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出撃前

 3月5日 1134時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル本社


 武器庫に14人の男たちが集まっていた。今回、使用される武器は突入班が使うのがヘッケラー&コックMP5SDとグロック19、スタングレネードだ。一方、ヘリのクルーチーフ兼ガナーであるダニエル・リースとアラン・ベイカーはナイツSR-25を狙撃用に持ちだした。今回は大規模な作戦となるため、2チーム両方の出動となる。さらに、デンマーク海軍から思わぬ申し出があった。ヘリを突入させるまでの間、F-16戦闘機を陽動勢力として低空飛行させるというのだ。これ以上ありがたいことはなかった。更に、天気も味方してくれそうだ。あまり強くない低気圧が北海にせり出してきた。作戦開始時間には、そのあたりは割と強めの雨が降るようだ。だが、風は弱く、HH-60Gを飛ばすには問題は無い状態になる予報である。

「船を奪還したらどうする?リトアニアに一旦戻すのか?」

元海上自衛隊特殊警備隊(SBU)の山本肇が言った。彼は、水上戦と水中破壊工作のエキスパートだ。

「いや、我々が制圧したら、デンマーク海軍のフォロッグマン部隊が一旦確保する。それに備えてフリゲート"ペートー・スクラム"がEH-101を乗せて出動の準備に入っている。制圧したら、無線で連絡しろ。周波数は後で伝える」

元SBSのトム・バーキンがこれに答えた。

一方のデンプシーが出撃の準備をしている部下たちを見守っていた。もしかしたら、その中の一人が、プラスチックバッグに入って、無言で帰ってくるかもしれない。だが、それはお互いわかっていることだった。

「まあ、我々は裏方だ。制圧完了とともに、即座に撤退する。捕虜は取らない。敵には"ダブルタップ"だ」

「なるほど。それなら事は単純だ。では、行こう」


 14人の戦闘員が2機のヘリに分乗した。それぞれキャビンで武器をチェックした。弾丸は9mmのレンジャーSXT弾が装填されている。これは一時、非人道的だとして生産中止となったブラックタロン弾を復活させたものであり、特徴、威力などはほぼ同じだ。軍ならばハーグ陸戦協定でホローポイント弾の使用は禁止されているが、PMCや警備会社ならばそういった制限の対象外となるため、NBC兵器を除けば、どんな武器でも使い放題だ。これには一部の市民団体などが反発しているが、国家が持つ"軍"ではないため、彼らがハーグ陸戦条約やジュネーブ条約に縛られることは無い。


「ようし、エンジンパワー問題なし。こちらブルーホーク、離陸する」

「ゴールドホーク、離陸」

 HH-60Gのコックピットでパイロットのハリー・パークスが管制塔に向けて無線で言った。2機のヘリは重武装の兵士を満載してデンマークへと向かった。


 3月5日 1301時 デンマーク オールボー空軍基地


 デンマーク空軍は狭い国土を守るために近代化改修を施したF-16A/Bをあわせて48機導入している。デンマークの空軍基地は全て軍民共用で、民間の旅客機に混ざってF-16やC-130といった軍用機が離着陸している。そんな飛行場の空軍区画にHH-60Gが2機、着陸した。しかし、それに気づいたのは一部のプレーン・スポッターだけで、一般の乗客は『同じヘリが2機も着陸するだなんて珍しい』くらいの感覚で見ていた。

 

 ヘリから一旦降りた傭兵たちはM4カービンを持ったデンマーク空軍兵の歓迎を受けた。行動開始は暗くなってからの予定なので、まだ余裕はある。

「ようこそ、デンマークへ。と、言ってもそんな余裕は無いでしょうが」

ヨハン・ストラウスト空軍中佐が出迎えに来た。今回、やって来た客は民間人だというが、全くそんな風には見えない。むしろ、まだ特殊部隊員特有の雰囲気や殺気を漂わせている。黒い突撃服に身を包み、肩からはスリングでMP-5を吊り下げ、レッグホルスターに拳銃を入れている。

