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備えあれば憂いなし-3

 3月21日 ドイツ シュトゥットガルト郊外 1432時


 カート・ロックは情報部の部屋に並べられたパソコンで、膨大な量のデータと睨み合いをしてた。NATO、CIA、MI5、MI6、DGSE、BND、更にはSVRやFSBから傍受した情報すらある。この沢山の情報の泥の山の中から、砂金を見つけ出すのが、彼の役割だ。その作業は、非常に地味で、複数の同じような情報を照らし合わせ、どれが本物でどれが偽物なのか、信頼性はどれくらいあるのかを判断しなければならない。ロックは額にメガネを上げると、目をこすり、コーヒーを啜った。


 それに対して、警備員や"特殊現場要員"の仕事は楽なものだった。武器を持ち、訓練、警備、待機のどれかをすれば良いだけの話だった。それ以外のことは、事態が起きるか、情報を得てから考えれば良い。今日は、テロリストのアジトを急襲するという想定の訓練を行うことになった。訓練を行うバラックの中には人質とテロリストを模したマネキンが置かれている。相手を見て人質か、テロリストか、撃って良いのか、ダメなのかを1秒以下で行わねばならない。高度な反射神経と判断力を要求される。今日も訓練施設のバラックからは、傭兵たちが銃を撃つ音が聞こえてくる。


「クリア!」

「クリア!」

「クリア!」

 UMP9を持ったトリプトンと柿崎が次の部屋へと向かった。後ろからはバーキンとネタニヤフ、ポワンカレ、ミュラー、山本が付いてきている。彼らはこれ以上は話さずに、身振り手振りだけで合図をする。次のドアが見えてきた。ネタニヤフがスタングレネードを手にし、バーキンがスレッジハンマーを持つ。両サイドではトリプトン、柿崎、ポワンカレ、ミュラー、山本は銃を持って突入に備えた。トリプトンが指を3つ立てて、1つずつ折っていく。最後の1本を折ると同時にバーキンがスレッジハンマーでドアの蝶番を壊した。ネタニヤフがスタングレネードを放り込み、1.2秒後に閃光が煌き、爆発音が鳴り響く。その1.5秒後にトリプトンたちが部屋へなだれ込んだ。


 トリプトンは最初に目に入ったマネキン―――AK-47のモデルガンを持っている―――を撃った。サプレッサーの効果で静かになった銃声が連続する。隣では、柿崎がマネキンに9mmのレンジャーSXT弾を撃ちこんでいる。彼らのロッカーにはこ、これの他にハイドラショック、グレイザー・セイフティ・スラグなどの特殊な弾丸が並んでいる。ライフル用の弾も、先端部だけ真鍮の被覆を剥がした(ソフトポイント)を多様している。

「クリア!」

「クリア!」

 敵は全滅した。そこら中に薬莢が散らばり、穴だらけになった、テロリストを模したマネキンが残されている。一方で、人質のマネキンには、かすり傷ひとつ付いていない。


 3月21日 ブリュッセル NATO本部 1443時


 デンプシーはNATO長官と副長官から、スペインで化学兵器が押収された件の詳細のブリーフィングを受けている最中だった。押収されたのは、メチルホスホン酸ジフルオリドとイソプロピル化合物という2種類の薬品で、これを混ぜるとサリンガスが発生するらしい。恐らく、東京で使われたものとほぼ同じものであろう。また、青酸ナトリウムの錠剤と塩酸の入った瓶も押収されており、犯人は、2種類の毒ガスで攻撃する予定だったようだ。

「マルタに続いて、また化学兵器だ。しかし、どうして奴らはこうも毒ガスにこだわるのか。そこがわからない」

 NATO副司令官のハインリヒ・シュナイダー中将は口を開いた。確かに、化学兵器は脅威で、殺傷力も高いが、生物兵器の方が手に入れるのも簡単だし、威力も桁違いだ。しかも、感染者が発症するまで、誰も使われたことに気づかない。

「化学兵器の方が、攻撃する場所と気象を上手く利用すれば、攻撃するエリアをコントロールできます。しかし、生物兵器はそうもいかない。攻撃がきっかけで世界的なパンデミックという事態になった場合、攻撃したテロリストの側も被害を受けるでしょう。つまり、この攻撃をしてきた連中は、狂信的で破滅的な奴らではなく、確実に攻撃目標だけを殲滅し、自分たちは生き残ることを目標としていると思われます」

 デンプシーが話し始めると、一人の男が睨みつけてきた。その男は、元ベルギーの議会議長で、ゴリゴリの政治家タイプの人間で、軍の特殊部隊で対テロ戦争の現場を見てきたデンプシーとは正反対の人間だ。

「ところで、先日、君は"ブラックスコーピオン"の次期予算案に、対NBC攻撃用の装備や人員の拡充を要求してきたな。これを見越していたのか?」

「そうです。この数週間の化学兵器の押収量ははっきり言って異常です。何者かが攻撃を企てているとしか言いようがありません」

「しかし、問題は、どこの誰がそれをやっているか、か。まあ、いい。ヨーロッパのどこかの大都市で、化学兵器が撒き散らされたり、武装したテロリストが市民を銃撃する前に、それを阻止するのが君らの役目だ。やり方は問わん。好きにしたまえ」


 3月21日 チュニジア某所 1511時


 ジョン・ムゲンベはアフリカや中東各地で集めた傭兵や兵器のリストに目を通した。ファリド・アル=ファジルが金をばら撒いて、部隊を編成しているらしい。ムゲンベは、次の攻撃のターゲットを考えるべく、ヨーロッパの地図を広げた。

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