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リゾート-4

 4月1日 1636時 モナコ公国


 アレクサンドリア発モナコ行きの客船がポール・ド・フォンヴィエイユに接岸した。乗客は、主にエジプトからの観光客やビジネスマン、またはエジプトへ出かけていたモナコの住民だが、その中に、異様に大きなスーツケースを持った男たちが数名、紛れ込んでいた。彼らは大きな、真っ黒なサングラスで目を隠し、周囲の様子をキョロキョロ見回していた。入国審査の係官の質問にははっきりと答え、素顔も見せていた。しかし、彼らはここに来るまでに顔を変え、名前も変えていた。男たちは一切、お互いに目を合わせること無く、それぞれ、別の方向へと散っていった。そのうちの一人が"市民"とすれ違いざまに、コインロッカーの鍵を受け取った。その男は、真っ直ぐにモナコ=モンテ=カイロ駅へと向かった。


 モナコ=モンテ=カイロ駅では、フランスへ向かう電車の時刻を知らせる放送が聞こえ始めていた。ここでは、フランスから、またはフランスを経由して入出国する外国人観光客で溢れ、かなり混雑している。男はあまり怪しまれない程度に周囲の様子を気にしながらも、目的の"3-C9"の番号のコインロッカーへと向かった。やがて、すぐにそれは見つかった。彼が鍵を開けると、中には大きなリュックサックが入っていた。そして、誰も自分のことを気にしていないのを確認し、リュックサックのジッパーを少しだけ開けて中身を確認した。AKS-74Uの銃口が見えたのを確認すると、すぐにリュックサックのジッパーを閉じ、背負ってその場から離れた。


 ポール・ド・フォンヴィエイユでは中型の何の変哲もないクルーザーが停泊した。降りてきた6人の男たちは、入国管理の係官にパスポートを見せた。係官は入念に査証(ビザ)のページを調べた。入出国歴は少なく、それほどスタンプは押されていない。

「入国目的を」

 係官は入国審査カードとパスポートの記載事項を確認して言った。

「観光だよ。久々に仲間同士で休暇の日程が重なってね。で、みんなでここに行こうとね」

「他に申告するものはありますか?タバコやお酒など・・・・」

「いや。無いよ」

「滞在先はどちらで?」

「アダジオ・アパートホテルのモナコパレスだ。滞在期間は7泊8日で」

「わかりました。モナコへようこそ。楽しんでください」

 係官は笑顔を向け、男にパスポートを返した。


 4月1日 1718時 モナコ公国


 山本とネタニヤフは食料の調達をすることにした。ホテルに残ったメンバーに必要なものをメールで聞き出し、帰り道がてら買うことにした。今日のところは、何もおかしなことは起きていないし、妙なものも見ていない。

「とりあえずは・・・・明日のパンとベーコン、コーヒー、紅茶といったところだな」

「そうだな。その辺の市場で手に入るだろ」


 低い鉄筋コンクリートの近代的な建物とレンガで造られた古い建物が混ざり合う市街地が夕日に照らされ、オレンジ色に輝き始めている。高級そうなスーツを着た人々が高級レストランへと足を伸ばし、ラルヴォット通りでは車が行き交っている。ネタニヤフは通りに入って見つけた店に手当たり次第入って、食料品を調達していった。そして、ホテルへと向かう道を歩いた。


 4月1日 1741時 モナコ公国


 ブルース・パーカーはPCを広げ、手に入れた情報を精査していた。カジノの見取り図、武器のリスト。だが、肝心のターゲットとこの計画を立てた人間の情報が無いに等しい。だが、カジノを攻撃しようとしていたのは明白だ。だが、警告をしたところで、政府の連中が聞き入れるとは限らない。パーカーは手に入るだけの情報を駆使して、テロリストがここを襲撃するときに使うであろう武器、戦術、目的を自分なりにシミュレートしてみた。まずは警備員をサプレッサー付きの銃で排除、下手に騒ぎ立てる必要は無い。そして、出入り口を封鎖し、人質は一箇所に集める。監視カメラのコントロールルームを制圧し、出入り口になりそうな場所には特殊部隊の侵入に備え、クレイモアかIEDを仕掛ける。その隙に要求を政府に突きつけるなり、金を奪うなりすればいい話だ。自分たちがやってきた仕事の中には、訓練で対抗部隊を演じるというものがあった。それは、テロリストになりきり、バスジャック、ハイジャック、シージャック、市街地での無差別乱射、無差別狙撃などを行うというものである。ただ、問題は、顧客である、軍や警察などの特殊部隊が、時々、"全滅"してしまい、訓練にならないという事態を引き起こすことがある点だった。だが、そのおかげで"ブラックスコーピオン"の訓練のシラバスは、あらゆる国の警察や軍で教本となり、広く使われている。

「それにしても、ターゲットがカジノだなんて、何を考えているんだ?強盗か?」

 ケマル・キュルマリクは手に入れたテロリストの襲撃計画書を見て言った。

「恐らくは。この国カジノの警備状況ってどうなんだ?ベガスだと、武器を持った警備員が数人、必ず中を見回っている」


 ピーター・スチュアートは見取り図を見て、襲撃するときにどのように立ち回るかを考えていた。まずは門の辺りで警備員をサプレッサー付きの拳銃かナイフで倒す。そして、武器で客とディーラーを脅して縛り上げる。後は脅迫した責任者に金庫を開けさせ、金を奪い、逃走する。

「俺がやるとしたら、こんな感じか。まあ、それにはかなりの人数も必要だが・・・・」

「それに、警備員は武装しているかもしれない。最低でもサブマシンガンかカービンくらいは使うだろ。ウージかAKS-74Uあたりがあれば隠し持つのも簡単だ・・・・」

 柿崎が襲撃に必用になりそうな武器の類を考えてみた。C-4プラスチック爆弾またはRPG-7、個人携行用にAKやウージの類。

「ただ、強盗だとしたら、態々カジノに押し入ったりするか?銀行の方が金はあるだろ。俺なら絶対にそうするな」

 スチュアートは見取り図を眺め、首をかしげた。

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