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戦場の観光地-3

 4月1日 1954時 モナコ公国


 "ブラックスコーピオン"のαチームは通りに広く左右に展開し、銃を構えながら慎重にモンテカルロ通りを前進した。銃声や爆発音が以外は、今のところ聞こえてこない。車や建物には銃撃を受けた痕が残り、倒れて動かなくなった人を時折、見かけたが死んでいるのか、それともまだ生きているのかどうかを確かめる余裕は無かった。

「敵、11時方向!」

 柿崎が叫ぶと同時にサブマシンガンの引き金を引いた。AKを持った人物が1人倒れたが、他の4人が猛烈な銃撃を放ってきたため、αチームの全員が通りに放置されていたリムジンやトラックの陰に隠れた。

「くそっ、どうかしているぜ」

 ディーター・ミュラーが車の下からUMP-9で反撃する。テロリストは巧みに遮蔽物を利用し、こちらの攻撃を防いでいた。

「おい、こいつを使ってもいいか?」

 トム・バーキンがバッグパックからM26破片手榴弾を取り出した。それを見たトリプトンは、周囲の様子を確認した。

「よし、使え!」

 バーキンが手榴弾からピンとレバーを外し、1秒待ってから放り投げた。少ししてから、爆発音と悲鳴が聞こえた。トリプトンが様子を見ると、1人のテロリストが倒れていて、残った3人が銃撃しながら後退していくのが見えた。

「前進!」

 "民間の"特殊部隊員たちは、短い銃撃をテロリストに浴びせつつ、路上駐車された車を盾に使いながら前進した。


 ブルース・パーカーは他のメンバーに遮蔽物を使いつつ、慎重に前進するように指示した。頭を低く下げながら進み、時折、建物のドアや窓から様子を見ている市民や観光客を見つけると、建物のできるだけ奥に隠れているように伝えた。銃声が聞こえてくることから、αチームかモナコ警察がテロリストと交戦しているのは間違い無さそうだ。

「奴ら、陰も形も見えんぞ。どこへ行きやがった」

 マグヌス・リピダルはサブマシンガンを自分の視線と同じ方向に動かしつつ、周囲の様子を確かめた。警察がそうするように警告を流したのか、建物のドアや窓は全て閉まりきっており、カーテンで目隠しもされている。すると、アパートのドアが開き、一人の男が通りの様子を見渡した。それを見たジョン・トラヴィスが家に入るよう警告した。

『・・・・・こちらαチーム、βチーム聞こえるか?』

 無線機から柿崎一郎の声が聞こえてきた。銃声が混じっている。

「こちらパーカー。大丈夫か?」

『援護を頼みたい。場所はモンテカルロ通り1丁目』

「了解だ。カジノ広場から挟み撃ちにするか?」

『いや、同士討ちは避けたいから、ホテル・エルミタージュの方から来てくれ』

「わかった。すぐそっちに向かう」


 4月1日 2001時 モナコ公国


 警察がパトカーをプランセス・アリス通りやムーラン通り、スペリュグ通りに展開させ、バリケードを築いていた。

「奴らを逃がすな。俺たちは取り敢えずのところは、奴らの逃げ道を無くせばいい。仕留めるのはNATOの連中に任せればいい」

 新米の巡査の一人が不安そうにベレッタM92FSのグリップを擦った。果たして、今日、本当に人間を撃つことになるのだろうか。その時、紙の標的ばかり撃っていた自分はテロリストを撃てるのだろうか。赤と青のパトランプで周囲の街並みが照らされ、かつて無い緊迫感に街は包まれていた。今まで、先輩警官からも、このような状況になったことがあるという話を聞いたことが無かった。多分、一度もなったことも無いのだろう。人に向かって銃を撃った警官がいるかどうかも疑問だ。一応、普段は使うことが無い防弾チョッキや防弾ヘルメットも支給されたが、これがどれだけ信用できるのかは彼らは疑問を抱いていた。


「なあ、ちょっと聞きたいんだが、この防弾チョッキのレベルⅡってのは何なんだ?」

 警官が隣にいた相棒に訊いた。

「さあな。多分、性能じゃないか?」

「どれくらいの性能なんだ?」

「さぁ・・・・。少なくともレベルⅠよりはマシなんじゃないのか?」


 柿崎は防弾チョッキのストラップを締め直した。これは、最近支給されたイスラエル製のもので、NIJ企画では最高のレベルⅣのものだった。敵の銃撃はまだ続いており、小康状態が続いていた。

「くそっ、機関銃か自動式の狙撃銃を持ってくるべきだったな」

 デイヴィッド・ネタニヤフが撃ち返しながら言う。

「それと、グレネードランチャーもな。市街地での警備だから、サブマシンガンで十分だと思ったが、甘かったか」

 柿崎が答える。

「これは帰ったら、装備の見直しが必要だな。重火器を持っていくか、それともすぐにヘリの援護を呼べるようにしておくか」


 テロリストはG3A4やAK-74、95式小銃を手に持ち、バリケードを築いていた警官隊と交戦を開始した。小銃弾がパトカーや建物の壁に命中し、火花を散らす。警官たちはベレッタで応戦したものの、夜間に動き標的を撃つ訓練などしたことも無かったので―――殆どの警官が、有効射程外であるにも関わらず、テロリストの姿を見た途端に撃ち始めた―――ロクに命中させる事ができないどころか、9mmフルメタルジャケット弾は建物の壁や窓ガラスに飛んでいくという有り様だった。警官の一人が撃たれて倒れ、他の警官に後ろの方に引きずられていく。

「CP、CP、こちら第3バリケード。1名負傷、1名負傷」

 テロリストから見たら、モナコ警察の警官は素人集団同然だった。拳銃から放たれる9mm弾はあらぬ方向に飛んでいき、誰も怪我をしたり死んだりしない一方で、こちらの銃弾はいともたやすく敵に命中する。まるで、実戦を想定した射撃訓練のようだった。後は、カジノに突入する連中が目的を達成するのを待つだけだ。

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