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議論

 3月5日 1341時 デンマーク オールボー空軍基地


「ダメですね。奴らに接触できない。タンカーへの直通電話は完全にテロリスト側から切断されています。つまり、最初から奴らは交渉する気はゼロですね。緊急用の無線すら切られています」

 人質交渉チームの陸軍心理戦中隊のオットー・ハウゼン中尉と地元警察のゲアハルト・ヨハンソン警部が作戦本部へとやって来た。

「では、何か要求のようなものは?」

ストラウトが言った。

「何も。全くもって要求のようなものを伝えてきません。人質を取るならば、普通は何らかの要求を通すために使うはずでは・・・・」

「違いますね。奴らには別の目的があって"人質"を"一時的"に取っているに過ぎないと思います。実際、すでに人質を数名殺していますから。普通なら、人質は殺さず、交渉の切り札として使うはずです」

 ディーター・ミュラーが口を開いた。

「おい、人質を一時的に取っているだけだと?どういうことなんだ?」

 山本肇にはミュラーが言っていることが理解できなかった。

「普通ならば、テロリストが人質を取るとなると、政府や企業との交渉で自分たちに有利な要件を引き出す材料として使うはずだ。要求を飲まなければ、人質を殺す、と」

「それが普通じゃないのか?我々に要求を飲ませるための材料にしないのか?」

山本が反論する。

「だが、こいつらは・・・・・恐らく、奴らには人質はむしろお荷物で必要のないものなのかもしれない。と、言うのも、今回、人質を取ったのは"やむを得ず"になったのかもしれない。最初から、船員を皆殺しにして、プルトニウムを奪うのが目的だった。ただ、現場で何らかの手違いが起きて、人質を取った。と、言ったところか」

「そんな事あってたまるか」

「まあ・・・これからどうなるかは少し経てばわかるさ」


 3月5日 1352時 北海

 

 テロリストはまだ処刑していない人質を甲板に並べさせ始めた。そして、まるで機械のように一人一人の頭を拳銃や小銃で撃ち、死体を海へと放り投げ始めた。甲板には血や脳症、頭蓋骨の破片が飛び散っている。そして、全員を処刑した後、再び見張りを始めた。


 テロリストのボスは部下の死体の処理を満足気に見ていた。後はここからタンカーごと移動するだけだ。燃料が続く限りはどこにでも移動できる。

「結局、人質を取ったのは失敗でしたね。ただの余計なものに過ぎませんでした」

「だから最初から皆殺しにしろと言ったんだ。そうすれば、後は何も余計なことは考えなくて良いからだ」

「なるほど。で、次はどうする?」

「このままタンカーごと全部いただく。そうだな・・・・我々を妨害するような真似をした場合、核物質をばら撒くと脅せばいい」

「確かに・・・・核物質をたっぷり積んだ船をまさか撃沈する訳にはいかないだろうしな」

「そうだ。おまけに、たとえヘリでを使って乗り込むにも、我々にはミサイルがある・・・・・」


 3月5日 1354時 デンマーク オールボー空軍基地


「なんてこった・・・・まさか、こんなに早く処刑を始めるとは・・・・」

 ハウゼンは愕然となった。通常ならば、まだ人質を生かしておいて交渉の道具に使い始める、という段階になるはずだが、テロリストはここで乗組員全員を処刑したのだ。

「これが通常のシージャックならば、船の持ち主に事情を説明して潜水艦か戦闘機で魚雷か対艦ミサイルを発射して撃沈・・・・・・するところだが、今回はそうもいかない。そんなことをしたら、放射性物質が北海全域に飛び散って、数万年は死の海になってしまう。重油を積まれている時より遥かにタチが悪い」

ヨハンソンは今後の展開を予想した。

 ストラウト中佐とシュレーゼン国防大臣は何事か話している。やがて、シュレーゼンは携帯電話を取り出すと、部屋を後にした。

「こいつは・・・・参ったね。やるとしたら、突入作戦しか無いな。ヘリからラペリングだな。水中スクーターから潜入するのは不可能だ。縄梯子で登るか、船体を爆破しなきゃならない」

 その一方で、"ブラック・スコーピオン"のメンバーは手に入れたタンカーの図面を見ながら突入作戦の計画を練っていた。

「2班に別れよう。片方は艦橋、もう片方は船倉を制圧する。ヘリからラペリングだ。テロリストを完全制圧後、核物質を確保する。夕方、暗くなり始める頃に突入を開始しよう。真っ暗になったら、ミニガンが使いづらくなる」

 アラン・ベイカーが指摘した。

「突入したらミニガンはどの道使えない。味方を誤射する可能性が高いからな。使えるのは、ラペリング前とラペリング中の僅かな時間の間だ」

と、リース。

「では、最初は機銃掃射で甲板上を片付けてから突入、ということか。難しくはないだろ」

ベイカー言う。

「そうだな。それしか無さそうだ」

と、トリプトンは意見を取りまとめた。


「ええ、そうです。もはや打つ手はありません。このままテロリストに核物質を奪われても、タンカーを爆破されても受ける被害は同じです。こうなったら、力ずくでも取り戻すしかありません」

 ストラウトが電話で話している相手は、どうやら首相らしい。

「ええ・・・わかりました。海軍のフロッグマンを出動させます。完全武装で、早ければ15分で鎮圧できるでしょう・・・・はい。では、出動させます。ですが、明るいうちは無理です。敵に気づかれて、オシマイです。はい・・・では」


 夕方にフロッグマンを最初に出動させるという話は、あっという間に基地中を駆け巡った。ハウゼンは反対したが、首相の決定ということもあって、覆すことはできなかった。

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