「本当に、誰も手が出せないのでしょうか?」

ハワード・トリプトンが聞いた。それが最大の疑問点であった。

「現場は公海上です。イギリスもノルウェーも我々もどうすることもできません。しかし、放置するわけにはいかない。そこで、あなた方に声がかかった訳です」

「なるほど。しかし、作戦開始までは暫くはかかりそうです。まず、白昼堂々と攻撃を仕掛けるわけにはいきません。攻撃は暗くなってからになります」

「そうですか。何分、敵の手にある物が物なので、政府の連中は素早い解決を望んでいるらしく、早く制圧しろと我々をせっついています。そうそう、国防省の人間があなた方に挨拶に来ています。まずは、彼に会ってもらうことになるでしょう」

そう言ってストラウトは客人を格納庫の中へと案内した。


 ハンス・シュレーゼン国防大臣はストラウト中佐が連れてきた黒ずくめの格好の集団に目をやった。どうやら"噂"の連中のようだ。今回はどの国も管轄外になってしまったので、NATOを通して"仕方がなく"連中を呼んだ形となった。彼らは他の兵士から隔離された待機室へと案内された。

「君らが・・・・そうか。自信はあるのかね?」

「大臣、お言葉ですが、我々は出動からには成功させる最大限の努力を惜しみません。ただ、現場では何が起こるかわかりません。もしかしたら、テロリストは貨物船のそこら中に爆弾を仕掛けているかもしれない。そうなると、タンカー自体が"汚い爆弾"となって、放射性物質をそこら中に撒き散らすでしょう。そうなると、北海の海域は広範囲に渡って汚染され、ここで採れる魚もカニもエビも金輪際食べられなくなるでしょう。風向きによっては、スカンジナビア半島辺りまで飛んで行くかもしれない。こうなったら、北欧は全滅です」

「確かに・・・・君の言うとおりだ。奴らを阻止出来なかった場合・・・・」

その会話をデンマーク軍の軍曹が遮った。

「緊急事態です!テロリストが人質の処刑を開始したようです!無人機で確認しました!」


 3月5日 1304時 北海


 ステアーAUGが火を吹き、一列に並べられたクルーの一人一人の頭を破裂させていった。実は、テロリストはつい30分前に仲間内で話し合った結果、戦術を変更することにしたのだ。即ち、人質を盾に政府と交渉するのをやめて、核物質自体の奪取という作戦の単純化に乗り出したのだ。そうなった場合、人質はただのお荷物でしかなくなる。それならば、殺してしまったほうが楽だ。よって、テロリストからしてみたら事態の単純化に乗り出したつもりだが、これは同時に大きな一線を超えた事を意味していた。だが、このテロリスト集団からしてみれば、人質を取ることには全くの意味が無かったのだ。


 3月5日 1318時 デンマーク オールボー空軍基地


 「奴ら、一線を超えたな。もう逃げ道は無い」

 シュレーゼンは先程の無人機の映像を見て言った。自動小銃でテロリストが次々と人質の頭を撃っている様子が映っている。これがもし、マスコミが映した映像ならば、レポーターが凄まじい勢いでまくし立てていたであろう。だが、無人機にはそのような思考も能力も持ち合わせていない。

「いや、そうでもないかもしれないですよ」

オリヴァー・ケラーマンが言った。

「どういうことかね?」

「最初から、人質は奴らにとってはただのお荷物だった可能性があります。恐らく、第一目的は核物質の奪取。だから、どこの国の政府とも交渉はしない。つまり、攻撃する時点で船員を皆殺しにするつもりだった。ところが、何らかのトラブルで人質を取らざるを得なくなった。だから、人質がいたのだと思います」

「君がテロリストなら、まずは船員を全滅させると」

「私ならそうします。そして、核物質そのものを"人質"にします」

「そんな馬鹿げたことがあってたまるか」

シュレーゼンはそうは言ったものの、ケラーマンが言ったことが段々と正しいと思えてきた。

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