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中継点

3月13日 1511時 ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 先程まで降っていた雨は小康状態になっていた。ヘリポートを歩く傭兵たちが既にローターを回しているHH-60Gへと歩いて行く。全員が乗ったのを確認すると、ヘリはゆっくりと離陸し、南へ向かっていった。デンプシーはヘリポートでヘリの姿が見えなくなるまで部下たちを見送った。これは、彼が現役時代、"ジョン・トーマス・デンプシー大佐に見送られた部隊は、必ず作戦が成功する"という事が言われていたので、縁起担ぎとして行っているものだ。

「ボス、見送りですか?」

 フランク・コールという名前の警備員が話しかける。

「ああ。オフィスでじっとしているよりはいい」

「また待機状態ですか」

「書類仕事はだいぶ消化したから、今日は射撃場に行ってみるか」

「そう言えば、去年の余剰金で買った玩具がありますよ。まだボスは使っていませんでしたよね?」

「ああ・・・そうだったな。フランク、君は使ってみたのかね?」

「なかなか良かったですよ。見た目はああですが、45口径なのでフルメタルジャケット弾でも人体制圧力が強いでしょう。ホローポイントやソフトポイントを使ったら、かなりの戦果を上げられると思います」

45口径(フォーティーファイブ)か。アメリカ人は何であんな馬鹿でかい弾が好きなんだ?あれは反動がキツくてどうも好きになれん。ましてや拳銃でマグナムなんぞ。あんなものは、実戦で使うべきではない」

「しかし、GIGNはどうです?彼らは357を使っていますよ」

「マニューリンM75か。使ったことはあるが、やはり俺の好みに合わんな。やっぱりシグザウエルかグロックの9mmか40口径がいい」

「それでは、ストレス解消といきますか。ところで、勝ったほうが今度一杯奢るというのはどうです?」

「乗った」


 射撃場に銃声が響いた。デンプシーはゴーグルとイヤープロテクターを身につけクリス・ヴェクターサブマシンガンを黒い人型の標的に向けて撃った。ボール紙でできた人形には頭部と胸部のみに穴が空いている。隣で撃っているコールもなかなかの腕前で、もしこの標的が本物のテロリストならば最初の一発目で死んでいただろう。ユーロセキュリティ・インターナショナル社では現場要員、警備員に軍や警察などで学ぶ基本的な方法から特殊部隊で学ぶ少々特殊な方法まで、様々な射撃術を徹底的に教えこむ。

「ボス、まだまだ腕は衰えていないですね」

「当たり前だ。事務処理の間を縫って週2回は障害コースで走っているし、3回はこうして射撃訓練をしている。いざという時のために、外出する時は拳銃を持ち歩くことも忘れていない」

「どうです?新しい玩具は?」

「サブマシンガンだから単射した時の反動は気にならんが、連射するとやはりMP-5やウージと違ってコントロールが難しいな」

「慣れもあるでしょう。私は元海兵隊偵察部隊(フォースリーコン)なので、45を使うのが当たり前でした」

 そういうコールのホルスターには独自にカスタマイズされたコルトM1911が収まっている。

「だが、7発で足りるのか?戦場だとそんな弾数で・・・・」

「弾倉をベレッタやシグザウエルの2倍の数を持って行けばいいだけですよ。勿論、その分嵩張りますが・・・・」

「それにシングルアクションだろ?いちいち撃鉄を起こしていたら・・・・」

「薬室に弾を送り、撃鉄を起こしたまま安全装置を掛けておけば良いのです」

「そんな危ないやり方で持ち歩くのかね?」

「そうでもしないとすぐに撃てないんで。撃鉄が上がってても安全装置がかかっていれば大丈夫ですよ。何度かその状態で引き金を引いて試した事がありますが、一度も発射されたことはありません」

「気に入らんな」

「まあ、一度使ってみてください」


 3月13日 1841時 イタリア バーリ国際空港


 2機のHH-60Gが着陸した。途中、オーストリア上空とイタリア中部上空で他のPMCが持っているMC-130Hから空中給油を受けたものの、パイロットの体力には限界があるため、ここで休憩を取ることにしたのだ。ヘリポートではすぐに給油作業が始まった。


 ヘリのキャビンは装備と人員で一杯一杯だった。中で傭兵たちは、膝を抱えるようにして眠っていたが、ヘリが着陸すると同時に起きた。

「クソッ、ここはどこだ?」

 ブルース・パーカーは大きな欠伸をして、キャビンの窓から外を見た。

「イタリアのバーリ国際空港だよ。マルタまであと3、4時間程だな。3時間ほど休憩を取るから、着く頃には日付が変わってる」

パイロットのジョージ・トムソンが言う。

「もうそんな所まで来たのか。あっという間だな」

辺りは暗くなっているが、ドイツと違って雨は降っていない。この町は地中海沿岸部特有の気候で、雨が少なく、冬でも温かい。

「随分時間がかかるな。向こうはイライラしてるんじゃないか?」

と、ケラーマン。普段ならば、ヘリは貨物機をチャーターして運び、人員はビジネスジェットで派遣するのだが、今回ばかりは余裕が無かったため、ヘリでそのまま輸送ということになったのだ。

「今度、ボスにはガルフかボンバルディアのビズジェットを導入するように頼んでみるか?ヘリだと遅すぎる、と。だが、俺は操縦できないぞ」

 トムソンが言い返す。

「ううむ。パイロットがいないのが問題か・・・・」


 3月13日 2035時 イタリア バーリ国際空港


 この時間になっても、この空港ではアエリタリア、ブリテッシュ・エアウェイズ、エールフランスといった旅客機が離発着している。そんな中、ひっそりと2機のHH-60Gが離陸を開始した。これから地中海を南下し、再び空中給油を受けながらマルタを目指す。日付が変わる前には到着しているだろう。問題は、到着した頃に体力が残っているかどうかだ。

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