戦場の観光地-5
4月1日 2114時 オーストリア上空
HH-60Gは最大速度でモナコを目指していた。途中、NATOが手配してくれたA-400M輸送機から空中給油を受けつつ、暗いアルプスの上空を飛び続けた。問題になったのが作戦前後の離発着場所だが、それはNATOがなんとかしてくれた。モナコ政府がスタッド・ルイ・ドゥとその隣にあるスタジアムを離発着場として提供してくれると言うのだ。既に、フランス軍・NATOの統合後方支援部隊がそこに展開し、燃料や弾薬の補給、機体の整備ができる体制を整えてくるているのだそうだ。フランス政府としても、モナコで暴れているテロリストが自国内に入ってくるとなると深刻な問題になるのは火を見るより明らかで、既に国家憲兵隊もモナコへ向かっているようだ。
4月1日 2119時 モナコ・フランス国境地帯
真っ黒なバンが2台、両国の国境警備隊の隊員たちの手前で止まった。それには、白い文字で『Gendarmerie』と書かれている。中の隊員たちはヘッケラー&コッホG-36KやマニューリンMR-73、モスバーグ590散弾銃で武装している。
「待ってたよ。街は既に戦場だ。気をつけてくれよ」
国境警備隊の隊員が話しかけた。
「状況は?」
GIGNの隊長、シャルル・ボシュエが話しかけた。
「警官隊はどうすることもできなくなっている。なんとかNATOから派遣された連中が押しとどめているが、限界に来ているようだ」
「わかった。最大速度で飛ばして行かなくては」
4月1日 2128時 モナコ公国
「RPG!」
トリプトンがそう叫んだ途端、"ブラックスコーピオン"のメンバーが、一斉に物陰へ目掛けてダイブした。しかし、この手の訓練を受けていない一般警官たちは、その意味を理解したのは2秒後で、逃げ遅れた2人の警官が弾頭の爆発に巻き込まれた。
「くそっ!」
一人は左の膝から下を失い、もう一人ははじけ飛んだ金属片を腹に受けた。山本がそのうちの一人を引っ張り、建物の陰へ運んでいく。トリプトンは、今回は市街戦になることから、一般市民へ流れ弾が当たる可能性の低いサブマシンガンをメインに選んだが、その火力不足を痛感した。今度、出動する時は、サブマシンガンは装備から外し、絶対にアサルトライフルを持っていこう。トリプトンはそう心に誓った。そうこうしていると、新たにサイレンの音が聞こえてくる。警官隊を追加で出動させたのだろうか。だが、先程聞いたモナコ警察のパトカーのサイレンとは違う音のような気がしてきた。
バンから下りたGIGNの隊員たちが、カービンやショットガンを手に街中に展開を始めた。身振り手振りで合図を送り合い、攻撃に備えた。
「いいか。モナコの警官の他に、NATOに雇われたPMCの連中もいる!味方を撃たないように、十分注意しろ!」
ボシュエは部下たちを先導し、銃撃戦の現場へと急いだ。銃声や爆発音が立て続けに鳴り、観光地とは思えない状況だ。
「敵の武器はAKやガリルとの情報だ!間違っても味方を撃つな!」
パーカーとキュルマリクが敵に弾丸を浴びせ、弾倉を取り替えた。手持ちの弾も残り少なくなってきており、いつまで応戦できるかわからなくなってきた。
「クソッ、あと何発あるか?」
パーカーが相棒に訊く。
「弾倉が3つだ。そっちは?」
「あと1つしか残っていない!」
「1つやるよ。ほら」
そうしているうちに、再び無線が入った。
『・・・・・ハワード、ブルース、聞こえるか?』
「ハリーか?」
『ああ。ヘリとミニガンを用意している。奴らをレーザーかストロボでマークしてくれれば、いつでもぶちかませるぞ』
4月1日 2132時 モナコ上空
2機のHH-60Gはモナコ上空を飛び回り、敵に狙いを定めようとしていた。ダニエル・リースは暗視ゴーグルで下の様子を見ながら、ミニガンをいつでも撃てるように準備していた。街のそこら中が燃えているのが確認できる。
「おい。モナコって、観光地だったよな?これじゃあ戦場じゃないか」
ロバート・グレインジャーが下に広がる光景を見ていった。
「凄いことになっているな。こいつは・・・・参った」
4月1日 2135時 モナコ公国
ジョン・トラヴィスが不可視光レーザーで敵の集団をマークした。レーザー・デジグネーターのレンズ越しには赤い光の点が敵の集団に映っているのが見えるが、テロリストに側にはそれを見ることはできない。
「こちらトラヴィス、ターゲットをマークした。見えるか?」
『ターゲット確認。ぶちかますぞ!頭下げてろ!』
リースの声が無線から聞こえた直後、曳光弾の雨が敵の集団に降り注いだ。暗視ゴーグル越しに、AKを持ったテロリストの腕が吹き飛び、首から上が無くなる。数秒後には、自分たちを銃撃していたテロリストの集団がいなくなっていた。
「よしっ!この調子で行くぞ!俺たちの他に、モナコ警察や一般市民、GIGNの連中もいるから、間違って撃たないように気をつけろ!」
パーカーは無線でそうヘリに指示した。




