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現場と保険

 3月20日 マリ 砂漠 2301時


 進出地点に差し掛かったため、ヘリは低空でホバリングを開始した。両方のドアが開き、傭兵部隊がラペリングで降り立った。周囲は見渡す限り砂漠だ。だが、空には星が輝いており、完全に真っ暗というわけではなかった。周囲には人どころか、ラクダや蛇すら辺りに見られない。問題は、敵が防御線を張っている可能性があることだ。そこで、まずは高所から偵察を行うことにした。

「地図を見た感じ、殆ど隠れられそうな場所は無いな。スコップで蛸壺を掘って、その上からバラキューダーで偽装しよう。ここから歩いて、だいたい1時間ちょっとの所だな。この丘からだと見下ろす感じになるから、丁度いい感じに敵の動きを見張れるな。2チームに別れて行動する。蛸壺はだいたい15メートル間隔にして、原則として一人一つだが、スナイパーチームだけは広めに掘って、2人が隠れられるようにする。何か質問は?」

 トリプトンは誰も手を上げたり、口を開いたりしないのを見て、質問も意見も無いと判断した。

「それでは、後で。解散」


 傭兵部隊は2手に別れ、それぞれ別ルートから現場を目指した。星明かりだけで暗視ゴーグルが使えるため、赤外線(IR)ケミカルライトは必要無かった。これは、星明かりや月明かりが全く無かった時の代替手段だったが、これは文字通り赤外線を発するため、もし、敵が赤外線暗視装置や赤外線センサーを持っていた場合、こちらの居場所を暴露する危険性もある。だから、よほど必要にならない限りは、使わないようにする。柿崎は注意深く周囲を見渡してみたが、自分たち以外の人間はいない。だが、現地民と突然、出くわす可能性もあるし、テロリストが見張りを立てていないとも限らなかった。


 HH-60Gは誰にも見られること無く、バマコ・セヌー空港へ順調に飛行した。だが、用心には用心を重ね、クルー・チーフはミニガンを常に撃てる状態にして、地上に睨みを利かせ続けた。幸いにも、何のトラブルにも巻き込まれること無く、前哨基地である空港へ帰還した。


 3月20日 マリ プレム郊外 2317時


 油田では、既に人質が体力の限界を迎えていた。既に、多くの人間は救助を諦め、絶望していた。時折、テロリストのメンバーがバイクで油田施設の外へと出かけるのが見えるが、政府との交渉へ向かったのか、単なる周辺警戒なのか、それとも他の仲間と連絡を取っているのかはわからなかった。恐らくは、テロリストもそうダラダラと交渉を長引かせるつもりは無いだろう。携帯電話、タブレット、パソコンは全てテロリスト側に没収されたため、外部と連絡を取ることも、情報を手に入れる手段も無い。食料は与えられなかったが、水だけは約6時間置きに、小さな水筒が与えられる。どうやら、向こうも簡単に死なせるつもりは無いようだ。だが、一人が脱水症状を起こしかけていた。人間が乾きから回復するには、水分だけでなく適度な塩分も必要なのだが、人質がこれを与えられることは無かった。


 ブルース・パーカー以下、βチームのメンバーはなるべく姿勢を低くして、バラキューダ・ネットを砂漠用迷彩服の上から着た状態で移動したが、熱が篭って熱中症になる危険性があるため、数十分ごとにそれを脱いでから休憩とる必要が出てきたため、それをやめた。マリ軍は、この周囲に警戒線を張っているようだが、一体、どこにいるのだろうか?砂漠を行くと、時折、植民地時代のものなのか、それとも古代マリ王国のものなのかわからないが、レンガ造りの建物の跡が見える。小銃のレシーバーの上に取り付けたスコープで見てみたが、中に人がいる様子は無い。GPSで現在位置を確認する。目的地まで、あと8km程だ。そこに辿り着いたら、陣地を作り、狙撃と防御、両方に備えるのだ。


 3月20日 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社 2322時


 ジョン・トーマス・デンプシーは、部下たちが作戦行動を開始したという情報を得て、司令室の椅子に座った。正面のメインスクリーンには、NATOが現地で飛ばしているRQ-4からの画像がリアルタイムで表示されている。すぐに、部下たちの動きを追跡するように技術者に命じた。すると、武器を持った部隊と思しき人間が移動しているのが映し出される。

「順調なようだな。それにしても、よくNATOがこの作戦に協力してくれたな」

 デンプシーは未だに、この高価な機材の画像をNATOが2つ返事で提供してくれたことに心底驚いていた。

「あの油田施設群には、西ヨーロッパ各国が既に莫大な投資をしています。イギリス、スペイン、オランダ、イタリア、オーストリア・・・・合計したら、何百億ユーロにもなります」

 カート・ロックがこの疑問に答えた。彼は、この事件が自分たちの縄張りになった途端、徹底的にこのアフリカの砂漠のど真ん中にある油田地帯の事を調べた。

「ところが、管理を委託されているのは民間企業。しかし、マリ政府にはテロに対処する能力が低い。おまけに、簡単にSASや海兵隊を送り込める状況じゃない。体良く使われたもんだな」

「ところで、"保険"は用意しておきましたか?万が一・・・・・」

「当然だ。それを用意せずに、部下を戦場に送ってたまるか」

 ユーロセキュリティ・インターナショナル社では、現場要員を送り出す時は、万が一、作戦が失敗に終わっても、それを命じた政府ないしは企業に言い逃れされないように、一種の"証拠"を"保険"として保管しておく上に、その"保険"が手に入らないと判断される場合には、絶対に仕事を引き受けない。今回の"保険"は、スナイデル・オイル・コーポレーションから来た、フェルナンド・ヴァン=ビューレンにサインさせた書類と、録音した会話記録、応接室でのやりとりを録画したDVDだ。もし、トラブルが起きて、向こうがこっちをスケープゴートにしようとした場合は、その書類の内容、会話記録を欧州の大手マスコミに送りつける、という事ができる。つまりは、こっちは依頼主の心臓を握ったも同然なのだ。勿論、向こうはそういうことを知らないが・・・・・。

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