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不審物-3

 3月27日 0118時 アムステルダム・スキポール国際空港


 トリプトンは飛行機の近くで銃を持って見回っていた。オランダ軍の部隊が機内に入り、機内の捜索を行っている。再度生物、化学剤、放射線の反応が検査され、機内が安全であると確認できるまで、この区画は閉鎖されるはずだ。テロリストの死体はオランダ警察が死体袋に入れて運んでいったが、ここで柿崎が指紋を取ったことに―――指先にインクが付いていたため―――気づいた。オランダの警官は、自分たちの縄張りに勝手に上がり込んできた連中のしたことに対して、軍の将校に文句を言ったが、将校はNATOの方針だと言って撥ね付けた。


 柿崎は指紋を押印した紙を慎重に保護フィルムに入れ、髪の毛を小さなジップロックに入れた。そして、それぞれを同じ人物から採ったもの同士で組み合わせ、ホチキス止めした。

「勝手にそんな事して大丈夫なのか?」

 その様子を見ていたデイヴィッド・ネタニヤフが話しかける。

「僕らはNATOの直属チームだ。非公式だけど・・・・・。でも、これくらいのことをする権限はある」

「後で本部に持ち帰って分析しないとな。まあ、データさえあれば身元がすぐに割れるだろ」

「なるほどな。で、デブリはここでやるのか?」

「いや、本部に戻ってからでもいいだろう。オランダ当局の許可が出れば、すぐに帰れるようにしよう」

 ヘリスポットに置いてあるHH-60Gに燃料が入れられ、ハリー・パークスらパイロットやクルーチーフがすぐに帰れるように、機体の点検をしている。


 ブルース・パーカーはオランダ軍の大佐に突入時の状況を説明していた。テロリストの人数、人相、武器など、自分がわかっている情報の全てを話した。

「了解だ、ミスター・パーカー。我々が今持っている情報と変わらない。では、君らは帰るんだな」

「ええ。本部でNATOのお偉いさんが報告を急げと、ボスをせっついているはずですから」

「なるほど。民間とは言え、NATO直属となると大変だな。加盟国全部から声がかかるんだろ?」

「我々は使い捨ての"便利屋"ですからね。軍に所属していないから、員数外で簡単に使えるし、切り捨てもできる」

 パーカーは苦笑した。

「しかし、君らがいないと、我々だって困るのだよ。近頃じゃ、特殊作戦や裏工作が対テロ・対凶悪犯罪のためとは言え、どの国も予算や人員が不足していたり、法的に難しくなってきている。NATOですらそんな調子だからな」

 大佐はため息混じりにそう言った。オランダ軍はただでさえ規模が小さいのに、NATO各国が対テロにシフトし始めてから、それぞれの国の政府や軍にかかる負担が増大していき、人員は足りないのに任務が増えるという状況が続く一方である。

「しかし、我々もいつでもどこにでも行ける訳では無いのです。特に、複数の場所で同時多発的にテロが起きた場合、全く対処できなくなります。そうなった場合、我々が向かわなかった所では、現地の軍や警察に対処してもらう他ありません」

「確かに、それはそうだな・・・・・」


 3月27日 0129時 スーダン某所


 スーダンは南スーダンが分離・独立して数年後、国内を経済危機が襲い、恐慌状態となった。激しいインフレにより、通過は紙切れ同然となり、更にはそれに伴う暴動や略奪などが相次いだ。アフリカ連合の平和維持軍部隊やEUなど海外からの援助も効果は無く、再び内戦状態となり、政府は崩壊して完全に無秩序な無政府状態となった。そして、そこにやって来たのは、アフリカから海外の勢力を追い払い、アフリカに住む人間だけのアフリカを作ろうとする組織だった。彼らはまず、世界食料計画(WFP)国境なき医師団(MSF)を欧米による第二の植民地支配の始まりだとして彼らを頼る住民もろともに攻撃し、殺害するというテロを何度も引き起こした。先日の油田施設で人質を取ったのは例外だった―――活動資金がどうしても必要だったというのもあった。しかし、それはマリ軍の部隊の突入により、失敗に終わった。


 ジョン・ムゲンベは自分を隠れ家まで運んでいたトラックから降りると、AK-47を持った覆面の男から敬礼を受けた。答礼して、今のところ拠点として使っているバラック群のうちの一つへと向かった。


 ムゲンベがバラックの扉を開けると、50代くらいの、口髭と顎髭を長く伸ばした、男が机に向かって椅子に座り、コーヒーを飲んでいた。この男は、かつてはアフガニスタンを本拠地としていたが、NATOのテロ組織掃討作戦によって隠れ家を追われ、アフリカに流れ着いたのだ。

「ファリド。先日の作戦だが、やはり計画段階から問題があった。タイマーを仕掛けて飛行機を放置しておくだなんて、すぐに怪しまれても仕方がない」

「あれはただの様子見だ。こうなった時、奴らがどういう反応をするのかを確かめるための」

「で、お前の予想としてはどうだったんだ?」

「勿論、予想通りのやり方で、予想通りの結果だ。それよりも次の作戦はどうする気なんだ?ヨーロッパじゃ、どの国も既に警戒レベルが上がって、これまで通りには行かなくなるぞ」

「ふむ・・・・・。ところで、ヨーロッパに潜入させている細胞には、連絡は取れるか?」

「いつでも取れるぞ。何を始めるつもりだ?」

「二番煎じや三番煎じをしても仕方がないからな・・・・・少しやり方を変える必要がある」

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