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 3月5日 2054時 デンマーク βチーム


 追跡の基本はあまり焦らず、かつ素早くが基本だ。余り焦ってしまうと、相手に気づかれるし、かと言ってのんびりしていては、逃げられてしまう。特に用心深い相手だった場合は、足跡などの痕跡をきれいに消して、更には大回りしたりUターンしたりして、追跡を振り切ろうとするであろう。幸いにも、テロリストは追跡されていることは全く気づいていないらしく、足跡が単純に、真っ直ぐ道を進んでいる。これはかなり好都合だが、油断は禁物だ。おまけに、敵が途中でクレイモアを仕掛けていないとも限らない。この対人地雷の仕掛け線(トリップワイヤ)は髪程の太さしか無い上に、半透明なので気づきにくい。だから、パーカーは部下にほぼしゃがんだ状態で前進するように指示した。


 銃を持ち、慎重に進んでいく。途中でストラウト中佐にテロリストの仲間の存在の事を連絡することも、彼らは忘れなかった。今のところ、地雷や即席爆弾(IED)の類は見つかっていない。余り慎重になりすぎるとテロリストを逃してしまう恐れがあるが、かと言って急ぎすぎる余り、罠にハマるような真似は避けなければならない。しかし、この事が、後に彼らのこの作戦の結果を決めてしまうとになろうとは、誰一人考えなかった。


 3月5日 2102時 北海 タンカー


 タンカーに大きなヘリが2機、接近してきた。このヘリはMi-26と呼ばれる、世界最大のヘリコプターだ。やがて、ヘリのうち1機がタンカーの上でホバリングを開始すると、胴体下が開き、そこから大きな消火用のバケットが垂れ下がってきた。


「ようし、そのまま。そのまま・・・・ストップ!」

 テロリストはコンテナから取り出したプルトニウムの容器を消火用バケットに入れ、釣り上げ始めた。元々は、石油を入れて海上にばら撒くため用意したものだ。にやがて、ある程度ワイヤーを巻き上げると、ヘリは飛び去っていった。


 3月5日 2104時 デンマーク コングシュレ海軍基地


「おい!アレは何だ!」

 シュレーゼンはモニターに映ったヘリを見て叫んだ。そして、そのヘリがコンテナを吊るして飛び去っていく。

それを見たストラウトは驚愕した。まさか、こんなものまで用意していたとは!どうやら、テロリストの戦力を過小評価していたようだ。

「空軍に連絡しろ!アレを追跡するんだ!」


 3月5日 2108時 デンマーク スクリュズストロプ空軍基地


 2機のF-16AM戦闘機がアフターバーナーの軌跡を描きながら夜空へと向かっていった。パイロットは追跡する相手については、何の情報も受け取っていなかった。しかし、スクランブル発進の命令が来たため、即座に戦闘機を発進させた。

『こちらヴァイキング41、敵機(ボギー)の情報をくれ』

「ヴァイキング41へ。情報は不確かだが、北海上空のヘリを追跡せよ、とのこと」

『了解だ。追跡はどこまでなら許可されるんだ?例えば、他国の領空に侵入しない程度とか・・・・』

「とりあえず、今はこっちから逐一指示を出すから、それに従ってくれ」


 3月5日 2107時 デンマーク コングシュレ海軍基地


「なんて失態だ!特殊部隊員を殺された挙句に、次は核物質を強奪されるだと!?1時間後、いや、30分後には大ニュースになっているぞ!『デンマーク海軍、核物質の護衛に失敗。テロリストに強奪される』とな!明日の議会は紛糾だ!」

 そうまくし立てるシュレーゼンをよそに、ストラウトは無線を取り出した。


 3月5日 2108時 デンマーク


「何ですと!はい、了解です。なんとか捕まえてみます・・・はい。了解です」

 トリプトンは無線を切ると、仲間の方を見た。

「ストラウト中佐からだ・・・・奴ら、ヘリでプルトニウムを持ち去っちまった!」

「何だと!」

「マジかよ・・・・・」

 次々と驚きの声が上がる。正直、トリプトンもこの事態は全く予想していなかった。

「どうするんだ?このまま追跡を続けるか?」

 山本肇が隊長の指示を促す。

「今、追っている奴らだけでも捕まえよう。中佐は"生死に関わらず捉えてくれ"と言っていた」

「了解だ。いざとなったら、"頭に二発"だな」

「ああ。いつも通りだ。追跡のペースはもう考えなくていい。奴らを捕まえるか、撃ち殺すんだ」


 βチームも同じ指示を受け取った。追跡のペースを少し上げる。しかし、クレイモアなどの罠の可能性も考えると、思うように動けなかった。

「クソッ、早くしなければ逃げられちまうぞ・・・・」

オリヴァー・ケラーマンがぼやく。こっちが慎重に行動している間に、敵からかなり引き離されてしまっているに違いない。すると、大きな重低音が聞こえてきた。

「おい!」

 マルコ・ファルコーネが上空を指さした。巨大なヘリが、消火用バケットを吊り下げて飛んでいる。

「何だ。アレは・・・・・」

 マグヌス・リピダルは呆然とした様子で、そのヘリを見上げた。あんな馬鹿でかいものは見たことがない。

「Mi-26、世界最大のヘリだ。まさか・・・・」

「そのまさかかもしれん」

ピーター・スチュアートが全員が思い当たったと考えた結論を言い始めた。

「奴らは、本来はヘリで脱出し、更に石油の一部を消火用バケットに入れて持ち去ろうとした。そのまま北海にばら撒くか、持ち帰るかしようとしたんだろ。ところがどっこい、積まれていたのは石油じゃなくてプルトニウムだ。そこで、このままバケットを使って頂こう、ということにしたようだ」

「クソッ、あれじゃ核物質が飛び散るから、撃墜できない。頭の回る奴らめ」

 リピダルが悔しそうに言う。だが、ケマル・キュルマリクは別の結論を出していた。

「なあ、核物質が持ち去られたなら、テロリストごとタンカーを撃沈できるんじゃないのか?少なくとも、あそこに残っている連中を掃討することはできる」

「簡単には撃沈できんだろ。少なくとも、持っている会社が・・・・」

 突然、銃声が会話を遮った。縦断が木や地面にめり込む。

「クソッ!伏せろ!伏せろ!」

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