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 3月20日 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社 1554時


 1台の高級車がユーロセキュリティ・インターナショナル社の門の前に止まった。運転手は自動小銃を持った警備兵に身分証を確認された後、すぐに通された。だが、その白いロールスロイス・ゴーストには狙撃手がサコーTRG-41やステアーHi-50の銃口を油断なく向けていた。M-2重機関銃を載せたハンヴィーが高級車を来客用駐車場へと先導する様子は、なんとも奇妙な光景だった。


 フェルナンド・ヴァン=ビューレンはこの会社の奇妙な様子に戸惑っていた。受付にいるのは、にこやかに笑顔で応対してくれた、スーツを着た品の良さそうな黒人と白人の女性二人だったが、すぐ近くに、明らかに軍人出身━━━恐らくは特殊部隊━━━と思われる、FN-SCAR-Mk16を持ち、レッグホルスターにグロックを入れている私服の警備員が6人もいるのだ。そして、彼らは銀色のミラーサングラスをかけているため、全く表情が読めない。金属探知機をくぐり抜け、X線検査機でカバンの中を徹底的に調べられた後、1人の警備員に応接室へ先導された。 

 彼はプロだ。ヴァン=ビューレンは直感的に思った。動きに一切の無駄がなく、エスコートされている間、何者かが襲撃に来た場合、こっちを完全に援護できるが、もし、自分が妙な真似をしたら即座に取り押さえられるような体制を取っているのに気がついた。やがて、応接間に入り、暫くすると会う予定だった、ここのボスであるジョン・トーマス・デンプシーが入ってきた。

「ミスター・ヴァン=ビューレン。遠くからわざわざ有り難うございます」

「いやいや、ミスター・デンプシー。それにしても、到着した時は、驚きました。門の前で、行き先を間違ったのかと思いましたよ」

「ところで、早速ですが、本題に入りましょう。何が起きたのです?」

「まずは、こちらをご覧頂きたいのですが・・・・」

 ヴァン=ビューレンは何やら深刻な表情を浮かべながらポータブルDVDプレイヤーと1枚のDVDを取り出した。そして、そのディスクをプレイヤーで再生すると、砂漠を背景に黒ずくめの男の姿が映しだされた。

『お前たち、西側の多国籍企業は資源開発と偽って、アフリカの貧しい民から財産を奪っている。だが、それももう終わりだ。我々はお前たちの油田施設と従業員を占拠した。銃を持った警備員は、残念ながら既に死んでいる。我々の要求はこうだ。即座にここから全てのお前たちの社員を引き上げ、油田施設は我々に明け渡すこと。それから、その担保として3億ユーロを我々に支払うこと。もし、要求が聞き入れられなければ、人質は全員射殺して、油田施設は爆破する。さらに、アフリカにいる我々の仲間が、他のアフリカの国にいるお前たちの社員を見つけ出して、次々と神の元へ送ってやる。期限は現地時間の3月23日、正午とする。以上だ』

 デンプシーは情報を整理した。まず、この要求は政府ではなく、会社に対して行われていること。当局には、恐らくは情報が入ってはいるだろうが、特にマリ政府はまともに対応できるとは思えない。それに、オランダ軍は特殊部隊があるものの、経験不足なため、このような事態に対処する能力があるのかどうかは未知数である。

「政府には訴えてみましたか?」

「我が国の政府も把握しています。ですが、最近の軍は特殊部隊も含めて縮小傾向にあるため、海外での作戦能力がどれだけあるのかは未知数です。そして、セキュリティ・コンサルティング会社である、フランキ&コールマン社に相談した所、あなた方を紹介されました」

「なるほど・・・・救出作戦は経験が無いわけではないのですが、少々難しいですが・・・・計画は練っておきましょう」


 3月20日 オランダ スナイデル・オイル・コーポレーション社 1614時


「わかった。では、受けてくれる可能性はあるというのだな・・・・既に家族が詰めかけていて、爆発寸前だ。それからマスコミも。5時半には会見を開く予定だ。勿論、彼らのことは・・・・そうだ。そんな事は公表なんぞ出来るわけがない。そうだ。なんとかうまいことやってくれ」

 スナイデル・オイル・コーポレーションのCEOである、ポール・スナイデルは本日37本目のタバコに火を付けた。これから記者会見をしなければならないと思うと、気が重かった。あなた方の父親、夫、息子がテロリストに命を握られています、と言わなければならないのだ。最近の軍や警察はてんで頼りない。マリ軍はこういった状況に対処できる能力が無く、マリ政府は警察や軍の出動を現場周囲の警備以上の事ができない状態だ。


 3月20日 ユーロセキュリティ・インターナショナル社 1632時


 会議室に"特殊現場要員"の全員が集まっている。テーブルには詳細な油田施設の衛星写真と見取り図が広げられている。

「こいつは厄介だな。へリボンをするにも、もし周辺に見張りが蛸壺を掘って隠れていたら見つかってしまい、人質が殺されることになりかねない」

 ケラーマンが油田施設の周囲地図を見て言う。

「装備は・・・そうだな。狙撃ライフル。機関銃も持っていくほうがいいだろう。ようし、リストアップしよう。機関銃はM240だな。狙撃ライフルは50口径か338ラプア・マグナムで。爆発物は避けなきゃならないから、閃光音響弾も含めて、手榴弾は無しだ」

 トラヴィスが装備を軽くリストアップしてみた。

「問題は、人質がいるということだ。接近に気づかれたら、蜂の巣にされて油田も爆破されちまうだろう」

 柿崎一郎が最大の問題を指摘する。

「こうなったら・・・・途中までヘリで進出して、後は徒歩でこっそりと近づく。または・・・・・飛行機で真上まで行って空挺降下をするか。いずれにせよ、残された時間は余りにも少ない」

 ハワード・トリプトンは頭を抱えた。これほどまでに厄介な状況は初めてだ。

「まずは何よりも、偵察をしよう。マリ軍がバックアップしてくれるようだから、必要な物を飛行機に積み込んで・・・・現地まで乗り込もう。今日の深夜には出発できるはずだ」

 ブルース・パーカーがそう言って、会議を締めくくった。

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