Air Raid-1
3月14日 1037時 マルタ バレッタ
「全警察官及び兵士へ、全警察官及び兵士へ。MP-9を持った防護服の集団を撃つな。繰り返す、防護服を着てMP-9を持った連中は味方だ!」
イアキンタが無線で仲間に知らせた。
『了解だ。そいつらが例のNATOから派遣されてきた連中か?』
「そうだ!彼らを援護しろ!」
『了解だ』
「どうやら、我々の情報が伝わったみたいだな。これならば、まともに戦っても大丈夫だろう」
パーカーが仲間に知らせた。相変わらず、テロリストは自動小銃を乱射しながら逃走を続ける。石で出来た中世の建物の外壁が銃弾で削られ、手榴弾の爆発でバイクが吹き飛ぶ。
「完全に戦争じゃないか。奴らの正体は何なんだ・・・・?」
リピダルは全員が思っていることをわざわざ声に出した。
「そんなものは後回しだ!撃て!撃て!」
ファルコーネはサブマシンガンから3点射を放ってテロリストを一人、始末した。
3月14日 1045時 マルタ国際空港
「何だありゃあ・・・」
燃料を満タンにしたヘリの中で待機していたハリー・パークスは目の前の光景に目を疑った。ロシア製のヘリ。Mi-8とKa-25が数機、こちらに近づいてきた。
「嫌な予感がするな。おい、今すぐ離陸準備をしろ。クリアランスを取るんだ」
グレインジャーが化学防護服を準備し始めた。除染は続けられ、ある程度は汚染地域が狭まりつつあるらしいが、油断はできない。
「アレはテロリストのヘリか?」
ダニエル・リースはNBC装備を身に付けると、ヘリのキャビンに取り付けられた2丁のGAU-19/Aに12.7mm焼夷徹甲弾を装填し始めた。
「さもなければ、どっかの金持ちが買ったヘリだろう。だが、見ろ。軍の訓練を受けたパイロットでないと、普通はあんな編隊を組んだりしないはずだ。おまけに、警察や軍、または俺たち以外のヘリの飛行はついさっき禁止されたはずだ」
「燃料は?」
「今朝、満タンにしてもらったばかりだ。すぐに離陸するぞ」
2機のペイブホークはすぐにクリアアンスを取って離陸した。テロ事件で全ての民間旅客機の離発着が止められた事が幸いし、離陸許可はすぐに出た。無線の周波数を変えながら管制塔の通信を聞いていると、管制官が身元不明のロシア製ヘリのパイロットに何度も呼びかけているのが聞こえた。当然、件のヘリから返答は無かった。
「武器の準備はできているか?」
ジョージ・トムソンがキャビンを振り返って言う。
「完了だ。いつでもぶっ放せる」
アラン・ベイカーは機体左側に取り付けられた大きな機関銃を左右に振った。
「よく狙ってから撃てよ。間違っても味方を撃つなよ」
「任せときな」
空港とバレッタ港、市街地を攻撃する予定のテロリストのヘリは途中で二手にわかれた。マルタ国外との交通網を遮断するのが目的のようだ。空港を目指すテロリストはまず、簡易爆弾をキャビンから落として空爆を行う予定だった。コックピットの無線から国際緊急周波数で正体不明のヘリに管制官が呼びかけているのが聞こえたが、今のところ何の返答が無い。
2機のペイブホークが真っ直ぐに国籍不明のヘリへと向かった。まずは空港に接近している1機からだ。グレインジャーはコックピットに置いてあった双眼鏡で目標のヘリを見た。すると、どうだろうか。AK-47やRPDを持った連中が乗り込んでいる。
「おい、アレが見えるか?」
グレインジャーがパークスに言う。
「ああ。敵だな」
「撃墜しよう。おい、ダニー、奴を止めるんだ」
HH-60Gの編隊は後ろからテロリストが乗ったヘリへと向かったが、途中で気づかれてしまった。Mi-8がこっちに回頭すると、テロリストがAK-47を向けてこようとする。リースはGAU-19/Aの引金を引いた。12.7ミリの弾丸の直撃を受けたテロリストの頭が破裂し、ガラスが粉々に砕け、機体が穴だらけなる。ロシア製のヘリは黒煙を上げながらくるくると独楽のように回って、海面に激突した。
「一丁上がり!」
リースが叫ぶ。パークスとグレインジャーもお互いの拳をぶつけ合う。だが、喜ぶのは束の間だった。こちらに大きなヘリが1機、接近してきた。
「なんだあれは?」
パークスが後ろに首をのばそうとする。リースは双眼鏡でそのヘリを見て、信じられないといった具合に後ろを振り返った。
「おい・・・・あれはハインドだぞ!」
Mi-24Dのパイロットは上空のH-60に狙いを付けた。ロケット弾が2発、発射されたが運良く逸れていった。
「クソッ、クソッ!撃って撃って撃ちまくれ!」
トムソンが叫ぶ。キャビンではベイカーがGAU-19/Aの引金を絞り、Mi-24を撃ち始めた。しかし、攻撃ヘリは転進すると分厚い装甲板に守られた側面を向けて操縦士とガナーを守る。しかも、そのままロケットを発射して空港の旅客ターミナルを攻撃する余裕まで見せた。
「なんて奴だ!早く撃墜しないと空港が全滅だ!ベイカー!」
ローレンス・ソマーズが大きな銃を撃っている仲間に言う。
「無茶言うなよ!アレの装甲板がどれだけ分厚いのか知っているのか!?」
「コックピットだ!コックピットを狙え!」
すソマーズが言い返す。
「奴を撃ち落とすのはこっちに任せて、お前らは撃墜されないようにしてくれ!」
「ようしわかった!」
3月14日 1048時 バレッタ市内
石造りの建物が並ぶ中世の町並みが残る年で、現代のハイテク軍用ヘリが空中戦を繰り広げる様子は何とも異様な光景だった。曳光弾が飛び交い、流れ弾が白い建物を削る。下では人々が悲鳴を上げて逃げ惑っているが、マスコミ連中だけは見上げた勇気を見せつけたかったのか、カメラを持って、その様子を捉えようとしている。警察は建物のなかに避難するようにスピーカーで警告しているが、特ダネを追う彼らにとってはどこ吹く風だ。
「馬鹿かよ、あいつら。死にたいのか?」
見上げた建物の屋上や街角に大きなカメラを持った人影を見つけて、警戒に当っている警官の一人がぼやいた。
「飯のネタ探しに必至なのさ。そのためだったら、命も惜しまない」
「全く、アホとしか言い様がない。流れ弾に当たっても助けてやらんぞ」