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化学戦争

 3月14日 0945時 マルタ バレッタ


 警察のステーション・ワゴンがこの国では珍しい渋滞に嵌った。信号の表示が青に変わったが、一向に車が流れが進む気配は無い。

「あーあ、渋滞か。時々あるんですよ。誰か路上駐車をしたのか、それとも事故かな・・・・?」

 イアキンタは前方をよく見ようと首を伸ばした。車列はかなり長く、時折、クラクションが鳴らされたり、運転手が苛立たしげに車の窓を開けて周囲の様子に目配せする。

「ドイツじゃいっつもですよ。そのおかげで、会議や訓練に遅れることもよくあります」と、ミュラー。

 一方、柿崎は携帯電話を取り出すと、300メートル程後ろにいるもう一台のワゴンに乗っているピーター・スチュアートに電話をかけた。

「よおピート、そっちはどんな具合だ?」

『どうもこうも、こっちも完全に動けない。これなら歩いたほうが早いんじゃないのか?』

「ああ。どうしたものか・・・・・」

 イアキンタは諦めて、本部に電話をかけ始めた。

「もしもし・・・渋滞に嵌った。どれだけ遅れるか見当もつかない。交通課の連中を引っ張りだして、交通整理を始めさせてくれ。この様子じゃ、街にいる人間は誰一人昼までに仕事場に行けなくなるぞ」


 パトロールしていた交通課の巡査、マルコ・カトローネは渋滞の原因を探ろうと、車の間を縫うように自転車で通りを進んだ。警官になってこんなひどい渋滞を見たのは初めてだ。だが、連絡が入っていないことから事故では無さそうだ。

「本部、本部。こちら警邏09。ジョー・ガサン通りがひどい渋滞だ。交通整理の応援を頼む」

『こちら本部了解。事故でも起きたか?こっちには通報はない』

「ちょっと調べてみる。多分、ただの路上駐車だろう」


 カトローネはワゴンに近づいた。案の定、運転手はいない。しかし、奇妙なことにキーは刺さっており、エンジンはかけっ放しだ。誰だ?こんな非常識な事をしたのは?と、カトローネはもう少し詳しく車の周囲を調べた。シャーシの下にも怪しいところは何もない。そして、本部に連絡しようと立ち上がった時、彼の意識は途絶えた。


 3月14日 0954時 バレッタ警察 通信局


「何ですか?もう一度お願いします」

『車が爆発したんです!場所はジョー・ガサン通り6丁目!人もたくさん倒れています!救急車を!早く!』

 通信局はパンク状態になっていた。市民から、ジョー・ガサン通りでの爆発に関する通報が相次いだ。


 3月14日 1001時 マルタ バレッタ


「くそう!ガス!ガス!ガス!」

 車内で警察の通信を聞いていたトリプトンが叫んだ。すぐに車内のエアコンを切り、窓が完全に閉まっているかどうかを確認した。傭兵たちが素早く化学防護服を身につける。すると、今度は後方で路上駐車していたジープが爆発する。

「おおっ、なんてこった!最悪だ!」

 彼は、最初はただの爆弾だと思った。だが、暫く様子を見ていると、通りで歩いていた市民が次々と痙攣を起こして倒れていった。

 山本はアトロピンの注射器を取り出して、倒れる市民を救うべく、車から出ようとしたが、すぐにネタニヤフに制止された。

「警部に装備がない」

 イアキンタは私服姿で、NBC防護服は着ていなかった。今、ドアを開けたら防護服を着ている自分たちは平気だが、イアキンタが犠牲になってしまう。

「畜生!」

「このまま走って下さい、警部。車が汚染されている可能性が高いので、どこか人気のない場所へ。そして、除染部隊を用意させてください!」

 トリプトンが叫ぶ。

「了解だ!100mくらいの所に空き地があるから、そこで駐車する!」


 警官と傭兵を載せた車は街の一角にある人気のない更地に駐車した。除染部隊に場所を知らせ、その場で待機して、その間、無線で状況を確認する。彼らは連絡してから20分ほどでやって来た。漂白剤や溶剤で車を洗い、最後に検知器で汚染物質が付いていないことを確認すると、"外に出てもいい"と合図した。最初は防護服を着た傭兵たちが降りて、それからイアキンタが降りた。

「とんでも無いことになったな。放射線物質の次は神経剤か」

 パーカーがぼやく。

「全く、糞だよ」と、グレインジャー。

 だが、これで終わるはずが無かった。

『全部隊へ!市街地で市民と除染部隊や救護班が銃撃されている!畜生!ガスマスクを付けてスコーピオンやカラシニコフを持った連中だ!』

 無線からの声にトリプトンは耳を疑った。

「何だって?」

『機動隊を寄越してくれ!このままじゃ全滅だ!連中、手榴弾まで持ってる!』

「クソッタレ!」


 3月14日 1034時 マルタ バレッタ


 テロリストは遂に姿を現し、本格的な攻撃を開始した。チェコ製のVZ-61スコーピオン・サブマシンガンや中国製の58式自動小銃を乱射し、手榴弾を警官隊や市民に投げつける。警官隊は慣れない手つきでベレッタM92Fを撃って応戦するが、禄に訓練されていないので全く当たらず、逆に敵の銃撃でバタバタ斃されてしまう。

「なんだあれは!?」

 RPG-7を見た警官が叫ぶ。その直後、球根のような形の弾丸が煙の尾を引いて飛んできた。成形炸薬弾がパトカーを吹き飛ばす。テロリストはまた、神経剤を浴びて痙攣している市民に対しても容赦なく銃撃した。悶え苦しむ市民を運ぼうとしたNBC防護服を着た救急隊員が射殺され、手榴弾で吹き飛ばされる。

「畜生!なんて奴らだ!あの屑野郎、中毒を起こしている人間まで撃ちやがった!」


「始まってるな。どうだ?」

 トリプトンはビルの陰から銃撃戦の様子を見た。化学防護服を着た連中がスコーピオンやカラシニコフを乱射している。

「カラシニコフやスコーピオンを持っている奴らが敵だな。警官隊は拳銃だけらしい」と、ネタニヤフ。すると、パーカーが無言でMP-9を発射した。武器を持ったテロリストが倒れる。

「手榴弾も欲しいところだが、持ってきていないから奴らから奪うしか無いな」

 柿崎がそう言いながら銃で敵の頭を吹き飛ばした。

「ナイスショット」

「余り出しゃばらない方がいい。俺らとテロリストは同じ格好をしているから、警官隊には見分けが付かないんじゃないのか?」

バーキンが訝しげに言う。

「そうだな・・・ちょっと待ってろ」

パーカーは無線機を取り出した。

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