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雷は同じ所に二度落ちるか

 3月16日 0911時 マルタ国際空港


 ガルフストリーム機がドイツへ向けて離陸した。乗っているのは"ユーロセキュリティ・インターナショナル"の実働部隊"ブラックスコーピオン"のメンバーだ。昨日はマルタ軍の将官らに対する事の顛末の報告に1日を費やし、夜になってようやくベルリンに帰る許可が出たのだ。マルタでは、市街地の除染作業は行われていて、テロリストが国内に残っていない事が確認されていた。さらに、"汚い爆弾"も市内で発見されたという。しかし、2週間もしないうちにヨーロッパで大規模テロが2回も立て続けに起きたのは各国に強い衝撃を与えており、再びNATOの臨時会議が行われたという。


 3月17日 0925時 ドイツ 国防省


「それで、誰も生け捕りにできなかったのかね?テロ容疑者は全員死亡とあるが・・・」

 ドイツ外務大臣のウルリヒ・モンケがマルタの事件の報告書を読んで、不満そうに言った。どうやら、この文民出身の男には現場の実情がまるでわかっていないらしい。

「大臣、奴らは自爆攻撃をしてきたのです。そして、部下は危険だと判断し、"排除"するという選択をしました」

「しかし・・・」

 そこで、国防長官のゲオルギー・シュタインホフが手を上げて遮った。彼はGSG-9出身で、何度かテロ事件の現場に出動したことがあった。

「ウルリヒ。彼らにそんな贅沢は許されていないんだ。彼らにある選択肢は生きるか死ぬか。そのどっちかだけで、それ以外というものは無い。その昔、私はただの凶悪犯ならばなるべく逮捕するよう言われたが、テロリストには頭に銃弾を叩きこめと教えられたよ」

 モンケが不満そうに唸った所で、デンプシーは続けた。

「ただ、気になる点はこの10日間で2度も大規模テロが起きたことです。この2つを起こしたのが、果たして同じグループなのか違うグループなのかは判断しかねるところです。我々の情報部もまだ結論には至っていません。現在、様々なパイプを使って情報を集めていますが、ハッキリと言えることはまだ何もありません。それに、例のマスタードガスの入手経路も。これはマルタ警察と軍の仕事なので、我々は基本的にはノータッチですが、要請があればいつでも協力する準備はできています」

 シュタインホフは頷いた。

「NATOから、警戒レベルを米軍基準でいうデフコン2にするように加盟各国に勧告が出ている。化学兵器テロが行われたのだから、核物質が奪われた事もあるし核テロや放射線テロの危険性もまだ高いと言っていいだろう。既に、MI-6やDGSEなんかは欧州や中東、北アフリカ各国に諜報員を増派しているだなんて話も聞く。アメリカエネルギー省と海兵隊はNESTとCBIRFの分遣隊をブリュッセルに派遣するそうだ」

 これは前代未聞の大事になってきた。まるで9.11かそれと同じ規模のテロが再び起こると言わんばかりの状況である。

「それから、今回マルタを襲ったテロリストの事を調べると、おかしな点ばかりが出てきます。自爆する用意をしていたのですが、これは所謂"自爆テロ"を起こすのでは無く、どうも"口封じ"のために自ら用意していたようにしか思えないのです。白麟手榴弾ならば、骨まで焼くこともできるのでDNAを採取するのが難しくなります。つまり、殺されても身元を特定されるのを避けるために用意していた、という可能性が出てきます」

「そうなると、奴らはただの"細胞"の可能性が高いな。裏で操っている大物がいる」

 シュタインホフがそう結論づけた。

「犯行声明などが全く出ていない以上、今回のテロを引き起こした連中の目的はただの虐殺だったと思われます。それに、これはかなり新手のやり方だと思います」

「どういうことだ?」

モンケはデンプシーの考えがわからなかった。

「従来の、つまり我々が"知っている"テロ組織のやり方としては、犯行後、自分たちの主義主張を貫くために何かしらの声明文を発表します。テロというのは、あくまでも、自分たちの要求を世間に飲み込ませるための"手段"の一つであって、"目的"ではありません。しかし、奴らはそのような事をしていません。つまり、テロを起こして市民を虐殺するそのものが"目的"となっているものと考えられます。タンカーからプルトニウムを奪った連中は違いますが・・・・」

「そうなると厄介だな。政治的主張が無い、ただの虐殺が目的ならテロと言えるかどうかも疑問だが、我々は新しいタイプの敵を相手にすることになるのか・・・・」


 3月17日 1411時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 情報部はてんやわんやだった。続発したテロ事件を受け、警備は更に強化されている。敷地内では普段は緊急時以外は車庫にしまい込まれているフォックス対NBC装甲車が数両、広場で待機状態になっている。また、"文民"の職員に対してもパムの注射器とヨウ化カリウムの錠剤、通勤時の拳銃と予備弾薬の携帯を義務付け、敷地に入った時はMP-5サブマシンガンまたはステアーAUGを持たされ、射撃訓練の頻度も普段よりかなり増やしていた。

「なんだなんだ。戒厳令でも出されたのか?これは」

 身分証を警備員に見せたトリプトンたちは、すぐにオーストリア製のブルパップ小銃と予備弾倉を渡されたのだ。マルタで使った装備は外交行囊で送り返している。NBC防護服はテロ事件の後、漂白剤や次亜塩素酸ナトリウムで丹念に洗い、付着した化学物質が残っていないことを確認した後、金属製のケースに厳重に入れられて貨物便で輸送した。

「そんなところです。今は"デフコン2"の状態ですね。いつでも我々が標的になってもいいように、対抗手段だけは用意しておくようにとボスからのお達しです」

「なんとまあ」

「情報部の方は最悪みたいですよ。丸4日間缶詰状態だったので、今朝から半分が休暇を取っています」

「なんてこった」

「そんな訳で、今日から3日間は情報部だけは普段の6割の人員で回します。厄介事にならないことを祈りましょう」

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