機上のブリーフィング
3月20日 ドイツ ヴンストルフ空軍基地 1743時
2機のHH-60Gが夕闇の中、着陸する。既に2機のドイツ空軍のC-160Dトランザール輸送機とエグゼクティブ・トランス・エアのG-650が1機、待機している。ヘリと装備は輸送機に積み込まれ、傭兵たちはホルスターに入れた拳銃と予備弾倉だけを持ってビジネスジェットへと乗り込んだ。
「まさか、ここまで御膳立てをするとはな」
豪華なビジネスジェットの機内を見回して、オリヴァー・ケラーマンは目を丸くした。この飛行機はスナイデル・オイル・コーポレーションがチャーターしたもので、恐らく、片道だけでも25万ユーロは軽く超えているであろう。
「こうなると、自前での飛行機がある方がいいのか、それとも海外展開の必要が出る度にチャーターするのが良いのか、少し考える必要がありそうだな。まあ、今回は飛行機の料金は全部あっち持ちだから、気にせずにいようや」と、ネタニヤフ。
「それで、ここからまっすぐバマコ・セヌー空港に直行か?」
「そうだ。そこからはヘリで向かう。遠いから、マリ陸軍が補給地点を造ってくれている。後は、いつも通り。偵察、計画、制圧。以上だ」
3月20日 ドイツ ヴンストルフ空軍基地 1815時
轟音とともにG-650が離陸する。すぐ後ろを2機のC-160が離陸のため、誘導路をタキシングする。軍の基地からビジネスジェットが離陸することは珍しいが、C-160は特に珍しい存在ではない。秘密作戦のため、アフリカ大陸上空に差し掛かると、トランスポンダーは切られ、着陸40分前に再びスイッチを入れる、という手法を取った。
3月20日 ドイツ上空 1851時
機体は水平飛行に入り、機内食が運ばれてきた。多国籍企業の社長や幹部、欧州各国の議員などが利用するチャーター便らしく、食事も豪華で高級な酒も振る舞われた。
「任務の前にこんな豪華なディナーとはねえ」
ファルコーネはフォークに突き刺した鴨のローストを見ながら言った。
「確かに不釣合いでおかしな話だが、これが最後の晩餐になるかもと思うと、しっかり食わないと勿体ないよな」と、山本。
「まあ、これからはクソ不味い携行食かナイフで捌いた蛇くらいしか食えなくなるし、もしかしたらそれすら食えなくなるなるかもしれないんだ。今のうちに、美味いものが食えるんならタップリ楽しもうじゃないか」トリプトンはそう言って、ワインを一口飲んだ。「美味いな。こいつは何だろう?」
食事を終えた傭兵たちは、現場周辺の衛星写真を広げて、改めて作戦計画を練った。
「スナイパーチームとマークスマンチームだけで制圧しよう。突入するには余りにも危険だ。狙撃手はシャルルとディーター、それからマグヌスとオリヴァーだな。他は選抜射手として、武器はM-110を装備。だが、我々が出て行くのはあくまでも最終手段だ。それから、銃口の向きに気をつけろ。油田には撃っていはいけないものがたくさんあるからな。勿論、間違っても手榴弾を持ってきている奴はいないだろう?」
トリプトンは全員の顔を見た。何も表情を崩さないところを見ると、持ってきている人間はいなさそうだ。
「本来なら、強行突入をすべきなんだが、マリ陸軍はそれは自分たちに任せてくれと言っている。まあ、油田施設内での撃ち合いは間違ってもやりたくないな。下手に銃弾がどこかを撃ちぬいて大爆発だなんてことになったら最悪だからな。だから、撃つ時は慎重に撃て。撃てない時は、無理をして撃つな」
「了解だ。スナイパーは何を使うんだ?」
柿崎が訊く。
「こいつだよ」
リピダルは銃のカタログを取り出すと、ページを開いた。サコーTRG-41だ。
「338ラプアマグナムか。50口径じゃないのか?」
「それだと貫通して、突入部隊や人質を間違って撃ち殺してしまうからな。威力と射程距離、戦況を考えると、これが一番だろう。勿論、全部ソフトポイント弾だから、貫通する危険性は低い。まあ、人質がいる時の定石だな」
「まあ、今回は俺たちは基本的に外野だからな。護身用にはMP-7も用意した。これだけあれば十分だろ」
「だな。後は、状況次第でどうするかだな」




