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束の間の休息

 4月1日 1208時 モナコ公国


 柿崎とトリプトンは昼食を取るためにラルヴォット通りにあるイタリア料理店に入った。中は観光客や現地の人間で一杯で、テーブルが空くまで15分程待つことになった。トリプトンはiPhoneを取り出し、ユーロセキュリティ・インターナショナル社の内部の人間専用のチャット/メールアプリを起動した。これは3重のIDとパスワードに加えて、傍受及びアカウントハック防止機能があり、外部の人間がこのネットワークに侵入することは"ほぼ"不可能だ。トリプトンはその掲示板にトゥルデから新たな依頼を受けたことを書き込み、スキャンした監視対象の写真を貼り付けた。ウェイターが注文を聞きに来ると、柿崎はサラミと生ハムが載ったピザ、トリプトンはボンゴレ、それに加えて二人分のコーラ、それと食後のコーヒーを注文した。

「何だってヨーロッパはこんなに水が高いんだ?見ろよ、ワインの方が安いと来ている」

 柿崎は渋い顔をしてトリプトンに英語とフランス語で併記されたメニューを差し出した。

「日本じゃどうなんだ?」

「普通はサービスで、無料。おかわりも自由だし、ウェイターがよく注ぎに来てくれる」

「ほう・・・・あ、正午を過ぎちまったな。これでガセネタは不用意に言えなくなったな」

「ん?・・・・・そうか。今日は四月バカだったな」


 ケマル・キュルマリクとジョン・トラヴィス、マグヌス・リピダルは監視対象のデータを確認した。ただ、これから昼食を取るつもりであったため、食事がてら今後の対応を検討することにした。

「あそこで食べよう。どうせ経費で落ちるしな」

 キュルマリクが指差したのは、少しばかり立派な感じのドイツ料理店だった。中では観光客と思しき様々な人種の人々が食事を取っているところだった。キュルマリクがウェイターに3人だと伝えると、一番奥のテーブルへ案内された。そこは、座ってしまえば、レストランの中のほぼ全体を見渡すことができ、外の様子を大きな窓から確認することもできるため、彼らにとっては好都合だった。彼らがテーブルへ向かっている間、この小洒落た店にやや似つかない屈強な男3人組は他の客からは奇異の視線に晒された。

「さぁてと、何を食べようか」

 トラヴィスはウェイターから受け取ったメニュー表を眺めた。一応、勤務中だから、酒は飲むことはできないが、他の客はこの時間なのにビールやワインを飲んでいた。

「じゃがいもと鶏肉のシチューか・・・・・・。このソーセージ盛り合わせもいいな。とりあえず、これを頼もう。食後はコーヒーか紅茶だな」

「しかし、3万6000人と観光客でごった返すこの町で、どうやってこいつらを探すんだ?監視カメラの顔認証システムでも使わせてもらうか?」

 リピダルはメニューとタブレットを交互に見ながら言った。床に置いたリュックサック―――中にはサブマシンガンと予備弾倉が入っている―――をしっかりと両足で挟み、奪われないように負い紐は脛に巻きつけている。まさか、このレストランに銃を持ち込んでいる元特殊部隊隊員がいるだなんて誰も思わないだろう。

「ところで、クウェートの王子様はどうしているんだ?さっき、関係者らしき連中を何人か見たが」

 トラヴィスが先程、通りで買った新聞を眺めながら言った。


 彼らが食事をしているレストランの前に、白い高級車が2台、駐車した。そして、アラブ人の男たちが数名、あたりを警戒するように見回し、そのうち2人が店の中へ入ってきた。そして、1人が店員と何事か話すと、一旦、店の外に出て、扉を開けたままにした。リピダルがその様子をチラッと見てみると、その後に入ってきた人物の顔を見て驚いた。その人物は、クウェートの第2王子、ムハンマド・アル=ディン・サビクその人だった。


 サビクは店内を見渡すと、リピダルたちが座っているテーブルの隣の空いているテーブルを指差し、そこへ歩いていくと、お供の人間が8人、付いてきて、彼を護衛する体制を取るように座った。サビクはメニューを受け取り、ウェイターに何事か話すと、ウェイターはお辞儀をしてその場から歩き去った。そして、サビクはリピダルの方を見て、話しかけた。

「今日はいい天気だね」

「え・・・ええ。そうですね殿下」

「おや?俺のことを知っているのかい?」

「はい。しがない観光客ですが」

 リピダルはサングラスを外して、サビクの方を見た。

「ふむ・・・・そうは見えないがね。そこの君の友人も」

「なぜそうお思いで?」

「俺の護衛たちや、軍の特殊部隊の人間たち。そんな人々と君は同じ目つきをしている。少なくとも、君は軍か警察か、その類の組織の人間だ。それも、普通の警官や兵士ではない」

「ご想像におまかせします」

「なるほど。その答えでだいたいわかったよ。これ以上、詮索しない方が良さそうだな。きっと、君ら3人なら、彼らをぶちのめすなんて朝飯前だろう」

 サビクは自分の護衛たちの方を見て言った。

「しかし、そんなことでは困るのではないですか?殿下」

「もし可能であれば、君らを雇いたいところだが・・・・そうもいかなそうだな」

「生憎、我々は別の組織に所属していまして」

「だろうな。いや、邪魔して悪かったよ。じゃあ、食事と観光を楽しんでくれ」


 4月1日 1324時 モナコ公国

 

 リピダルたちはクウェート王子一行よりも先に店を出た。周囲を見てみると、明らかにパパラッチと思われる車に乗った人物を何人も見かけた。彼らはあまり足早にならないように気をつけながら、その場を離れた。 元特殊部隊員が、こんなところで面が割れる訳にはいかない。

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