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 9月1日 1223時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 ジョン・トーマス・デンプシーはタブレット端末で各地から送られてくるレポートに目を通しながら昼食のサンドイッチにかじりついた。白い食パンにレタスとパストラミビーフ、輪切りにしたトマトが挟まれている。

 現在、活動している通常の部隊は、南アフリカで現金輸送車の警備をしているチーム、ジブチで海賊から船舶を護衛しているチーム、タジキスタンで学校の警備をしているチーム、フィリピンで過激派が蔓延る地域で港や小規模な空港を警備しているチーム、コロンビアでとある貿易会社の幹部を護衛しているチームだ。

 後は、情報収集を行っているチームだが、こちらは現地に赴かなくても情報を入手することができる。とはいえ、かっさらっている通信情報は全てどうでもよいものばかりで、どう考えてもジョン・ムゲンベに繋がるようなものは無い。


 情報部にいる連中は、とても我慢強い奴らばかりだ。どうでもいい情報ばかり目を通し、その中から重要そうなものを見つけ出そうとしているのだ。

 その分、現場要員はまだいい。派遣されることが決まるまでは、ひたすら訓練を続け、その時を待ち続ける。今日も屋内戦闘訓練施設から、銃声や爆発音が聞こえてくる。

 今日の午後は、弾薬類がどっさりと搬入されてくるはずだ。拳銃弾や小銃弾、閃光手榴弾や破砕手榴弾、そしてジャベリン対戦車ミサイルや81mm迫撃砲の弾まで注文してある。

 弾薬は実戦よりも、むしろ訓練で消費してしまう。現場要員は、毎週数千発もの弾薬を消費してしまい、両手にはすでに無煙火薬の臭いが染みついている。訓練場の管理をする施設部門の人間の仕事は、射撃場や屋内訓練施設に散らばっている薬莢の片づけだ、と言われているくらいだ。


情報部のワークステーションでカート・ロックは世界各地に派遣されている警備チームから送られてくるレポートに目を通していた。ユーロセキュリティ社はここ数日、世界中に派遣する警備チームに諜報員を数人紛れ込ませていた。そして、更に重要なのが公開情報のチェックだ。

 近年、過激派組織というものは、メンバーをダークウェブ上にて募集したり、自分たちの主義主張を掲載して共感する人間を増やしている。勿論、そのダークウェブ自体はそう簡単に一般人がアクセスできるようなものでないサイトから、URLさえわかれば誰でも気軽に閲覧できるものまで様々だ。

 ロックはレポートの確認を一時中断し、ダークウェブの検索に乗り出した。その中に"ジョン・ムゲンベ"のワードを検索してみた。しかしながら、検索結果はゼロ。ムゲンベは相当慎重な性格の持ち主で、なかなか表舞台に姿を現そうとしないようだ。

 とは言え、ダークウェブ上には少々興味を惹かれるものも少なくなかった。銀行口座の番号や社会保障番号といった個人情報。核兵器の設計図に加えて、重火器、ウィルスや細菌の株、コンピューターウィルス、果てはどこかの国から流出したと思われるプルトニウムの塊まで売り出されていたのだ。

「そいつ、どうします?」

 ロックの後ろから、情報部の若手であるロン・ギーズリーが話しかけた。ギーズリーはユーロセキュリティ社に来る前は、所謂"野良ハッカー"で、様々な国の政府機関や情報機関、企業などのサーバーに不正アクセスをして非公開情報を覗き見するのを趣味としていた。彼はコンピューターセキュリティのプロテクトを破ることを趣味としており、そのせいで数回、警察の世話になったこともあった。

 だが、そんな才能の持ち主を放っておく人間は少なくない。ギーズリーが19歳で英国の省庁のサーバーに不正アクセスしたのがもとで逮捕され、2年の執行猶予付きで3年の禁固刑を言い渡された後、彼の元にはあらゆるIT関連企業からスカウトがやってきた。しかしながら、それはギーズリーにとっては退屈な内容に思えた。

 そして、ユーロセキュリティ社のスカウトマンがギーズリーのもとにやって来た時、彼はその仕事内容に興味を惹かれた。世界中の悪人どもが利用するネットワークシステムに入り込み、情報を抜き取り、必要とあればそれを破壊する。ギーズリーが最も得意とすることだ。

