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Combat Ready

 3月13日 1301時 ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 デンプシーが本社に向かっている途中で、晴れていた空を鉛色の雲が覆い始め、到着した頃には、すっかり雨になっていた。予報では、これからこの先4日間、ドイツ南部では雨になるらしい。昨日はベルリンで一泊し、朝早い飛行機でシュツットガルトに戻ってきた。やがて、本社のゲートとバリケード、機関銃座が見えてきたので、すぐ前で愛車であるM1114アーマード・ハンヴィーを停車させた。

「早かったですね。明日明後日くらいに戻ってくると思っていましたが」

 セパレート式の雨具を着て、グレネードランチャーを取り付けたFN-F2000を持った警備員が声をかけた。

「ああ。今日、朝一番の飛行機で帰ってきた。また"厄介事"が起きている」

 デンプシーはIDを見せた。警備員が持っているタブレットで、従業員とその日に予定されている来訪者のリストと照会させた。

「いつものことじゃないですか。ところで、昼食は済ませましたか?」

「いや、まだだ。食堂にはまだ何かあるかな?」

「この時間ならば、まだ何かしらは残っているはずですよ」

「わかった。じゃあな」

デンプシーは車を駐車場へと向かわせた。


 デンプシーが食堂に着くと、丁度、山本肇がラーメンを啜っているところだった。従業員の出身国が多岐に渡るため、この巨大な食堂では洋食、中華、日本食、更にはロシア料理やトルコ料理、インド料理、ハラールと様々な種類の料理が食べられる。デンプシーはカルボナーラを注文すると、山本のすぐ前に座った。

「おや?早かったですね。もっとかかると思っていましたが」

「ああ。予告しておくと、またまた厄介事だ」

「了解です。会議は何時からです?」

「そうだな・・・もう午後だから、手っ取り早く済ませたい。午前の訓練はどうだ?」

「順調です。またいつでも出動できます。武器の手入れも完璧です」

「それにしても、嫌な天気だ。午後は・・・・」

「今日は会議の後で情報収集ですね。例のタンカー事件で逃げ出したテロリストの動きも気になるところですし・・・・」

「どうやら、そんな余裕は無さそうだ。単刀直入に言うと、任務だ」

「了解です。またひと暴れさせてもらいましょう」

山本は空になったラーメンの茶碗を持って立ち上がった。

「では、会議でな」

デンプシーは立ち去る山本にそう声をかけた。


 3月13日 1400時 ユーロセキュリティ・インターナショナル社


「さて諸君、厄介事だ。ポルトガルとスペインに汚い爆弾(ダーティーボム)が送りつけられた。幸い、警察と軍が爆発する前に阻止したが、同時多発的に攻撃が行われそうになったことから、時間差で攻撃が行われないとも限らない。そして、中東やアフリカから南ヨーロッパの複数の国に向かって正体不明の貨物が向かっているとの情報が入った」

 デンプシーは一度、言葉を切った。

「今回はマルタに飛んでもらう。そこで地元警察及び軍と合流し、警備任務をしてもらう。マルタの警察と軍は小規模で、このような事態に対処する能力が低いため、我々が協力することになった。放射能・生物・化学兵器テロの恐れがあるため、NBC装備を用意。マルタ政府からは武器の使用も許可された。武器は"A"戦隊の武器庫から選んでくれ。何か質問は?」

 ハリー・パークスが手を上げた。

「移動手段はヘリですか?」

「ああ。到着予定時刻なんかは向こうに伝えてある。以上だ」


 現場要員たちは武器庫へと向かった。この巨大な部屋にはコンバットナイフからスティンガーまでありとあらゆる武器が置かれている。

「今回は市街地だから・・・・これとこれだな」

 トリプトンは光学照準器を搭載したブリュッガー&トーメMP-9と9mm口径のヘッケラー&コックUSPを選んだ。これならば、服の下に隠して持ち歩くこともできる。

「弾はどうする?フルメタルジャケットでいいか?」

 ファルコーネが言う。

「いや、市街地戦になる可能性があるからハイドラショックを使おう。貫通して流れ弾が市民に当たる、だなんて状況は避けたい」

 トリプトンはカートリッジの入った箱を並べ始めた。それを開けると、中からは先端部がすり鉢状に窪み、芯の部分が露出した弾丸が出てきた。この弾丸は、人体に命中するとマシュルーム状に潰れるため、貫通せずに体内に残る場合が多いため、貫通した流れ弾が関係ない誰かに当たる、という事態を起こしにくい。ハーグ陸戦条約で軍隊が使用することは禁止されているが、PMCはその適応外だ。

「サプレッサーは?」と、ポワンカレ。

「用意しておくことに越したことはないな。いざ戦闘になった時に派手に銃声を響かせると、特に市街地じゃ一般市民がパニックになって、その後は・・・・わかるだろ?」

 トリプトンが答える。

「確かにな。そいつは避けなきゃならんな」

「おい」

 ケマル・キュルマリクが金属製の箱を2つ持ってきた。蓋を開けると、プラスチック製の注射器が幾つも並んでいる。もう片方には錠剤が入っている。

「NBC兵器テロなんだろ。これを持っていかないとな。万が一吸い込んだり、被曝したりしたらこれを使え」

注射器が入ったの箱のラベルには『アトロピン』、錠剤の箱には『ヨウ化カリウム』と記されてあった。

「ふむ。みんな、天然痘のワクチンを打ったことは?」

 トリプトンの声にその場にいた全員が手を上げた。E・I社では、従業員全員に天然痘の予防接種を義務づけている。

「ようし。ならば問題無いな。エボラか炭疽菌を使われたら、諦めるしか無いな」

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