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捜索

 4月1日 1353時 モナコ公国


 ブルース・パーカーとピーター・スチュアートは昼食後のコーヒーをゆっくり飲んだ後、カフェを後にして市内の散策を始めた。時折、トゥルデ警部から得た容疑者に似た人物がいないかどうか、やや注意深く通行人を観察しつつも、ガイドブックやスマートフォンの地図アプリを見たり、街の風景を写真に撮ったりと、観光客然とした振る舞いをするのも忘れない。港沿いのアントワーヌ1番通りを歩いていくと、丁度、ポポール・エルキュルに巨大な豪華客船が入港してくるところだった。モナコ市民からしてみたら、さして珍しいことではないが、パーカーはカメラを取り出して、数枚、その船の写真を撮った。

「それにしても、デカい船だ。あれの3等船室に泊まるのでも、一泊何百ユーロはするだろうな」

 スチュアートがパーカーに話しかけた。

「ああ。現役の時の給料じゃとても払えんし、今の月収でもある程度貯金をしないと厳しい」

「まあ、仕事とは言えNATOからの"公費"でこういう所を観光できるのは、俺たちの特権だろ。テロの調査にかまけて、ついでに観光もできて、美味い飯を食える」

「ところで、似ている奴を見たか?」

 パーカーはスチュアートに先程、スマートフォンに送られてきた容疑者の顔写真を見せた。

「いいや。お前は?」

「全くだ。さて、奴らはカジノを攻撃する計画だったよな。ちょっとそこいらのカジノの周りに怪しいやつがいないかどうか、見てみよう」


 観光客と思しき一人の男が、カジノ・カフェ・ド・パリの周囲の写真を撮っていた。その男は中東系の顔つきで、身ぎれいな格好をしており、どこからどう見ても観光客であった。だが、男は、少しカジノから離れると、カメラを動画モードにして、望遠レンズを使い、暫くの間、警備員の動きを撮影し続けた。やがて、撮影を終えたのか、彼は望遠レンズを標準レンズに取り替え、街の雑踏の中へ歩き去っていった。


 4月1日 1406時 ドイツ シュトゥットガルト郊外


 ユーロセキュリティ・インターナショナル社の敷地に1台のハンヴィーが近づいてきた。ゲートの前で停車すると、窓が開き、そのハンヴィーの持ち主―――ジョン・トーマス・デンプシー―――が身分証と幾つかの書類を警備員に見せた。

「ゆっくり休めましたか?ボス」

 GL-1グレネードランチャーを銃身の下に取り付けたFN-F2000を肩から吊り下げた警備員が書類とデンプシーを顔を見て、いつものセキュリティチェックの手順を始めた。

「ああ。飯もしっかり食べてきたから、何も問題はないさ」

 デンプシーは一旦、車から降りて、指紋認証機に両方の手のひらを押し付け、網膜スキャンを受けた。暫くすると、パソコンのモニターが、デンプシー司令官本人で間違いないないと表示した。

「ならば良かったです。ボスが再起不能になったら、我々はどうにもすることはできないですから」

 爆音が轟いたため、ふと、空を見上げると、2機のMH-60Lが編隊を組みながら、東の方へ飛んで行くのが見えた。

「さて、俺も仕事に取り掛かるとするか」


 デンプシーが自分のオフィスの椅子に座ると、早速、カート・ロックがタブレットとラップトップを持ってきて、簡易ブリーフィングを始めた。それは、専ら、モナコの状況に関してだった。

「今のところ、ハワードたちはモナコ警察とともに、テロ容疑者の捜索をしています。連中は既に現地入りしているとのことなので、潜伏先の割り出しと監視を重点的にするでしょう。そして、容疑が固まり次第、モナコ警察が逮捕に踏み切るでしょう。問題は、奴らが何を考えているのかが不明だということです」

「モナコはまだ本格的な観光シーズンでは無いが、テロが起きるとなると、今後の観光客の入りに影響が出るのは必至だからな。そうなると、経済が大打撃を受ける」

「しかし、冬の終わりに入ってというものの、ヨーロッパでのテロ事件の頻度はちょっと異常です。これは、間違いなく、誰かがかなり計画的にテロ攻撃を仕掛けてきているものと見たほうがよいでしょう」

「確かに、ここひと月は異常な感じだな。誰かが計画的にヨーロッパを攻撃しているようにしか思えない」

「ええ。ただ、今までテロを仕掛けてきた犯人には、これと言った共通点が見当たらないのです。目的のバラバラですし、国際的なテロ組織との関わりも今のところ、見つかっていません」

「やれやれ。奴ら、一歩一歩足跡を消して、抜け落ちた髪の毛すら拾って歩いているんじゃないか?それに、犯行声明を出したりもしていない」

「そこなんですよね。まるで奴らの目的がわからない。普通なら、自分たちの主義主張を世の中に大声で喚き散らしているところですが、そういうことを全くやっていない。これだと、奴らは単に人殺しをしているだけじゃないか」

「そこなんですよね。それに関しては、今回のモナコを狙っている奴らは、わかりやすいですね。カジノを攻撃する計画だとか、完全に経済的打撃を狙っている」

「そんな小さい国を攻撃して、何の特があるんだか」

「少なくとも、大規模テロでは、金をごっそり儲ける奴らとごっそり失う奴らの両方がいるんです。まあ、儲ける連中がどれだけいるかはたかが知れているとは思いますが」

「まあ、ここでテロ攻撃をするとなると、政治的打撃より経済的打撃を狙う可能性の方が高いな」

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