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次なるターゲット

 3月28日 2216時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社 情報部


 "ブラックスコーピオン"の特殊現場要員は、昨日の朝から今日の夕方まで休みになった代わりに、夜に訓練と待機をすることになった。彼らは出勤するなりいつものように黒いアサルトスーツ、防弾チョッキを身に着け、装填済みのHK-416Dと予備弾倉、手榴弾などを受け取った。周囲では投光機が油断なく、施設内を明るく照らし、特殊な訓練士によって躾けられたジャーマンシェパードを連れた、武装警備員が歩き回っている。最近は、静かになったと思ったら、また騒ぎになる。この繰り返しだ、とトリプトンは思った。しかし、この3週間で大規模テロがヨーロッパとアフリカで余りにも多く起きている。最初は核物質を運んでいた貨物船の乗っ取り―――奪われた核物質の行方は、未だに掴めていない―――、マルタでの毒ガス攻撃、マリでの油田人質事件。更には、アントワープとハーグでの同時多発テロ。そして、昨日の不審な飛行機・・・・。何かがおかしい、と彼は思った。何か、この事件に共通する点は無いか。例えば、犯人の出身地、所有物、所属している組織など・・・・。すると、トリプトンのオフィスのドアを誰かがノックした。

「どうぞ」

 ドアが開き、カート・ロックが入ってきた。彼はノートパソコンとタブレット抱えていて、何やら深刻そうな表情をしていた。

「やあ、カート。何かわかったか・・・・」

「ハワード。ボスがいないから、先に君に話しておく。おっと、この件は既にブルースにも話しているからな」

 ロックは、入ってくるなり、まるでハリウッド映画の登場人物のような口調で、早口で話し始めた。

「おいおい、何だヤブから棒に。まるで・・・」

「いいから聞くんだ。いいか、これから言う話は、全部本気だからな。冗談は何一つ言わないし、言うつもりは無い。いいか、わかったな」

 ロックはまるで蛇のような目つきでトリプトンを見た。その表情から、トリプトンは彼が冗談を言っているのでは無いということを悟った。

「ああ・・・で、何だ?」

「BNDと国防軍情報センターが得た情報だ。北アフリカの過激派組織が、ヨーロッパの幾つかの国に細胞を潜入させているらしい。経由地だが・・・・アラビア半島やトルコ、バルカン半島を辿るルートとモロッコからスペインへ行くルートが考えられる。先日、フランスで、この過激派と思しき連中のアジトをGIGNが急襲した」

「ああ。それで、何が見つかった?」

「モナコ公国のかなり詳細な地図だ。特に、モンテカルロのカジノの地図が何枚も。それと自動小銃、拳銃、手榴弾なんかがな」

「カジノ強盗にでも入るのか?」

「さあな。だが、来月早々に、このカジノにVIPが来るとの話がある。具体的な情報はまだ不明だがな」

「誘拐でもする気なのか?」

「わからん。状況によっては、君らが警備に行くか、現地で万が一、テロが発生したら、出動の可能性はあるな」


 3月28日 2245時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社 訓練施設


 ブルース・パーカーらβチームは突入訓練を始めた。アサルトスーツを着てレッグホルスターにはグロックを入れ、G-36Kをスリングで吊っている。パーカーが指を三本立て、一本ずつ折っていく。そして、拳を握った途端、ジョン・トラヴィスがドアを蹴り開け、スタングレネードを放り込んだ。180デシベルの炸裂音と100万カンデラの閃光が1.3秒間、室内で発生する。マグヌス・リピダルが先陣を切って突入し、マネキンに5.56mm弾を撃ち込む。その後ろから、すぐさまマルコ・ファルコーネが室内に入り、同じように銃を撃ち始める。

「クリア!」

「クリア!」

「クリア!」

 オリヴァー・ケラーマンが先頭に立ち、次の部屋へ向かう。パーカーがベネリM-3ショットガンをドアの蝶番に向け、ファルコーネがスタングレネードを手にする。ショットガンから12番径のスラグが続けざまに2つの蝶番に撃ち込まれ、破壊する。パーカーがドアを蹴飛ばすと同時に、ファルコーネがグレネードを放り込んだ。それが爆発した直後、特殊部隊員が部屋へなだれ込み、銃を撃ち始めた。

「クリア!」

「クリア!」

 特殊部隊員らは素速く、静かに行動した。身振り手振りだけでお互いに合図した。足音を立てないように移動する。足元には薬莢と穴だらけになったマネキンが転がっている。

『訓練終了。さて、さっさとデブリを終わらせたら、一休みしよう』

 クリス・キャプランの越えがマイクを通じて部屋に響いた。βチームの面々は銃から弾倉を外し、ボルトを引いて薬室から弾薬を取り出し、安全な状態になったのを確認して、訓練施設から出た。


 3月28日 2305時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 デンプシーはロックから報告された件の情報が、NATO情報部から自分のパソコンに送られてきているのを確認した。突入により、容疑者が3人死亡し、1人が逮捕されたが、そのテロリストはかなりの重傷で、今は集中治療室送りになっているようだ。この情報を考えると、次のターゲットがモナコ公国であることは間違い無いであろう。おまけに、NATOに加盟していないこの国を防護するには、自分たちのような、『独立した』準軍事組織が必要になってくるのは言うまでもない。明後日には、部下にモナコへ行くように指示を出すことになりそうだ。

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