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レッド・アラート

 3月18日 1813時 シュトゥットガルト


 ケマル・キュルマリクはアパートの自室でケバブとパンを紅茶で流し込んでいた。ニュース番組で情報を収集するが、殆どのものが既にわかっていること、もしくは余りにも的外れで誤ったものだった。テレビ局に電話をかけて訂正してくれと言いたいことが1度ならずあったが、そうしてしまうと、自分の正体を明かすことになりかねないのでそれをしようとはしなかった。街で起きた交通事故から映画俳優のゴシップものまで、この大手ネットワーク局のキャスターは様々なニュースを『どうだ、俺は無知なお前たちに色々と教えてやっているんだぞ』というような顔で読み上げている。新聞の番組表を見てみると、丁度10分後にヴェトナム戦争のドキュメンタリーが放送されると書いてある。チャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばした。その時・・・・。

『ええーと、ここで臨時ニュースです。たった今入った情報によりますと、ヒースロー空港からマドリードに向かっていた英国航空2657便と連絡が取れない状態になっているようです。繰り返します・・・・』

 頭の中で警報が鳴り、キュルマリクの目が細くなった。そして、すぐに携帯電話を掴むと柿崎一郎の電話番号を表示した。

 

 柿崎はシュトゥットガルトの寿司店で中トロの握りを楽しんでいた。職人はドイツ人ばかりだが、ここは日本の下手な回転寿司チェーンよりはずっといいネタを出してくれる。ここの所、あまりまともな食事にありついていなかったため、この店を見つけてすぐに中に入ったのだ。しかし、それを邪魔するかのようにスマホが鳴り出した。忌々しげ唸ってディスプレイを見た。キュルマリクからだ。

「どうした?」

『ニュースを見たか?』

「今、晩飯を食っているところだ。ここにテレビは無い」

『無い・・・?』

「ああ、自宅で食べているわけじゃないんだ」

『じゃあ、後で確認してくれ。どうもヤバイことが起きたみたいだ・・・』

「なんだ?」

『スペイン上空で、英国航空機が行方不明になったらしい。詳しい情報はまだ無いが・・・・』

「何っ・・・?」

 思わず大声を出してしまった。だが、今のところ、客は自分一人しかいなかった。

「ボスには?」

『まだだ。だが、全国ネットになっている。すぐに全員の耳に入るだろう』

「了解だ。本社に戻ったほうがいいか?」

『いや。こんな時間だし、明日でいいだろう。俺にはどうもこいつは事故には思えなくてね』

「考え過ぎなんじゃないのか?確かに、可能性はあるが結果が出るまではなんとも言えないだろう」

『確かにな。だが、こうも続いていると・・・・』

「そうだな。では明日」


 3月18日 1847時 ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 1台の黒いハマーがゲート前に止まった。それを見て警備員は驚いた。車内につい、1時間前に帰宅したはずのジョン・トーマス・デンプシーがいたのだ。

「非常招集ですか?」

「いや、俺だけだ。帰ってしまうよりはここにいたほうがいいと思ってね。他の連中には、明日来てもらう」

「ところで、何か食べましたか?」

「いや。デスクに着いたらピザでも頼むさ」


 デンプシーは情報センターの椅子に1人で座った。もう、夜勤の警備員以外は引き払ってしまっているため、かなり静かだ。どこもかしこも英国航空機行方不明事件を一斉に報道し、事故の可能性やテロ事件の可能性など、様々なことを話している。西ヨーロッパの地図がCGで表示され、飛行機が消息を絶ったとされる場所に赤いバツ印が浮かび上がる。丁度、スペイン北部のブルゴスいう町の郊外にあたる場所だ。

「沿岸警備隊とスペイン空軍が既に捜索を開始しているようですが、生存者は絶望的ですね。まだ映像が届いていないので・・・・」

 隣でニュース映像を見ている警備員が言う。

「まだ事故なのかテロなのかは判断しかねるな。調査結果が公表されるまで、なんとも言えない」

「ただ、これがテロだとしたら・・・・」

「ああ。かなり厄介な事になる。まず、爆発物もしくは武器が機内に持ち込まれた事になるな。この手のテロは9.11以来だ」

「それに、北海とマルタでテロを起こした連中と関連しているのか、それとも全くの別の組織が起こしたのかも不明ですね。犯行声明が・・・・」

 やがて、ニュースキャスターに新たな原稿が渡された。

「少々お待ちください・・・・たった今、このテロを引き起こしたと主張する人物から、ヨーロッパやアフリカ、中東の報道局に犯行声明と思われる動画が届いているそうです。すでに、動画サイトにも・・・・ええーと、現在、その犯行声明が動画配信サイトに於いて生配信されているとの情報もあります。では、こちらをご覧下さい」

 

 テレビの画面が切り替わり、緑色の覆面姿でAK-47を持った人物が5人、映された映像となった。やがて、コンピューターで処理されたと思しきくぐもった音声が流れだした。

『19世紀から20世紀、お前たちヨーロッパはアフリカを植民地として支配し続けた。そして、お前たちがアフリカを手放した時、そこに残されたのは、貧困、内戦、そして病気だけだった。それにも関わらず、お前たちは何もせず、ただアフリカを放置した。この原因をつくったのはお前たち自身にも関わらず』

 そこで、声は4秒程途切れた。

『我々は、180年前の借りをお前たちに返す。アフリカの同胞たちよ、今度は我々がヨーロッパを植民地とする番だ。我々はお前たちが恐れつつも、愚かにも弄んでいるものを手に入れた。それを使い、我々は地中海を渡り、ヨーロッパを支配する。飛行機の爆破は、ほんの手始めにすぎない。更なる恐怖が、お前たちを襲うだろう』

 ビデオテープは途切れた。明日は確実に国防省に出張だな、とデンプシーは思った。

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