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ブリーフィングと航空撮影

 7月31日 0954時 リスボン 警察署


 ブリーフィングルームとして使用されることになった警察署の集会部屋にはPMCの現場要員と対テロリスト課の警官たちが集まっていた。部屋はあまり広くなく、長い机と椅子が並び、奥に大きなホワイトボードが置かれている。まるで大学の狭い教室のようだ。

 少しだけ待っていると、ロドリゴ・ボルジェス警部が入ってきた。手にはノートパソコンを持っている。ボルジェスは着席し、PCを広げてUSBメモリをバスに挿入した。

「それではブリーフィングを始めます。我々は政府と軍の情報部、そしてEUとNATOからテロ攻撃の可能性があるという警告を受けました。既に特殊部隊GEOと国家憲兵隊のUEIは最大限の警戒態勢に入っています。我々は捜査員を市内各所に派遣し、警戒を強めています。しかしながら、一体何が起きる可能性があるのか。それについては、全く予想が付かない状況です。ですが、ここのところ、異常なほどヨーロッパに置いて頻発しているテロ事件の事例を鑑みるに、何が起きても不思議ではありません。銃の乱射、生物・化学兵器による攻撃、連続爆弾テロ。そのような大掛かりなものでなくても、車で群集に突っ込む、高く飛んでいるヘリコプターから物を落下させるなど、あらゆるパターンが考えられます。警ら組には市内のパトロールを強化させ、爆発物や化学剤を設置される可能性がある場所を徹底的に捜索させています」

 スクリーンにはリスボン市内の地図が表示されていた。ハワード・トリプトンはその地図をじっと眺めた。リスボンには複雑な地下鉄網が張り巡らされており、すぐ近くのアマドラ市にまでつながっている。そして、ヴァスコ・ダ・ガマ橋や4月25日橋といった大きな橋で対岸とつながっている、敵が逃走経路に使用する可能性があるので、何かあった時は封鎖した方が良い、とトリプトンは考えた。

「さて、それでは、質問を受け付けます。そうですね。ユーロセキュリティのみなさんには、まずはこの警備計画での問題点を指摘してもらうことにしましょう。ミスター・トリプトン。何か意見はありますか?」


 7月31日 1011時 リスボン ポルテラ空港


 2機のMH-60Lがローターを回し始めた。スタブウィングには増槽のみを取り付け、多連装M68ロケットポッドやM299ヘルファイアミサイルランチャーは取り外されている。しかし、ドアの機銃マウントにはM240B機関銃とM2重機関銃が搭載されたままだった。

『ポルテラタワーよりブルーホーク、およびゴールドホークへ。離陸を許可します』

「こちらゴールドホーク了解。離陸する」

 ジョージ・トムソンと副パイロットのローレンス・ソマーズはコックピットの計器を確認した。全てが正常な数値を指し示している。申し分ない状況だ。この2機のヘリはポルテラ空港からポルトガル陸軍第2ランサー連隊の駐屯地に移される事になった。その駐屯地にはアマドラ士官学校も併設されている。

 このヘリの駐機場所が移動させられた理由は、ポルテラ空港にこれから多くの旅客航空便と貨物航空便が押し寄せるため、駐機場を開けておいてくれ、という空港側の要請によるものだった。確かに、無骨な艶消しのガンシップグレー塗装の武装ヘリが置かれていた場所は、本来ならばプライベートジェットやビジネスジェットを駐機させるためのエプロンだった。そんなところにこの軍用ヘリが駐機していれば、確かに注意を引いてしまうだろう。一応、ドイツでの登録番号とユーロセキュリティ・インターナショナルの社名とロゴが艶消し黒で描かれているが、遠目からは機体の色に紛れてほとんど見えない状態だ。


 2機の軍用ヘリが離陸していく隣でB777-200ERが滑走路に進入してきた。トムソンは管制官の指示に従い、一旦、エプロンでホバリングを続け、すぐに西に旋回して陸軍の第2ランサー連隊の駐屯地へと飛び去った。


 7月31日 1014時 ポルトガル リスボン上空


 ハリー・パークスはサングラス越しにリスボンの市街地を見下ろした。真夏の南ヨーロッパらしく、カラっと晴れている。エアコンを調整し、出力を強めた。このヘリにはこういう装置は普通は付いていないが、ユーロセキュリティ社が導入した時は、シコルスキー社とアグスタ・ウェストランド社にこの装備をオプションで発注した。おかげで、暑い夏や寒い冬でも快適にフライトできる。

 キャビンにいるクルーチーフのダニエル・リースはヘリの天井と自分の体がモンキーハーネスでしっかり固定されているのを確認した。機体に取り付けられている機銃には弾薬ベルトは装着されていないが、すぐ下に置かれている弾薬箱には7.62㎜弾と12.7㎜弾がベルトリンクに繋がった状態で装填されている。今回、この2つの機銃にしたのには理由がある。ポルトガルに派遣される数日前に、ヘリに搭載するはずだった4丁のGAU-17/Aのうち3丁にトラブルが発生し、メーカーに送り返さねばならない事態になったのだ。普通ならば、予備のミニガンを武器庫から引っ張り出してくるのだが、チームを統括するトリプトンとパーカー、そしてパークスともう一人のパイロットのジョージ・トムソンが話し合った結果、無難にブローニングM2重機関銃とFN-M240D汎用機関銃を搭載することにした。

 リースは12.7㎜弾が入った弾薬箱を開け、状態を確認した。金属のベルトリンクで大きな弾薬が連なっている。これを連射で撃ちこまれたら、普通乗用車なんて簡単に鉄屑になってしまう。"ブラックスコーピオン"の狙撃手であるシャルル・ポワンカレはこれを長距離狙撃に使うこともあった。

「おい、ダニー。何か面白い物でも見つけたか?」

 コックピットからロバート・グレインジャー話しかけてきた。

「いや、全く。まあ、今日は普通の飛行訓練の予定だったしな。でも、最低高度は守れよ。あまり目立ちたくはないからな」

「わかっているさ。まあ、警察署に缶詰よりはずっとマシだろ。まあ、ハワードたちに土産は買ってやれんがな。まさか、土産物屋の駐車場にヘリを下ろす訳にはいかないからな」

「全くだ。それよりも、面白い物を持ち帰ってやることくらいはできそうだな」

 ダニエル・リースがカバンからキャノンのデジタル一眼レフカメラを取り出し、MH-60Lの窓越しに上空から見下ろした風景を撮影し始めた。南部は比較的古い建物の赤いレンガの屋根が目立つが、北西部は近代的なオフィスビルが建ち並ぶ、なかなか面白い街だ。リースがこの町を風景を撮影した理由は、観光目的の他、作戦を行うに当たって正確な地形を把握するためだ。この写真は帰還した後にプリントして、作戦ブリーフィングに利用することになる。2機のヘリによる空撮はかなりスムーズに進み、正午を少し過ぎた頃には2機の軍用ヘリはポルテラ空港のヘリパッドに向かって帰還し始めていた。

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