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戦場の観光地-4

 4月1日 2023時 モナコ公国


 銃撃戦が始まった時、ムハンマド・アル=ディン・サビクはカジノから隣の歌劇場へ向かっているところだった。部下に何事かと訊ねると、市内で警官隊と何者かが撃ち合いを始めたらしいという話をした。そこで、まずは安全を確保するために、建物の中で待機することにした。カジノの職員たちも、他の客に建物の中から出ないよう、また窓や扉には近寄らず、できるだけ身を低くしているように指示した。カジノの客たちは、まさか観光に来たのにも関わらず、テロに巻き込まれるとは思ってもいなかったため、軽くパニックになりかけた。何人かの客がドアに向かったが、職員や警備員に制止された。


 ブルース・パーカーは仲間を引き連れて、暗い市街地を進んでいった。灯火管制は行われていないのか、街灯やホテル、商店などの照明は点いたままになっている。オスタンド通りを道沿いに真っ直ぐ進んでいくと、柿崎が先程指示していたホテル・エルミタージュが見えてきた。

「こちらβチーム。指示ポイントに到着。そっちの位置は・・・・・」

 暫く歩いていくと、ヘルメットにアサルトスーツを着て、サブマシンガンを持った味方の姿が見えた。パーカーが手を降ると、向こうの味方が一人、右手をピストルの形にして、前方を指差した。

『敵は4人、AKを持ってる。確実に仕留めろ』

 無線からトリプトンの声が聞こえてきた。

「了解だ」

 パーカーが返事をすると、ケラーマンとリピダルに指示を出した。二人は物音を立てないよう、慎重に敵へと近づいていった。AKを持った敵は前方に集中しており、こちらを警戒していないようだ。ケラーマンは腰のホルダーから大きなコンバットナイフを取り出した。こっそりと近づいた後、最後の2メートルになったところで一気に接近した。敵が気づいたときには既に遅く、脊椎を切断されていた。他の二人は自動小銃を振り回している間に、銃弾を頭に撃ち込まれた。

「タンゴ、ダウン」

「仕留めた」

 スチュアートとトラヴィスが死体を引きずり、人目に付かない所へと持っていった。他の敵がいないかどうか、キュルマリクがあたりを見回す。他に敵は見当たらないが、銃声はまだ散発的に聞こえてくる。

「敵、12時方向」

 G-3とガリルと思しき銃を持った人間が見えたので、パーカーが銃弾を撃ち込んだ。ファルコーネも続き、敵を斃す。銃声と爆発音は続いており、テロリストはまだ制圧できていない様子だった。


 4月1日 2031時 モナコ公国


 警官隊とテロリストとの撃ち合いは続いていた。既にモナコ政府は非常事態宣言を出し、一般市民の外出を禁止していた。マスコミ関係者がカメラを持って屯していたが、警官隊によって一箇所に押し込められ、身動きができないようにされていた。テレビ局の照明器具は警官によって、使用が禁止された。


 拳銃しか持たない警官はかなりの苦戦を強いられていた。モナコの警察には、テロに対処できるような部隊は無く、テロリストに対して全く歯が立たない状況だった。AKやG-3といった自動小銃を持った敵を相手に戦うことを想定していなかったため、拳銃の射程外から弾を良いように撃ち込まれている有り様だ。


「くそっ、これが終わったら、警察長官に俺から直々に新しい部隊を創ることを言うしか無いな。こういう事態に対処できるような」

 アンリ・トゥルデはパトカーの陰に隠れ、拳銃に装填した。

「政府はどうやらフランスに応援を要請したようです。今から国家憲兵隊介入群(GIGN)が向かって来るようで・・・・・」

「それで?どれだけかかるんだ?そうしている間にも、仲間は死んでいくぞ!」

「ヘリで来るようだから、そう長くはかからないはずだ。それまでは、なんとか我々で堪えるしかない」


「クリア」

 トリプトンがテロリストを斃した。その隣で、柿崎が素早く弾倉を取り替える。αチームとβチームは通りの左右に広く展開し、敵を制圧していく。そんな中、テロリストの一人が持っていた銃を持ち上げて、トム・バーキンは顔を顰めた。その銃はイギリス製のL85A1で、よく見ると、排莢口とボルトの間に薬莢が挟まっていた。この銃は、現場の兵士から頗る評判が悪く、SASやSBSといった特殊部隊は早々にこの銃を退役させ、G-36KやMP-5を使っている。後期型は欠陥が改修されたものの、やはり後発のブルパップ銃であるステアーAUGやFN-F2000に比べたらまだまだ欠点が目立つ。更に前進しようとした時、無線が鳴った。

『トゥルデです。ムッシュ・トリプトンは?』

「俺だ。状況はどうです?」

『フランス政府から応援が来るようです。GIGNが出動しました』

「援軍が来るのはありがたい。何しろ、まだ制圧には時間がかかりそうですから・・・・・・」

 すぐ隣で柿崎がM26手榴弾を投げた。爆発でテロリストが倒れる。

『なんとか我々で頑張るしか無さそうです。では、これで』

「ハワード!ボスからだ!」

 ミュラーが無線機をトリプトン目掛けて放り投げた。なんとか上手く掴むことができた。

「はい・・・・・わかりました。それはありがたい。交信終了」

 トリプトンは隣にいた柿崎に話しかけた。

「応援のヘリが来るそうだ。ミニガンを搭載してな」


 4月1日 2041時 ドイツ シュトゥットガルト郊外


 2機のHH-60Gペイヴホークがヘリパッドでローターを回し始めた。キャビンの両脇にはM134ミニガンが搭載されている。このヘリは一旦、フランスで給油してからモナコへ向かう事になっていた。今回の任務は、そこまで酷くはならないのでは、とデンプシーは考えていたものの、やはり読みが甘かったようだ。今度、部下たちを任務に送り出す時は、ヘリの援護を常に付けよう。ヘリを見送った司令官は、そう心に誓った。

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