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善人の銃と悪人の銃

 7月14日 0912時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 柿崎一郎は、空一面に広がった鉛色の雲から雨がパラパラと降る中、ハマーを運転し、いつものように出勤した。ホルスターにはヘッケラー&コッホSFP-9TR拳銃、マガジンパウチには予備弾倉を入れている。休日となった昨日、街歩きをしている時にふらっと立ち寄った銃砲店で買ったばかりの銃だ。レインウェアを着てスリングでHK416を肩から吊り下げた警備員に身分証を見せた。トランクの中とシャーシの下のチェックを終えた後、敷地内で車を走らせ、指定されたスペースに駐車させた。

 まだ特殊現場要員は数名しか来ていないらしい。レインパーカーのフードを被り、情報部の建物の方へと向かった。屋根の付いた櫓では、アキュラシー・インターナショナル社製のAWM狙撃ライフルを持ったスナイパーが見張りに付き、敷地内の車道では、M2重機関銃を上に載せたハマーが通り過ぎていく。手にHK-416を持った警備員たちが隊列を作って歩いていき、すれ違いざまに柿崎に敬礼して通り過ぎていった。柿崎も答礼する。さて、まずは、武器を受け取らねば。


 ユーロセキュリティ・インターナショナル社の警戒レベルは、未だに低下する兆しを見せていなかった。現場要員と警備要員は敷地内に於いては例外なく、自動小銃と予備弾倉、更にはM26破砕手榴弾とM84特殊閃光音響弾、OKCコンバットナイフを携帯することとされている。柿崎はHK416と予備弾倉、各種手榴弾を受け取った後、情報部のセクションへと歩いていった。


「やあ、イチロー。一昨日は大活躍だったみたいじゃないか。SAS出身の教官部隊を全滅させたんだって?さっき、ハワードから話を聞いたところだ」

 カート・ロックが柿崎に話しかけた。目の前のPCの画面には、世界地図と様々な情報が表示されている。

「ああ。さて、そっちの様子はどうだ?」

「アフリカと中東各地に情報収集部隊を配置した。例のデジタル情報収集装置も仕掛けさせた。今頃、設置した場所であらゆる無線通信や有線電話、携帯電話の通話情報、ネット接続情報を吸い取っているはずだ」

「こんな事を、いち民間警備会社がやっていると知られたら、マスコミの阿呆どもが、上へ下への大騒ぎをするだろうな」

「まあ、あれは、見た目は単純に電子機器を中に入れたプラスチックのケースにしか見えないからな。普通の人間には見破れまい」

「さて、どういう通信情報を拾い上げるか。暫くは様子見になりそうだな」


 7月14日 0917時 西サハラ ダフラ港 1031時


 ジョン・ムゲンべは、埠頭を歩きつつ、目的の船の方へ向かっていった。港の近くでは、トラックに乗った部下たちが待機している。西サハラは、政府というものは存在していないが、領有権を主張するモロッコに反発する政治組織が幾つも存在し、政権樹立を狙っている。しかし、現状は無政府状態であるため、テロリストにとっては格好の隠れ場所の一つとなっている。

 ここにいるのは、殆どが密輸業者、テロリスト、その他、犯罪組織に関わっている人間だ。無政府状態になっている地域であるがゆえ、隠れ場所としては最適である。さて、幾つも並んでいる漁船の集団の中に、ようやく目的の船を見つけた。


 埠頭に横付けした船の近くには、既に部下がトラックを何台か停車させていた。この船は、はるばる北朝鮮から東南アジア、西アジア、そして希望峰をぐるりと回って西サハラにやってきたのだ。

「ボス」

 部下の一人がムゲンべに気づき、手を振った。ムゲンべも振り返す。他の部下は、船から降ろされた荷物である木箱の蓋を空け、検品を行っていた。

 荷物の中は、北朝鮮製のAK-74のコピー品である58式自動小銃、RPG-7、73式機関銃、70式拳銃、50式短機関銃だ。北朝鮮は、米ドル札で金を払うとこちらが思っている以上のサービスをしてくれる。しかも、この国が密かに売りさばいている小火器には一切刻印が無く、足がつきにくいので、テロリストや犯罪組織御用達だ。

「どんな感じだ?」

 ムゲンべの質問に、部下は58式自動小銃のボルトを引き、銃口を海に向けてからトリガーを引いた。カチッと、撃針が動く金属音が聞こえる、

「問題なさそうです。弾薬は・・・・・確か、スーダンで調達でしたね」

「ああ。武器の隠し場所はわかっているな」

「ええ、予定通りの場所で。変更は無しですか?」

「ああ。無しだ」


 7月14日 1033時 ドイツ ユーロセキュリティ・インターナショナル社


 ケマル・キュルマリクとマグヌス・リピダルは、柿崎が買ったばかりのSFP-9TRに興味津々だった。キュルマリクはSFP-9TRから弾倉を一旦外し、スライドを引いて薬室に9mmのハイドラショック弾が入っていないことを確認し、ストライカーをコックしてから銃口を床に向けて空撃ちした。カチッという、乾いた金属音が聞こえる。

「それにしても、グロック19よりもトリガーのキレが格段にいいな。スパッとした感じで、引いていて気持ちがいいな。マグヌス、試してみろよ」

 キュルマリクがリピダルにSFP-9を渡した。リピダルもトリガーを引いてみた。

「ほう。こいつは・・・・・いいな。どこで売っていたんだ?」

「シュトゥットガルトのガンショップさ。店の人間の話によると、最近、入荷したばかりらしい。俺が買った時点では、まだ買った客はいなかったらしい。確か、20丁ほど入荷したとか言っていたな。客からの評判が良ければ、入荷数を増やすそうだ」

「ふむ。ボスにも、うちの装備に加えないか掛け合ってみるか」

「気に入ったかい?」柿崎がリピダルに言った。

「ああ。後で、そのガンショップの名前を教えてくれ」

「さて、これから射撃訓練だったな。屋内の訓練施設で」

「ああ。ところで、イチロー。訓練じゃそいつを試すのか?」リピダルがSFP-9を指差して言った。

「当然。そうしないと勿体無いだろ?それに、うちの規則じゃ、私物の拳銃を持ち込んではいけないという文言は無いしな」

「確かにな。実弾を撃った時の感想、聞かせてくれよ」

 柿崎、キュルマリク、リピダルは、まるで新しく買ってもらったおもちゃのことのようにSFP-9のことを話しながら、訓練施設の方へと歩いていった。

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