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夜間演習-3

 7月12日 1956時 ドイツ レッツリンゲン 陸軍戦闘訓練センター


 柿崎一郎は、クリームの虫除け薬を丹念に顔に塗った。その後、黒と深緑、黄緑のドーランを顔に塗る。この時期は、虫によく刺される。地域によっては、虫刺されは重大な感染症を引き起こす危険性が高いため、虫対策は重要だ。勿論、各国軍の個人携行する装備品の中には、虫除けの薬剤は必需品となっている。

 ハワード・トリプトンがメンバーに合図を送り、一度、Uターンするということを指示した。教官は、一度、来た道を戻ったり、滅茶苦茶な方向に歩いたり、時には隊列を乱して歩くなど、徹底的に追跡を撒くためのテクニックを駆使しているようだ。

 さて、これは究極の鬼ごっこだ。そして、本番では、実弾での撃ち合いというおまけが付く。向こうが投降してくれるに越したことは無いのだが、普通、それはあり得ない。大抵の場合、逮捕されるよりは、軍の兵士や警察官、そして一般市民もろともに自爆したほうがマシだと考えるような連中だ。そんな状況になる前に、そいつらを地獄送りにするのが、自分たちの仕事だ。


 ユーロセキュリティの教官たちは、静かに、かつ、素早く移動した。彼らは、内部の部隊の他、ヨーロッパの軍や警察、国境警備隊の特殊部隊に対して特殊作戦の技量維持のための訓練を行っている。彼らはテロリストの戦術をも研究し、更にそれを再現する訓練もしている。

 教官たちの出身部隊は多岐に渡った。グリーンベレー、SEALs、SAS、GSG-9、COMSBIN・・・・・。年齢層は高く、40代後半から50代半ばまでの隊員が殆どだ。確かに、特殊現場要員や通所の警備・護衛部隊の人間に比べたら10から20も年齢が高いが、技量だけはまだ本物だ。

 教官たちは、身振り手振りで合図を送り、時折、地図を見て逃走経路を確認した。逃走中のテロリストは、警察や軍の追跡を振り切るために、人質を取ったり、捜査を錯乱させるために、爆弾を仕掛けたりすることも考えられる。模擬戦とは言え、プロ対プロの戦闘だ。より賢く、抜け目がなく、そして、運を味方につけた方がこの模擬戦に勝つだろう。


 7月12日 2001時 西サハラ某所


 ファリド・アル=ファジルは部下たちを連れて、砂漠の中、キャンプに向かっていた。全員がAK-47やSVD、PKMそしてRPG-7で武装している。その中には、10代の少年も多く見られた。それにしても、ジョン・ムゲンべは、人を攫って来させると天才的な能力を発揮している。アフリカでは、武装勢力が村を襲い、子供を攫って洗脳し、味方に引き入れるというケースが相次いでいる。特に、ソマリア、西サハラ、スーダン、ボツワナ、ナミビアなどで顕著だ。こういう事は、アフリカや西アジア、中央アジアで顕著だ。

 一部の国、そして町や村などでは、PMCを雇ってこういった武装組織から守ってもらうということをしているが、それには非常に高額の費用がかかるため、そのような事ができるところは、ほんの一握りだ。


 だが、先日、リベリアでの作戦では、運良く、民間軍事会社の拠点を襲撃し、打撃を与える事ができた。しかし、このような幸運は、長くは続かない筈だ。次の作戦をどうするのか、しっかりと考えねばならない。軽率に行動すれば、敵の注目を集め、無人機がやって来て、上空からミサイルを発射してくるだろう。ジョン・ムゲンべとも緊密に連携を取りつつ、次の作戦を進めなければならない。


 7月12日 2007時 ドイツ リッツリンゲン 陸軍戦闘訓練センター


 ブルース・パーカーのチームが、まだ新しく、そして、自分たちが履いているブーツの靴底とは違う形の足跡を発見した。ケマル・キュルマリクがUMP-9の銃床を伸ばし、歩幅を測った。おおよその歩幅の違いで、敵が何人のチームで行動しているのか推測することができる。ややあって、キュルマリクは指を4本立てた。敵は4人一組のチームになって行動しているようだ。

 敵は事前情報では6人。と、言うことは、他の2人は、別行動を行っているようだ。理由は何であれ、敵は二手に分かれている。もう片方の連中は、αチームに追跡してもらう事にしよう。パーカーは、無線のマイクを口元に持っていき、低い声で囁いた。

「こちらパーカー。敵の片割れは、4人で行動している。残りは2人だけで行動していると推定される。我々は、4人の方を追う。そっちは、2人の方を探してくれ。オーバー」

 無線の相手である、αチームのリーダー、ハワード・トリプトンは声で答えず、無線のスイッチを2回、切り替えた。カチッカチッ、という音が聞こえてきた。了解、という意味だ。


 今日が晴れていて、本当に良かった。雨が降っていたら、足跡は雨に流され、消えていってしまっていただろう。まずは、この足跡をたどり、『逃走中のテロリスト』を仕留める事にしよう。

 

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