 ギーズリーはこの仕事に即座に飛びついた。そして、今まで彼はテロリスト御用達の様々なダークウェブに侵入し、必要とあれば破壊していた。

「こんなのが野放しになっているのは問題だ。既に情報は抜き取ったから、やることは一つだ。頼めるか?」ロックがギーズリーに意味ありげな視線を送った。

「ああ、そういう事ですか。それなら楽勝ですよ」

 ギーズリーはそのサイトのURLをメモして、自分のデスクへと戻って行った。


 30分後、そのダークウェブに対して複数のコンピューターウィルスが放たれた。誰かがアクセスした途端、ウィルスは作動し、このサイト自体を抹消する。勿論、ギーズリーはアクセスとウィルスの植え付けにはVPNを使用したため、アクセスされた側がギーズリーの端末のアクセス記録を見つけのは非常に難しい。ギーズリーが個人用のパソコンを取り出し、仮想環境に設定してから自分が破壊工作を行ったダークウェブにアクセスしてみた。

 "404 NotFound"という表示になっているのを確認したギーズリーは満足げにコーヒーを一口啜った。しかしながら、こういう闇サイトというのはいくら潰しても、数時間後にはまた新たなものが立ち上がっているものだ。それを見つけては観察し、そこから有益そうな情報を抜き取っては破壊する。これがギーズリーの仕事だ。


 9月1日 1302時 ドイツ ユーロセキュリティ社


 柿崎一郎は射撃場の15番レーンに立ち、イヤープロテクターとアイウェアを身に着けた。そして、拳銃を持った犯罪者の絵が描かれた標的を10mの距離にセットした。

 柿崎は拳銃を両手でしっかりと握り、2回続けて引き金を引いた。最初の1発目は標的の左目に命中し、2発目は鼻のすぐ上に当たる。この標的が本物の人間だった場合、確実に仕留めていたはずだ。

 ここ数日は訓練ばかりだが、ジョン・ムゲンベを倒さなない限りはテロの脅威は消えていない。おまけに、情報部から聞いた話ではもっと厄介なことになっているらしいともいう。それに、ヨーロッパには既にムゲンベの組織の細胞が入り込み、休眠工作員(スリーパー)も少なからずいるはずだ。

 しかしながら、自分がやる事は、命令が下されれば即座に獲物を仕留めに行くことだ。その為の爪と牙は常に研ぎ澄まさねばならない。

「よお、やってるな?」

 柿崎が射撃を一旦休止したところで、隣の射撃レーンに立った人物が話しかけた。ハワード・トリプトンだ。柿崎はイヤープロテクターを外し、トリプトンの言葉に耳を傾ける。

「ああ、こうでもしないと退屈でな。何か面白い話でも無いか?」柿崎が返す。

「無いね。情報部と来たら、ついにはダークウェブにすら手を出すありさまだ。アフリカや中東に派遣したスパイ連中からの報告も、それほど芳しいとは言えないみたいだ」

「そいつは残念だな。いいニュースどころか、悪いニュースすら無いときた」

「全くどうしようもないな。そうはいっても、CIAやSISなんかの連中はどうしているんだ?まさか、俺たちだけに投げっぱなしなんてことは無いよな」

「さあな。最近、連中は俺たちを体よく利用しているみたいだしな。まあ、仕方が無いだろ。特にドイツの軍の情報部とBNDの連中は最近、議会でやり玉に上がっているらしくて自由に動けないみたいでな。それで、誰からも監視されずに好き勝手に動き回れる俺たちの出番って訳だ。まあ、議会にボロクソ言われているのはイギリスのSISやフランスのDGSEも同じみたいだけどな」

 実際、大手メディアではここ連日『多発するヨーロッパのテロ事件。政府の情報組織は対応できず』とクソミソな記事を書かれ続けていた。

「だな。だが、その時が来た時、『出動できません』だなんて言い訳、俺たちには通用しない。それが俺たちだ」

 トリプトンがイヤープロテクターを身に着け、ホルスターからグロック19を取り出すと、柿崎は再び目の前の標的に集中した。今日の訓練は、現時点での射撃の技量の向上と維持のためにあるのだから。 

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