隣にいたリピダルに話しかけた。

「ああ。ヤケクソになって、自爆攻撃なんて始めたからな。確実に仕留めていかないとな」

「捕虜は無しだな」

「とは言え、弾の残りも少なくなってきた。早いところ片付けないとまずい」

 テロリストの残りは、僅か数名程になっていた。GIGNの隊員が自動小銃を撃ち、敵を仕留める。リピダルもサブマシンガンを撃ち、近くにいた敵を斃した。やがて、押し込んでいた敵を交差点のど真ん中に追い込み、釘付けすることに成功した。


『こちらブルーホーク。全員、通りから離れろ。奴らを仕留める』

 無線でグレインジャーが地上にいる全員に伝えた。2機のペイヴホークが、獲物のセイヨウミツバチを睨みつけるオオスズメバチのようにテロリストの目の前に降下し、キャビンの側面を向けた。敵がAKを空に向けるのと当時に、2丁のミニガンが火を噴いた。


 今回のテロ事件で、観光客を含む26名の一般市民、6名の警察官が犠牲となり、100名を超す重軽傷者が出た。モナコ政府は、対処に協力したNATOとフランス政府に感謝の意を公式の場で改めて伝えた。が、この事件の調査を行い、テロリストの多くを斃した"ブラックスコーピオン"とユーロセキュリティ・インターナショナル社には公式の場では一切触れることは無く、後日、モナコ政府の使者が、政府からの公式の感謝状と謝礼金の小切手を持って、ドイツのシュトゥットガルト市にある本社の敷地に訪れたのみに終わった。

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