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急転

 3月21日 マリ プレム郊外 0031時


 事態は膠着していた。マリ軍も"ブラックスコーピオン"も、更にはテロリスト側も、一切の動きを見せることなく、ただただ時間だけが過ぎていく。こうした人質事件の場合、とにかく忍耐力が求められ、さらに試される。数時間で解決するのは、ただ一時の感情に流された、一人の人間―――それも、ナイフか拳銃程度の軽武装―――によるものがほとんどで、重武装した、複数のプロのテロリストが相手となると、交渉はかなり難航するか、相手がそれすらも受け入れないこともある。では、すぐに武力行使をすれば良いかと言えばそうではなく、まずはテロリストの戦力、人質の位置、トラップの有無など、様々な情報を集める必要がある。


トリプトンは、自分のタブレット端末のメールボックスに、メッセージが入っているのに気がついた。中身を見てみると。

『命令 撤退せよ 

 黒さそりは0045時をもって、作戦を中止。以後、ヘリが回収地点に向かうので、αチームは第一回収地点。βチームは第三回収地点へ向かえ。

 これは、NATO外交部上層部による決定であり、質問は帰還後に受け付ける。

以上

 ブラックスコーピオン司令 ユーロセキュリティインターナショナル会長 ジョン・トーマス・デンプシー』

 そのメッセージを見た途端、衛星電話のランプが光った。

「トリプトンです」

『ハワード、デンプシーだ。メッセージは見たか?』

「ええ。これはどういうことです?」

『上層部の決定だ。ヘリが既にそっちに向かっている。空港でドイツ空軍機とイギリス空軍機も待機している。訳は今は教えてくれなかったが、帰還後、NATO本部でこの件についてブリーフィングをするそうだ。勿論、君たち全員が出席しても構わないそうだ』

「わかりました。マリ軍への連絡はどうなっています?」

『既に、NATO副司令官直々に、マリ軍総司令官に連絡している』

「そっちは納得したのですか?」

『ああ。そっちの事情なら、仕方がないと。一つだけ言えることは、この後、私がNATO本部に呼ばれていること。つまり、状況がかなり悪化しているということだ』

「わかりました。撤収します」


 "ブラックスコーピオン"の隊員たちは、隠れ場所から回収地点へと移動を始めた。そして、回収地点でヘリに乗り込み、撤収を始めた。


 3月21日 マリ バコマ・セヌー空港 0135時


 HH-60Gが2機、エプロンに着陸する。既に2機のアメリカ空軍のC-17Aと1機のフランス空軍のA330が待機していた。しかも、NATOの将校が9人もいたのだ。

「一体何ごとですか?あの油田を諦める程の事態になったのですか?」

 柿崎はやや不満げに言う。

「ああ。かなり厄介事だ。それもこの件に関わっていられないくらいのな。既に、フランス、ドイツ、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、デンマークには半ば戒厳令が出ている。装備はこっちで用意してある。既に犠牲者も出ている」

「それで、攻撃してきた奴らは何者なのです?」

「マリの油田を占拠している連中と同じかどうかはわからん。だが、もし、その連中とつながりがあるとしたら、情報部では、油田の占拠が陽動で、こっちの攻撃が本番だと考えている」

「で、本当は、何が起きたのです?」

 柿崎に話しかけていたオランダ軍の大佐は、一呼吸置いてから、事態を一言で伝えた。

「ハーグでVXガスが撒き散らされた。既に一般市民の犠牲者が多数だ。しかも、ハーグでは先日、チャドでの内戦の国際法廷が結審したばかりだ」

「反乱軍の残党でしょうか?」

「かもしれないし、そうじゃないかもしれない。そして・・・・」

 先程まで電話で誰かと話していた中尉が突然、話を遮った。

「お話の途中で失礼します。つい先程、アントワープで第ニのテロ攻撃がありました。しかも、使われたのは、中国製のクラスター爆弾だそうです」

「何?クラスター爆弾?地上で?」

 トリプトンは信じられないといった口調で言う。

「目撃者によりますと、一度目の大きな爆発の後、何十回もの爆発が同じ場所で続いたそうです。この特徴に当てはまるものが、他にあるとでも?」

 トリプトンは押し黙った。これ以上、議論をしていても、ただの時間の無駄であろう。やがて、エンジン音が大きくなり、旅客機がゆっくりと動き始めた。


 トリコロールの描かれた飛行機が、オランダのフォルケル航空機地へ向けて離陸した。ヘリを載せたC-17A輸送機も後を追う。アフリカとヨーロッパ。2ヶ所で発生したテロの関連性についてトリプトンは考えていたが、それよりも目的地までに頭の中身をスッキリさせる方が優先順位が高いと考え、グレープフルーツジュースを飲み、サンドイッチを3つ、胃袋に押し込んだ後は、目を閉じ、眠りについた。

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